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「…ちょっと派手すぎないか、それ」 「王子が一体何を言ってんですか」 「そうですよ。パーティなんですから目立ってなんぼです。皆様にロイランド様の美貌を見せびらかせましょう」 あわよくば全員虜にしちゃってください!そう言って更に装飾品を足そうとしてくるラジルの手を、止める術もなくされるがままに飾られていく。 最近ルナだけでなく、ラジルも言うようになったなとロイランドは窓の外を遠く見つめる。心を開いてくれている証拠なのかもしれないが、いかんせん扱いが雑い様な気がする。 「ロイランド様、動かないでください。乱れます」 「ああ…悪い…」 今日のパーティ、ラジルは随分と張り切っているようだ。どこの御令嬢よりも綺麗になりましょうと、数日前には山ほどの衣装を数時間も掛けて選んでいた。付き合わされたロイランドは着せ替え人形状態で、終わる頃には疲労によりベッドへと倒れ込んだ程だ。 結局碧色を基準とした無駄にヒラヒラとした格好に決まったのだが、これでは有事の際に動きにくそうだ。布が分厚いため帯刀していてもバレないかも知らないが、出来ることならば抜刀する以前に逃げ出したいところ。そう伝えれば裾部分は中心部と違って薄めの布で作られているため、破いてしまえば良いと言われてしまった。 なんというか豪胆だとは思わなくもないが、せっかく衣装提供側からの許可が出たのだ。困った時には遠慮なく破かせてもらおうと腹に決めた。 ちなみにだが。「化粧もしましょうか」と道具を一式持ち込まれた時には流石に全力拒否をした。なんなら魔力消費の多い結界を張ってでも閉じこもってやろうと思ったほどに、それだけは受け付けられなかった。ラジルは少し名残惜しそうにしていたものの「ロイランド様は素顔でも綺麗ですからね」と直ぐに諦めてくれたのが唯一の救いか。後ろでただ笑っていたルナには一ヶ月の間腹を下す呪いを掛けてやったが、恐らく跳ね返されていることだろう。 「殿下、今日ばかりは俺も殿下をお側でお護りすることが出来ません。重々、お気をつけください」 「分かってる」 パーティにおいて側に護衛をつけたまま会場を練り歩くのは御法度だ。呼ばれたパーティに不満や猜疑心を感じているという意思表明になってしまうから。 だから例えこのパーティーを警戒したとしても、表立って防御に出ることは出来ない。つまりロイランドは丸腰で敵と戦いに行かなければならないということに他ならないのだ。 この派手な装いも、真に皆を虜にするためにしている訳では無い。小国の王子だと侮られないための武装だ。貴族社会において様式の美とはそれだけの力がある。 「ロイランド様」とラジルが名を呼ぶ。見れば扉にはリュカが立っており、彼もこの国王族のみが扱える国紋があしらわれた華美な服を纏っている。普段のふわふわとした雰囲気は何処にもなく、緊張しているのか硬いその表情は却って彼を王族たらしめている。思わず、口角が上がるのが自分でもわかった。 「…元より美しい人でしたが、着飾ったあなたは言葉では言い表せないほど綺麗だ」 「はっ、大国ウルガルフの王族はどうやら口も達者らしいな?」 「事実ですので。むしろこの気持ちを隠すことの方が、私にとっては恥ずかしいことだ」 「……」 「ロイランド様…?」 「あぁ、リュカ様気になさらんでください。殿下のこれは照れているだけですので」 「お前は本当に死にたいようだなぁ?ルナよ」 突然思ってもみないことを横から口だされ、ロイランドはにこりとその麗しの顏に笑みを貼り付けたまま指を向ける。その先端は光の礫におおわれていて、徐々に細く鋭い氷柱を形成していた。小さいともいえど、当たれば重体は免れないだろうそれに、ルナはなんでもないように「とんでもない」と首を竦めた。 「まぁいい、俺が美しいことは今に始まったことじゃない」 「……」 「ルナ」 「まだ何も言ってないですよ、殿下」 このまま押し問答をしていては堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題。そう考えたロイランドは、ため息を着くことで早々に話題を切り上げ、再度リュカへと向き直った。 「…緊張は解れたのか」 「お陰様で」 その表情は先程までの硬さはなく、いつも通りのリュカへと戻っている。些か威厳にかけるような気もするが、やはりこちらの方がしっくりくると、ロイランドはひとつ頷いた。 ただその緊張の解し方がロイランドとルナの応酬を見てだと言うのなら少々不本意ではあるが、変に気負われて失態を犯すよりかは幾分かマシだろうと思うことにする。 「では行きましょうか」 エスコートか、そっと手をさしのべられる。 まるでレディのような扱いに一瞬顔を顰めたものの、立場は婚約者だ。文句を口に出すことなくロイランドはその手の上に自らの手を重ねた。 果たしてこのパーティが穏便に終わるだろうか。 どこか嫌な予感がする。そんな予想を頭の隅に、一同は豪奢な扉と対峙することとなった。

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