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第14話
最初こそ、自分の名さえ分からないことに焦っていたチカだけど、ハルの優しさに満たされるうち、悩みや不安は消えていき……それと引き替えに新しい知識はスポンジが水を吸い込むように増えていった。
『少し一人で外へ出てみるか?』
チカが屋敷へと住み始めてから半年以上が過ぎた頃、窓の外を指さしながら、ハルがそう告げてきた。
優しげな笑みと手振りによって意味の大半は理解できたが、この時はまだ声にだして返事をすることが出来なかった。全く喋っていなかったから、声を出すのが怖かったのだ。
それまで何度か彼と二人で散歩に出かけたことはあったけれど、一人で外を歩いたことはまだ無かった。
だから、多少の不安はあったけれども、冒険心が勝ったチカが何度も大きく頷き返すと、ハルは頭を撫でてくる。
『こっちだ』
手首を取られて案内され、扉が大きく開け放たれた。
『いい天気だ。俺は薪を切ってるから、一人でその辺を少し歩いてみるといい。見えない場所へは行っちゃダメだぞ』
背後から肩を軽く押されて、二歩、三歩と歩み出したチカは、踏みしめた土の感触と視界に入った花畑に、すぐに自分を止めることができなくなる。
何度かハルを振り返りながら、少し進んでは花を眺め、また進んでは空を見つめ、そうやって、夢中で散策しているうちに、森の中へと入り込み……気づけば綺麗な碧をたたえる泉の縁へと立っていた。
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