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第13話

 これまで、敬意を向けられたことはあっても、こんな反応をされたことはなく、だからこそ……ハルは少年に強く魅かれ、自分だけの眷族(けんぞく)にしたいと思うようになっていった。  神にとっての眷族とは、心を通わせた獣のことを指すのだが、人であってはならないという決まりもない。  力を使って思い通りに操ることなど簡単だが、その選択肢はハルにはなかった。  まず、ハルの前では口を開かないチカに食事をとらせるため、同じ器から自分が食べて、それを目の前へ置いてみたり、ベッドの上でも遊べるような玩具を与えてみたりした。  そして、夜中にうなされている時は、小さな手のひらを握りしめた。  名前が無いのは不便だから、『チカ』という名を付けたのもハルだ。  そうやって、少しずつだが距離を詰め、愛情を注ぎ込む方法で、チカはだんだん側に寄っても怯える様子を見せなくなり、半年が経過する頃には、ハルの手から直接食事を食べるようになっていた。 *** 『チカ、チカ』  大好きな男の声が耳許から聞こえてくる。心配そうに響く声音に起きなければとチカは思うが、意志と裏腹に意識は再び深い場所へと墜ちていく。 ――俺は……なに? ハルは……。  戻ったばかりの過去の記憶は、かなり辛いものだった。それをハルへと話したいのに、今日はさまざまなことが起きすぎて神経が消耗しきっている。 ――神って言ってた。ほんとに?  疑問に対する答えを知らないチカだから、そこから正しい答えなど……導き出せるはずもなかった。   『ハル、なまえ、ハル』  この屋敷で目を覚ましたのが、これまではチカの一番古い記憶だった。  最初に見たのがハルの顔で、大きな体と屈強な獅子のような容貌が心底恐ろしかったことを、今でもはっきり覚えている。  言葉は全く通じないし、人種も違っていたけれど、彼が優しい人物であるということは徐々に理解できた。  自分自身を指さしながら、何度も名前を連呼するから、声に出すのが怖かっただけで、ハルの名前はすぐに覚えた。

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