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第19話

――心が読めたらどんなにいいか。  チカの心だけが読めないなんて、神とはいえ、なんと己は非力なのだろう? 「いっ、いたいっ!」  意識を飛ばしてしまいそうだから力任せに髪の毛を引くと、細い体が弓なりに反り、それから痙攣しはじめた。 「……ハル、ハルぅ」  嗚咽混じりの細い声。  ガクリと崩れる華奢な肢体。  そこでようやく我へと返り、チカの後孔から性器を引き抜く。  息をしているか確認するため、うつ伏せになった体を返すと、萎えた小さな性器の先から白濁が尿のように溢れた。 「チカ」  名前を呼ぶと瞼が震え、僅かに瞳が開かれる。顔は青白く、唇も色を失っていたが、こちらを見つめる黒い瞳は生気を無くしていなかった。 「……泣かないで」  細い腕がこちらへと伸び、頬へと指で触れてくる。  そして、「ハル、大好き」と掠れた小さな声で言ったあと、チカは意識を失った。 「チカ」  今度は呼んでも返事がないが、浅い呼吸を繰り返す彼を起こすつもりはハルにはない。  酷いことをしてしまったという後悔が、ここでようやく押し寄せてきた。 「可哀想に。悪いことは一つもしてないのに」  不意に……背後から声が聞こえるが、ハルは少しも驚かない。彼がどこかで見ていることは、薄々感じ取っていた。 「太陽神が何の用だ」 「ハルが大切に黒の一族の末裔を育ててるって聞いたから、見てみたくなった。それだけだったんだけど、あんまり可愛かったからつい……ね。分かってるよ。もうしない」  ハルが睨むと太陽神のファネルは首を竦めるが、この男の腹の中を読むことなどできやしない。 「取り上げないのか?」 「全ては神の思し召しだからね」  飄々とした様子で告げてくるファネルの言葉に唾を飲む。  チカの記憶を呼び起こしたのはファネルの仕業に違いないが、ハルの暴走を止めなかったのは、彼なりの理由があるのだろうか? 「黒の一族……か」  そうだろうと思っていたが、深く考えたことはなかった。どちらにせよ、チカがチカであることに変わりはない。  この世界は、神が支配する領域と、竜族が住んでいる領域、そして……神の支配を嫌って北へと移り住んだ人の領域とに分かれているが、争いを好まぬ神にとってはどうでもいいことだった。

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