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第23話

 *** 「チカ、ただいま」 「……ん」  優しい声。額へとチュッとキスを落とされ、チカは重たい瞼を開く。 「おかえりなさい」  ソファーで本を読みはじめたのは覚えているが、どうやら眠ってしまったらしい。(かたわ)らへ本を置いてから、ハルのほうへと両手を伸ばすと、覆い被さってきた彼の腕に強く身体を抱きしめられた。 「変わったことは無かったか?」 「ないよ。ハルは? 街の様子はどうだった?」 「いつもと同じだ」  触れ合うだけのキスをしながら、そう告げてくるハルの表情は、“あの日”を境に憂いを帯びて、以前のような笑みを象ることはない。  本人はそれに気づいていないようだけど、無理に微笑む姿を見るたびチカは胸が苦しくなった。 「今日はチカが好きな蜂蜜を買ってきた」 「ありがとう。ハル、あのね……」 「なに?」  頬へと優しく触れる手のひら。  そこから伝わる温もりに……今日こそは伝えなければと思い、チカは唾を飲み込んだ。 「ハル……僕は、なにがあってもハルの家族で、だから、だから……ゆるして」  どう伝えればいいか分からず、ずっと考え続けてきた。怒っているなら許してほしいし、前みたいに笑って欲しい。 「記憶、戻ってるんだろう?」 「戻ってない」  あの日のあと、断片的だがここに来る前の記憶が戻ってきたことも、赤い髪の男についてもチカは一切喋っていない。  どうしてかは分からないけれど、ハルはチカの記憶が戻るのを嫌がっているみたいだから。  未来についてもあれから全く見えないから、そんな力が今の自分にあるのかさえも分からない。 「僕の家族は……ハルしかいない」  ここへ落とされたその瞬間から、チカの世界の全てはハルだ。どれだけ自分が大事にされてきたのかをチカは自覚している。  だから、あの日は酷く辛かったけれど、それでもハルの家族でいたい。ハルと一緒に暮らしたい。  その気持ちは間違いなく愛と呼ばれる類のものだが、チカは言葉を知らないから、どう言えばいいか分からなかった。

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