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「魔法は、こんなことまで出来るのですね…」 「多少魔力のある者ならある程度の経験があれば皆使えるものです」 ほう、と感心したように鏡を見つめるリュカに、その反応も懐かしいものだとロイランドは苦笑する。 変装魔法自体は単純なものだ。恐らくあの少年…確かラジルと言ったか。彼も、魔力適性があると言っていたからコツを掴みさえすればすぐ覚えられるその程度の代物だ。 リュカは魔法にも、変わった自分の姿にも興奮しているのか鏡を見ては「別人のようだ」と呟いている。 そしてふと、ロイランドを見て柔らかく微笑んだ。 「貴方は髪色や瞳の色が変わろうとも美しいままなのですね」 ぞわりとロイランドは鳥肌がたったのを感じた。 「(なんなんだこのガキは…!)」 出逢った時からそうだ。何故かロイランド事を惜しげも無く愛おしむリュカは、何かにかけてはロイランドを褒める。初めこそ媚びを売っているのかとも思ったが、どうやらそれが本心であることなど、リュカの態度を見ていれば嫌でも分かる。 ロイランドが美しく聡明であることなどロイランドが一番よく知っているのだが、どうにもこの男に言われる度に首の当たりがゾワゾワとして気持ちが悪い。 「ではロイランド様から変装の魔法もかけていただいたことですし、お忍びとはなりますが今日は二人で街を見て回りましょう」 「(あぁくそ…変装魔法なんて掛けなきゃ良かった)」 あの女物のヴェールを被るよりかはマシだと思ってやったことではあるが、ロイランドは早々に後悔したのだった。 すっかり民に紛れ城下を散策するロイランドとリュカ。初めこそ気まずさがあったロイランドではあるが、街を見て回るうちにそれも薄れ今では純粋に楽しんでいた。 流石というべきか。ウルガルフは大国と言われるだけあって街がとても栄えていた。アシュルーレが栄の無い国なわけではないが、なんというか、活気がすごいのだ。なにせ人が多い。アシュルーレ城下の軽く3、4倍以上の人が市場をごった返しにしている。 「凄いですね…」 「ここは特に賑わっていますから。はぐれないようにだけ気をつけてくださいね」 「えぇ」 街の人は皆笑顔だった。勿論国の至る所隅々までそうとはいかないだろう。だがそれでも、笑顔が耐えない街があるということはそれだけ統治が上手くいっていることに他ならない。 それに先程から、ずっと思っていたことがあった。 「おやあんた!リュカ王子に似てらっしゃるねぇ、そのお顔に産んでくれたご両親に感謝しな!ほら、うちの果実はうまいんだ、まけるから寄っていきな!」 「まぁまぁまぁ、リュカ様にそっくりねぇ。今日はいい日だ。嬉しい思いをさせてくれたお礼だよ、お代は結構だ。代わりにうちのプリカを食べておくれ」 「お!兄さん方男前だな!そっちの兄ちゃんはリュカ様に似てらっしゃる!ついでだね、良かったらうちの店も見てってくれ!」 どうやらリュカは国民にえらく人気があるらしい。 今は変装魔法で別人になっているリュカでも、本来のリュカの顏と似ているという理由だけであちらこちらから声がかかり店に寄ってって欲しいと請われる。 国民と王族の距離がここまで近いのはそれだけ信頼されているということ。そうでなくとも普通は一線を引かれる立場に置かれるはずなのだが。 「リュカ様は国民に大変人気のようですね」 「皆優しいのです」 リュカはそう言って目を伏せる。ロイランドは気づくことなくなく「ですが」と言葉を続けた。 「国民に好まれるということはそれ程信頼されているという事です。民が国を、ひいては王族を好ましく思っていることは国のさらなる発展に繋がります。貴方は彼らが優しいからと言ったが、真に平和でなければ人は人に優しくなど到底できない」 ロイランドは決してリュカを慰めるつもりで言ったわけではなかった。ただ事実として、そう述べたのだ。戦火の多い国等では、例え血縁者であろうとも関係ない。皆が皆、今自分で生きることに精一杯なのだ。誰しもがそうだとは言えないが、貧しい土地では心も貧しくなる。少なくとも、ウルガルフはそういった意味でも栄えているのだ。 「ロイラーーーー」 「お兄さん方!今ちょうど美味しいシュルガが出来たんだ、ぜひ食べてっておくれ!」 「シュルガ…?」 「ラムを砕き練り薄く伸ばして焼いた作った生地に、プリカやスジャなんかの果実を挟んで食べるお菓子です」 「へぇ」 「…食べてみますか?」 アシュルーレでは聞いたことの無い食べ物の名前と見た目だった。ロイランドがどうしようかと悩んでいるうちに、リュカが店主からシュルガを二つと購入し、そのうちの一つを手渡してくる。 「…毒味はいいのですか」 本当は、王族でも民の、それも市場で売っているような物を口にするのかと問いたかったのだが、うっかりと少し嫌味のある言い方をしてしまったかもしれない。 だが、そんなロイランドの考えも杞憂だったらしく、リュカは「はい」と答えた。 「確かに王族としては気をつけなければならない事ではあります。ですが私は王宮ででるただ豪奢な食べ物をずっと食すよりか、民の食べ物を、同じものを食べたいのです」 今城下ではどんなものが流行っているのか、どんなものが好まれているのか、それを自身の目で直接確かめるのが楽しいのだとリュカは言った。 ロイランドからすればリュカは異端だ。小国の王子であるロイランドでさえ、日々の食事の毒味は欠かせなかったし、こうやって城下で民と同じものを口に入れた経験などまず無い。そもそも、ここまで民との距離が近くないのだ。 「ロイランド様、どうぞ冷めないうちに」 「え、えぇ」 どうぞ、と促されて、ロイランドは手に持っていたシュルガを恐る恐る一口齧った。 初めて食べたシュルガは、甘かった。 ■ シュルガのイメージは簡易版クレープ

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