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第16話
***
「んっ……うぅ」
抱きしめられる心地良さのなか、ようやく瞼を開いたチカは、心配そうに自分を見下ろすハルに向かって笑みを浮かべる。
「よかった。目が覚めた」
心底ホッとしたように呟くハルの頬へと手を伸ばし、「夢じゃない」とチカが囁くと、怪訝そうな顔をした彼は、
「怖い夢でも見たのか?」
チカの指先へとキスをしながら、柔らかな声音で尋ねてきた。
「うん。すごく……おかしな夢。赤い髪の人から、ハルこと、聞いて……それから、お母さんの、夢……」
そこまで言葉を紡いだところで、ハルが息を飲む気配がする。
「それから?」
声の表面は優しいけれど、明らかに変わった彼の声音に、夢心地だったチカの頭はようやくはっきり覚醒した。
「……あ、ちがう。いまのは夢の話で……」
「分かってる。チカは夢の話をしてる。その続きを聞きたい」
夢の話の続きを聞きたいとハルは言っているだけなのだから、ただ話せばいいのだけれど、喉に言葉が引っかかる。
それくらい、静かな彼の圧力に、チカの心は動揺していた。
「話して」
「……わからない」
「本当に?」
心の中を見透かすような彼の強い瞳の色に、吸い込まれそうな感覚に陥り、チカはゆるゆると首を振る。
「……ハル、怒ってる? 家族としかしちゃいけないこと、僕がしたから? お母さんの夢、見たから?」
彼に嘘など吐きたくない。だから、チカは必死に言葉を紡ぐが空気は更に緊張を増した。
「ファネスに何をされた?」
「……ファネス?」
「赤い髪の男だ。ここに来たのだろう?」
どうしてだろう? ハルは全てを知っている。ならば、チカが悪いことをしたから、これまで一度も目にしたことがないくらい、怖い顔をしているのだ。
「ごめん……なさ……」
謝ろうとして口を開くが、威圧感に萎縮してしまい、ガチガチと歯が鳴ってしまう。
「ハル……ごめ……っ!」
返事をくれないハルへ向け、再び謝罪を言いかけた時、思いもよらない大きな声がすぐ真上から鼓膜をつんざいた。
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