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【3】

 友規と尚登、二人の生活が続いていた。  尚登は知り合いの協力を得てノートパソコンや着替えを用意してもらい、銀行口座を凍結されているために使えないカードや現金は後日返済という形で少額ではあるが工面してもらっていた。  その中から食料品などを買い、友規のために夕食を作ることが日常となりつつあった。  友規の方も、マンションの家賃は二人で住んでも変わることはないが光熱費や食費などは黙っていても嵩んでいく。昼のカフェでのシフトを増やすよりも、夜の仕事で客を多くとればそれなりの収入は得られることを知っているだけに、杉山に相談を持ちかけ少々特殊なオプションサービスも受け入れることにした。  拘束プレイやSMの類は客のレベルにもよるが実入りが大きい。何より有利なことは、友規の容姿をみて加虐心を煽られない客はいないということだ。  会員制で審査も厳しい優良店で特殊性癖に特化した店が施すようなサービスを期待する者はまずいない。そういうマニアは自然とその店へと流れる。だから身の危険を感じるほどのプレイを強要されたことはなかった。  二十五歳とはいえ、一晩に二~三人の客を取った友規の体はさすがに疲労に耐えきれず悲鳴を上げた。しかし、マンションに帰れば尚登がいるという安心感がその苦痛をなかったことにしてくれる。  彼に気付かれないように念入りにシャワーを浴び、手足に残った傷は「階段でコケた」と言い訳した。  その度に「気をつけろよ」と柔らかな微笑を見せるようになった尚登とは裏腹に、友規の心は激しく揺さぶられる。  親友と恋人に会社を乗っ取られ、すべてを奪われた傷は日を追うごとに癒えている。でも、尚登が友規に心を開いていけばいくほど、友規の心は固く閉ざされていった。  尚登の知らない顔で体を開く自分……。以前は何とも思わなかった行為自体も後ろめたさを感じる。  目を潤ませて客の肉棒を喉奥まで咥えこんでいると知ったら……。  友規はそう思うだけで体が震え、恐怖に足がすくむ。  これだけは絶対に知られてはならない秘密。尚登には、深夜までカフェや居酒屋などでバイトをしていることになっている。  疲れた顔は見せたくない。でも……淫乱な男娼の顔だけは絶対に見せられない。  だから、彼の前ではいつも笑っている。これも偽善――なのかと自問自答しながら。  カフェのバイトを終え、店のテリトリーである繁華街へと向かっていると、ポケットの中でスマートフォンが振動した。  液晶画面をタップし、それが杉山からのメールだと知ると友規は小さく吐息した。慣れた指捌きで店のシステム管理ページへ移動すると今夜の顧客データが表示される。 「え……と、笠原(かさはら)さんね。新規の客でSMプレイ希望……うわ、オプション全部のせかよ! しかも宿泊(ステイ)か……。尚登になんて言おう」  オプション欄のチェック項目をしげしげと眺め、その料金の合計額を見つめる。  料金システムは時間も細かく指定されている。普段は二時間程度のショートコースが主流で、延長する場合はその都度料金が加算される。だが、午後十時くらいから翌朝までという長時間のコースになると宿泊扱いになる場合もある。  これに出張費やオプション料金を含めるとゆうに十万を超える額となる。  新規の客で初指名、しかもロングステイというのは友規も経験がなかった。尚登と暮らしだしてからはショートコースのみ受け入れOKにしていた友規だったが、料金の六割が自分の懐に入るとなれば何とか言い訳を考えて了承したいところだ。  友規は早速、部屋にいるであろう尚登に電話を掛けた。 「今夜、急にバイト先のメンツで飲むことになっちゃって……。多分、オールになると思うから、夕飯いらない」 『分かった。飲み過ぎるなよ』  電話の向こうから聞こえる尚登の少し落胆したような声が友規の胸をチクリと刺す。 (俺、また嘘……ついた)  嘘が嘘を呼び、どんどんと重なって膨れ上がっていく。それも今となっては尚登に言い出せないくらいの大きさになり友規を苦しめていた。  じゃあ、出逢った時にバラしていれば良かったのか?  そんなことが出来ていたらきっと苦しむことはなかったに違いない。でも、尚登は友規を軽蔑し、今の関係にはなっていなかっただろう。 「ガキじゃねーし! 大丈夫だって」 『――そうだな。気をつけていけよ』 「りょうか~い。あ、部屋に女とか連れ込んだら承知しないぞ」 『はっ。そんな甲斐性があると思うか? それに俺は目下失恋中だ』 「そうだった。ごめん……」 『謝ってる暇があったら、さっさとバイトに行け。次のバイト、そろそろだろ?』  尚登の低い声は日を追うごとに優しく柔らかくなっていく。周囲を威嚇するような棘が消え、ゆっくりとではあるが他人の声に耳を傾けるようになっていた。  それに友規に対しても変化があった。まるで血の繋がった弟に話しかけるようなフランクな口調……。  友規もまたそんな尚登に魅かれ、閉じ込めているはずの『想い』を少しずつ解き放っていた。 「なるべく早く帰るからさ……」 『あぁ、待ってる……』  まるで恋人同士の会話だ。そう思ったとたんに友規の顔が熱く火照り出した。  頭に血が上っていくのが分かる。慌てて通話を終了させスマートフォンをポケットにねじ込むと、真っ赤になっているであろう頬を両手で挟み込んだ。 「あり得ないだろ……。何考えてんだ、俺は……」  ウリ專に私情は必要ない。友規は頭を切り替えるために何度か首を横に振ると、尚登の存在を頭の中から追い払った。でも、耳の奥に残る尚登の低く優しい声音だけは払拭出来ないまま、急激に覚えた空腹を満たすために夜の帳がおりた街へと歩きだした。  *****  新規の客である笠原は長身で、一目でブランド物と分かるスーツを着た紳士だった。尚登よりも年上だろうか、落ち着いた雰囲気の中に底知れぬものを秘めた少し影のある男――というのが友規の第一印象だった。  しかし、彼が予約してたホテルの部屋に入った瞬間、それが友規の目を欺く仮面だったということに気付いた時は何もかもが手遅れだった。  部屋の中には笠原以外にもう一人男がおり、彼は無駄のない動きで友規をベッドに組み敷くと、両手に手錠をかけた。手錠から伸びた鎖はベッドのフレームに固定され逃げ出すことが出来ない。  耳元でガチャガチャと耳障りな音がする。それは両手を動かすたびに友規を不快な思いにさせた。 「なにすんだよっ! 話が違うだろ! ウリ專、ナメんなっ」 「随分と威勢のいいガキだな……。体を売って金を貰う身分で、客に向かってその態度はないだろう?」 「サービス内容と違う! 複数プレイは……契約外だっ」  叫ぶ友規の首を大きな手がグッと締め付ける。息がつまりゴホッと咳き込んだ彼を見下ろした笠原は、冷酷とも取れる眼差しを向け、唇の端をクイッとあげて言った。 「客の言う事が聞けないのか……? この淫乱ビッチが」 「誰が淫乱だ! 俺はそんなんじゃ……ない!」 「どんな男にも脚を開いて腰を振るビッチだろう? お望み通り、脚を開きっぱなしで犯してやる」 「はぁ? ふざけんなっ! 店に連絡……っぐ!」  笠原の長い指が友規の口内に突き込まれ、舌を力任せに押し付けられる。異物を吐き出そうと喉が蠢動し、何度もえずくが指が退くことはなかった。 「ぐごぉ……おぇ……っがは」 「あのプライドの高い男がこんなビッチを相手にしているとはな……。人間、落ちぶれればそれなりの場所にまで堕ちるということか」 「がぁ……かっ」 「この喉奥にアイツのペニスを突っ込まれた気分はどうだった? 太くて長くて……硬かっただろう?」  笠原が下卑た笑いを浮かべながら友規の喉奥に指を突っ込んだ。 「がはは……っ! おぇぇぇぇっ」  胃の中のモノが一気に逆流し、友規の意思とは関係なくだらだらと唇から溢れ出した。胃液と内容物が混じった強烈な匂いと鼻の痛みに、友規の視界が涙で滲んだ。 「今夜はゆっくりと可愛がってやる……。あの男がどんな顔をするか楽しみだ」  吐瀉物に塗れた指を引き抜いた笠原は顎をしゃくって男に指示を出すと、友規が着ていた服を脱がし、唯一自由になっていた両脚を大きく広げ膝を折り曲げた。太いゴムバンドを巻き付けて腿と脹脛を密着させるように固定される。  そして足首に枷を嵌め、そこから伸びた鎖を友規の頭上にあるフレームに繋いだ。 「やめろ……。こんなこと……して、許されると、思って……のか」  上着を脱ぎ、ネクタイを引き抜いている笠原を睨みつけた友規だったが、声を出すたびにヒリつく喉の痛みに顔を歪めることしか出来ない。 「愚問だな。許されるに決まってるだろう。俺はこの街の経済を動かす大企業の社長だ。そしてお前は街のクズだ。ちょっと頭を使えば分かるだろう? 誰が支配し、誰に傅けばいいか……」 「バカ……じゃねぇ、の。支配とか……クソみてぇなこと、言ってんじゃねぇ……よ」 「お前もあの男と同じ甘ちゃんだな……。親友だの恋人だのって、人を信じるにもほどがある。ちょっといい顔をして煽てればその気になって……。俺たちはアイツの事をハナから親友だとも恋人だとも思ってはいない。ただのバカだ……。単純な工作にあっさりと引っかかって、すべてを失ってから初めて気づくとか……どれだけ危機管理能力が欠落しているのかと思うね。仕舞いには、こんなクズのウリ專のヒモに成り下がって、ホントにアイツの頭はどうかしてる。いっそ、自分で首を括って死ねば楽になっただろうに」  友規は笠原の話を黙って聞いていた。一言一句逃すことなく頭の記憶媒体に焼き付ける。  そうしている間にも、笠原と男は着衣を脱ぎ、逞しく引き締まった体を惜しげもなく友規の前に晒していく。 「――昔から嫌いだった。どんなことでも器用にこなし、欲しいと思ったものをいとも簡単に手に入れてきた、あの男が大嫌いだった。アイツの地位も、財産も、権力も、そして恋人も……全部、俺のモノになった。近々開催される株主総会で正式に俺の代表就任が可決されれば、アイツはもう手出し出来ない」  笠原がゆっくりとベッドに近づいてくる。真上から見下ろされ、友規は思い切り顔を背けた。 「この可愛い顔が苦痛と快楽に歪むのは楽しみだな。優しい俺は、あの男の社長辞任の餞にもっと残酷な贈り物をしてやるよ。大切な男を滅茶苦茶に犯してやる……。アイツが絶望し、自ら死を選ぶようにな」 「笠原さん……。さっきから『あの男』って言ってるけど、誰の事なんだろうか……。俺、その人のこと知らないんだけど……」  友規は笠原と視線を合わすことなくボソリと呟いた。彼が憎しみを込めて罵っている人物と友規が思っている人物が同じであるとは限らない。しかし、尚登から聞いていた大筋と酷似している点が多い。 「おや? まるで他人事だな……。お前のマンションに転がり込んだ駄犬だよ。まあ、捨てたのは俺……ということになるがな」 「だから、誰なんだって聞いてんだよっ!」 「元Sアドバイザリー株式会社社長、須美尚登だよ。トモキくん……」  心臓が大きく跳ねてから一瞬止まったような気がした。  すると、すうっと頭の中が冷めていくのが分かった。今、目の前にいる男が尚登を貶め、苦しませている笠原という男に激昂する自分を思い浮かべていた。でも、実際は驚くほど冷静な自分がいる。  友規はゆっくり視線だけを笠原に向けると鼻で嗤った。 「――いろいろ知ってるんだね、笠原さん。でもさ、この俺があんな奴と寝るとマジで思ってんの? あんな愛想もない、ただ図体だけがデカいヤツこちらから願い下げだっつうの。何よりさ、俺を抱くには金が必要なんだよ。金がないヤツにはツケでも脚を開く気にはならないね……。だからさ、楽しもうぜ……。そういう面倒くさいゴタゴタ抜きでさ」  心臓が激しく高鳴っている。その音が笠原に聞こえないかとヒヤヒヤしながらも、友規は実に落ち着いた口調で誘った。  尚登とは関係ない。彼はただ、一緒に住んでいるだけの他人――だから。 「アンタが腹いせに俺を痛めつけるのは自由だけど、アイツには何のダメージも与えられないよ。やるだけ無駄! だったらいっそ気持ちよくなりたいじゃん? ねぇ……笠原さん」 「そうか……。お前がそう望むのなら楽しもうじゃないか」 「じゃあ、そのイヤらしいぶっといチンコ、しゃぶらせてよ」  友規は細い腰をくねらせて、吐瀉物で汚れた唇を舌先で舐めた。気怠げに目を細め、長い睫毛を瞬かせた友規の唇に喰らいつく様に自身の唇を重ねた笠原は、力任せに彼の舌を吸い上げた。 「んあぁぁっ」 「これは合意だ……。男娼であるお前が了承したプレイ……そうだろ?」 「アンタのテクニック次第だね。承諾するにはキスだけじゃ足りない」 「すぐに『もっと』と強請るようになる……」 「ゾクゾクするね……その目。楽しみだなぁ~」  人を人だと思わない冷酷な感情のない目。尚登とはまるで違う、その笠原の目には友規は映っていない。  彼の目の前に拘束され横たわっているのは妖艶なセックスドール。  ただ、難点が一つある。それは――心を持っていること。  笠原が不敵な笑みを浮かべながら後ろに立つ男から何かを受け取る。それを友規の目の前でチラつかせた。  彼の長い指に摘ままれていたのは宝石のような艶がある赤いカプセル。それを見た瞬間、友規は背筋が冷たくなるのを感じた。 「これ、何だか分かるか?」 「ねぇ、まさかとは思うんだけど。ウリ專の俺にクスリ使おうとか思ってる? それって規約違反。即刻退会処分案件だよ。この街で知らない人はいないと思うけどな」 「ヤバい薬じゃないさ。少しばかり元気になる栄養剤だ。これから男二人の相手をしなきゃならないトモキくんに、頑張ってもらおうと思ってね。即効性で副作用もない」 「それ、マジで言ってんの? 俺、そういう冗談嫌いだから」  この界隈で最近出回っている危険ドラッグ『紅純(こうじゅん)』。その名の通り宝石のような艶を持った深紅のカプセルが特徴で、アジア系マフィアから流れて来たものらしいが安全性はまだ保障されていない。即効性があり、セックスで使用すると強烈な快感が味わえると一部の若者の間で密かに流通している。何人かのウリ專ボーイがこれを使われてレイプされ、中には依存症になった者もいると聞く。杉山には耳にタコが出来るほど注意されていたものだが、まさかここでお目にかかるとは友規も思ってはいなかった。  新規で高額料金のコースを選択した時点で怪しむべきだった。しかも、闇のルートでしか手に入らない危険ドラッグを簡単に入手出来る彼は、ただのコンサルティング会社の副社長ではない。 (何としてもこれだけは避けないと……)  今まで何人もの客を相手に鍛えきた話術でなんとか回避する術を考える。普段、あまり使わない頭がまともに動いてくれるとは思わなかったが、これを使われたら自身の意思と関係なく体は淫らに男を求めてやまなくなる。  この笠原があっさりと友規と尚登の関係性を納得したとは思えない。一度喰らいついたら離れない執着系の男だということは会話の端々からみてとれた。 「冗談? 幸い、俺も冗談が嫌いでね……。ほら、口を開けろ」  友規は自身の唇をギュッと噛み締めると首を左右に振った。口元は笑っているが目はまったく笑っていない笠原を睨みながら更に噛み締める。口内にわずかに広がった血の味に、これほど何かを頑なに拒んだことがあっただろうかと感心する。 (尚登には迷惑はかけない……絶対に) 「頑固な男娼は嫌われるぞ?」  ククッと喉の奥で笑った笠原の顔が視界から消えた。その瞬間、無防備になっていた友規の後孔に彼の長い指が内部を抉るように侵入した。  大きく目を見開いた友規の息が急激に荒くなった。もう、限界だった。冷静を保っていたはずの体が急激なストレスによって過呼吸を起こしたのだ。 「な……っ! やめろ……っ! アンタら正気かっ」  まだ解してもいないその場所はキラキラと輝く赤いカプセルと笠原の指を咥えこみ、キュッと収縮を繰り返した。 「こちらの方が吸収が早いからな……。さてと、お望み通り上のお口に俺のペニスを突きこんでやろうか」 「いやだ……。アンタのなんか……欲しく、ないっ」 「しゃぶれ……。歯を立てたら殺すぞ」  金魚のように口をパクパクと開ける友規の舌先に、あのカプセルがもう一粒乗せられる。それを奥へ押し込むように、友規の顔を跨いだ笠原のペニスが喉奥に一気に突き込まれた。 「があぁぁっ!」  苦しさに、何度も喉を蠢動させる。溢れてくる唾液がカプセルを奥へと流し込み、友規は細い喉を上下させてそれを飲み下した。 「あぁ……ぐぁ……っ。や……ゴホッ」 「ほら、ちゃんと舌を使え。ナンバーワン男娼がこの程度か?」 「ぐはぁ……ゴボッ……がぁぁ……げぇ」  断続的に喉の奥を突かれ、また胃の中のモノがせりあがってくる。それを何とか飲み下すと、友規は下腹に急激な熱さを感じて顎を上向けた。更に奥へと入り込む笠原の大きく張った亀頭。苦しい……それなのに、気持ちがいい。 「はぁ……はっ、はっ!」 「笠原社長、薬が効いてきたようです」 「噂に違わぬ薬だな。お前も楽しめ……。今にイキ狂って自我をなくす。そうすればもうただの人形だ」  遠くで男の声がする。乾いたままの後孔に振動するバイブを押し込まれ、その引き攣れる痛みにさえも腰が揺れる。腹の中で振動し、内壁を擦りあげるシリコン製の玩具。媚薬で敏感になり始めているその場所を擦られるだけで、友規は内腿を痙攣させた。  ジュボジュボ……と唾液を溢れさせながら口内で大きく硬くなっていく笠原のペニスが欲しくて堪らない。  思考が曖昧になり、視界も脳内も霞がかかったようにぼやけていく。その向こう側に忘れてはいけない人の影がちらつく。それなのに思い出せない。 「あぁ……ぐぉ……がはっ」  笠原のペニスが質量を増したように膨らみ大きく脈打った。瞬間、痛めつけられていた喉奥に灼熱の奔流を打ち付けられ、友規は腰を大きく跳ねさせて絶頂した。  頭の中が真っ白に塗りつぶされ、何も考えられなくなる。友規は幼い頃、同じ感覚を経験していた。  力ずくで手足を押えられ、抗う事も出来ずに支配されたあの日の事を。義父のグロテスクなペニスを口に頬張り、それが友規の口内で弾けた瞬間、それまで普通だと思っていた他人への感情がブラックホールに吸い込まれるように友規の中から消えた。  頬を伝い落ちる涙が温かいと感じられるのは、まだ完全に自我を失っていないから。でも、そのわずかな糸口も徐々にぼやけ、それが完全に見えなくなったとき、友規は焦点の合わない虚ろな目で笠原を見つめていた。  薄い下生えの上でヒクヒクと頭を擡げている自身のペニスからは透明な蜜が溢れただけで射精には至っていない。  ドロリと濃厚な笠原の精液を喉を上下させて呑み込んだ友規は、恍惚の表情で彼を見上げた。 「――欲しい……。もっと、ちょ……らい。せーし、欲しい……」  その声は甘く舌足らずで媚びているようにも聞こえる。全部呑み込んだという証を見せるために伸ばした舌を笠原が指先で掴んだ。 「んがぁ……」 「いい顔だな……。もっと気持ちよくさせてやる。次はどこに欲しいか言ってみろ」  低く掠れた声――その声が友規の鼓膜を刺激し、艶めかしく腰を捩った。くぐもったモーター音が響く下肢を愛撫していた男が不意にバイブレーターを引き抜くと、ぽっかりと口を開けた後孔に舌を差し入れて強く抉る。ゾワゾワと虫が体中を這い回る感触に、友規は嬌声をあげた。 「ひぃぃぃ……! いやぁ――っ!」  体中が疼いて堪らない。腰を揺らしていないと体内に籠った熱で精神が焼き切れそうになる。両手を繋いだ鎖がガチャガチャと硬い金属音を立てた。不快だと思っていたはずのその音さえも友規の劣情を煽るには十分な要素だった。  自分は鎖に繋がれ、無防備に曝け出した体を二人の男に犯されているという背徳感。  鈍くなった思考でそう考えるだけで自身の中にある被虐心が更に増幅し、自然と彼らを求めるようになる。  物欲しげにヒクヒクと収縮を繰り返す蕾に男の長大なペニスが押し当てられた。それを欲して腰がシーツを滑り先端を咥えこむ。 「んふ……っ。お……きぃ」  顔のすぐ横にある笠原のペニスに舌先を伸ばしながら、嬉しそうに乾いたままの後孔に雄茎を迎え入れた友規はその痛みにさえも背を反らせて歓喜の声をあげた。  長大な茎は根元まで沈められ、馴染むのを待つことなく激しい抽挿が始まると、目一杯に広げられた薄い粘膜の襞が裂け血が流れ始める。それが潤滑剤の役目を果たし茎の動きがスムーズになると、友規は絶え間なく絶頂を迎えた。 「ひゃぁぁぁ……ダメ、イク、イク……イク――ッ! あぁ……また、キちゃう……い……イイ……イクッ」  その行為は永遠と続くかのように思えた。挿り込んでくる雄茎の太さ、熱さ、長さは違う。それぞれが友規の内壁を抉り、違った快感を生み出す。時にはもどかしげに擦りあげ、油断したところを激しく突き上げられて最奥に大量の精を叩きつけられる。  友規の声も掠れ、口から白い泡を吹き上げるとボールギャグで口を塞がれて犯された。  舌を噛んで死ぬことは簡単だった。しかし笠原はそれを許さなかった。  気が狂うほどに繰り返される凌辱。殴打に頬が腫れ、唇が切れても絶え間なく襲われる強烈な射精感。精液が出なくとも止まることのない絶頂の感覚。 「いいメス顔になったな……トモキ。もっと強請れ、もっと狂え……お前はペニスなしでは生きられない淫乱ビッチなんだからな。孕んであの男の前で俺たちの子を産め! はははは……っ」 「ビッ……チィ……。おれ……チンポ、欲しい。もっとぉ~、かしゃはりゃ……しゃん、もっと奥、突いてぇ」  こんなことは言いたくない。でも理性の欠片を集めようにも、どこに散らばってしまったのか分からない。  ただただ気持ちがいい。脳ミソがジンジンと痺れて堪らない。   触れる場所が熱くて、たったそれだけで絶頂へと駆け上がる。臀部を思い切りスパンキングされただけで射精した。もう何度もきつく捻りあげられた乳首は赤く腫れ、ぷっくりと膨らんでいる。それをねっとりと舐められると、背筋がゾクゾクし女のような甲高い声を上げて強請った。  友規にはもう何も考えられなかった。いつしか痛みも心地よいものに変わっていた。制御出来ない体と意思が散り散りになっていく。  汗と精液、そして血で汚れたシーツを掴み寄せて爪先を立てて獣のように啼く。 (もう、死にたい……。殺して……)  きつく閉じたままの瞼の裏でいくつもの眩い光が瞬いた。  激しく突き上げられて背中を弓なりにした友規の耳に届いたのは男たちの荒い息遣いと、自身の嬌声、そしていたる所から聞こえるスマートフォンのシャッター音だけだった。

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