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【9】

「んはぁ……は、はぁ……尚登……さ……んっ」  淡く柔らかな光を落とす間接照明が乱れたシーツの皺をより淫らに浮かび上がらせる。絶え間なく寄せる波の中に友規の細く白い肢体が艶めかしくうねり、部屋の空気を揺るがすように吐息交じりの甘い声が響いていた。  正常位で一度果てたあと、間髪入れずに体を反転され腰を高く上げた格好のまま後ろから激しく突き込まれた友規は、羽枕に頬を押し付けたまま尚登から与えられる快感の渦に呑み込まれていた。  もう、抗う必要はない。拒むこともしなくていい。今はただ、密着した彼の肌から移る熱を体に蓄えて、それを愛の言葉に変えて声をあげるだけ。  尚登の住むマンションに辿りついた二人は、余裕なく互いの着衣を脱がせると、もつれ合うように寝室のベッドへと雪崩れ込んだ。  幾度となく尚登を思って自慰を繰り返したその場所を、彼の長い指が行き来するたびに友規は射精を伴わない絶頂を迎えていた。  そして、あの時よりもより大きく感じる彼の灼熱の楔で体を貫かれた瞬間、やっと一つになれた喜びに打ち震えた。体だけではない、まして一方的な想いだけでもない。互いを求め、貪るように欲情する体は次々に沸きあがる熱に踊らされ、時々自我さえも失いそうになる。でも、それを寸でのところで引き戻してくれたのは、他の何物でもない尚登の深い口づけと、耳元で紡がれる愛の言葉だった。  尚登の逞しい腰がパンパンと破裂音を鳴らしながら友規の尻に打ち付けられる。中を抉るように抽挿を繰り返す雄芯を逃すまいと友規の中が蠢動を繰り返し、さらに奥へと引き摺り込もうとする。  義父に開発された浅ましい体。  でも今は、尚登のモノを咥え、嬉々としてこの上ない幸福感を味わっている。  腰を掴んだままの彼の手に力が込められる。背後で獣のような荒い息を繰り返し、時々快感に身を震わせながら体に籠った熱を吐き出す尚登を肩越しに見つめ、友規は舌先を伸ばしてキスを強請った。  キスをするためにより深く最奥に突き込まれた雄芯の熱さに、友規は思わず漏れてしまう声を我慢することが出来なかった。 「あぁ……奥、ふか……ぃ。尚登……のが、当たって……る……」 「友規の全部を征服したい……。全部、俺のモノにして……誰にも触れさせない」 「尚登のもの……にして。も……穢されるのは、いや……。あなただけの……俺で、いさせて……っ」 「当たり前だ……っ。誰にも……渡さない」  背中に伝う汗に舌を這わせながら腰をゆるゆると動かす尚登に焦れ、友規が自身のペニスに手を伸ばした時、その手をやんわりと制され息を呑む。  尚登の手が白濁交じりの蜜をだらだらと溢れさせている友規の芯を優しく握り、それを上下に扱き始めると、腰の奥にわだかまっていた熱がほどけていく。同時に腰を動かされ、中の前立腺を何度も擦りあげられた友規は体を小刻みに震わせた。 「……ダメ、また……イッちゃう。尚登……ヤダ、そこ……やめてっ」 「ヤダじゃないだろ? 友規がイヤらしい音を立てて煽るからいけない」 「立ててない……っ。んあぁ……お尻、きも……ち……いいっ」 「前は良くないか? じゃあ、やめようか……」 「ヤダッ! もっと強く……先っぽ……擦ってっ」  尚登の手の動きが早くなるにつれ、耳を塞ぎたくなるようなクチュクチュと卑猥な音が響いてくる。狭い蕾を割り裂いて突き込まれた場所からも、女性の秘部を思わせるような濡れた音が聞こえ、友規は羞恥に肌をピンク色に染めた。  じわじわと腰から背筋を通って脳へと伝達される快感の波が次第に大きくなっていく。 「はっ、は……っ。友規……いいぞ。イキそうだ……っ」 「出して……奥で、出して……っ。尚登の……精子、欲しい……っ」 「一緒にイケるか……?」  尚登の問いかけに首を乱暴に振って応えると、性急になった腰の動きと共に、友規の隘路を灼熱が一気に駆け上がってくる。尚登のペニスの形を覚えた繊細な内部の襞が、より大きく膨らんだ茎を優しく包み込みながら奥へ誘うように波打った。 「あぁ……イク、イクッ……また、イッちゃ――あぁぁぁっ!」 「――っぐ、んあぁぁっ」  それはまるで獣の交わりに似ていた。低い呻き声と、闇を劈くような咆哮が部屋を満たしていた淫靡な空気を揺るがした。  尚登の手をしとどに濡らした白濁の量は二度目の吐精とは思えないほど大量で、友規が胸を喘がせて息をするたびに鈴口からトプリと溢れ出している。ぐったりと力なくシーツに崩れ落ちた友規の最奥で奔流を迸らせた尚登もまた、筋肉を纏った体をしっとりと汗で濡らしながら体を震わせていた。友規の背中に唇を押し当てながら、呼吸を整えている彼の息遣いを感じるたびに体の奥がジン……と痺れ、彼の香りで満たされていくような気がした。 「友規……綺麗だ」  尚登の掠れた声に、友規の閉じられた瞼がゆっくりと開かれる。涙で滲んだ世界の中でもハッキリと彼の顔だけは認識できた。 「も……一回、しよ?」  唾液で濡れた唇を舐めながら肩越しに彼を見つめる。体が粉々になってしまっても構わない……そう思えるほど、尚登との繋がりを解きたくなった。 「明日、動けなくなるぞ?」 「ん――お休みもらった」  気怠げに寝返りを打とうと体を捩じった時、まだ中を貫いたままの尚登の雄芯がズクリと脈打った気がした。尚登が友規の背中を抱きしめるような格好で横になると、薄く色づいた乳首を指先で弾いた。 「んあぁ……」  敏感になった体はすぐに反応し、中のモノをきつく喰い締めた。 「友規……キュッて締まったぞ」 「いやぁ……。尚登さんが悪戯するからだろ」 「このまま少し眠ろうか……。お前の体が心配だ」  汗ばんだ背中に感じる尚登の引き締まった腹筋が呼吸のたびに密着し、偉大な存在に守られているような気がして嬉しかった。  項にやんわりと歯を立てられ、その痛みにさえも体が悦びうち震える。  客と激しく交わった後でもこんな幸福感は味わえなかった。お互い射精したらそれで終わりという淡白なセックス。それで自身を満たそうとしていたことが今になればバカみたいに思えてくる。  満たされた気になって、誰かに必要とされている気になって、ただ物理的に与えられるだけの快楽に溺れていただけ。  腰に回された尚登の手が臍のあたりを優しく愛撫する。 「ここに……俺の精子いっぱい入ってる?」 「妊娠しちゃうかもよ?」 「――いいねぇ。毎晩でも注ぎたい」 「尚登さんって……淡白だって聞いてたけど、本当はセックス好きなの?」 「お前とするのが好きなんだ……。他の奴には興味はない」  トクン……。心臓が大きく高鳴った。  尚登のことはまだ何も知らない。でも――この気持ちはもう止められない。  今まで自分の中になかった感覚を手に入れた友規だったが、本当は怖くて仕方がなかった。  何があっても失うものは自分だけだと強くなれた。それなのに、尚登という失うわけにはいかない存在が出来た途端、足が竦み一歩が踏み出せずにいる。  尚登との初めての恋――嬉しくて楽しくて仕方がないはずなのに。 「尚登さん……。俺、信じていいんだよね? あなたのこと……愛してもいいんだよね?」  前に回された尚登の指先が微かに震えているのが分かる。肌を触れ合わせているせいか友規の不安を感じ取ったのかもしれない。  彼の指先は、本人でも気づかないほど繊細で揺れ動く心を教えてくれる。 「――当たり前だ。友規……俺も不安で仕方がないんだよ。一度、すべてを失くしている。だから今度は、お前を失うんじゃないかという恐怖に怯えている。この前の比じゃない……。それほど、お前に惹かれている。お前は綺麗だ……いつまた、他の男のモノになってしまうかもと考えただけで怖くて震えが止まらなくなる」  信頼し、愛する者に裏切られた二人。その痛みを知っているからこそ、寄り添い触れ合うことが出来る。  友規はそんな彼の手を握りしめた。  離したら二度と繋げなくなってしまうのではないかと思うほど強く、そして指を絡ませた。 「大丈夫……。俺はそばに……いる、から」  友規は溢れてくる涙をこらえながら震える声で言った。嗚咽を堪えている友規に気付いた尚登が力強い腕で引寄せると、まだ繋がっている場所をゆるりと動かした。 「は……あぁっ」 「友規、離さない……。絶対に離さないから……。俺を――離さないで」  不器用で真面目な尚登の雄芯が本能のままに友規の中を抉る。普段の彼からは想像出来ない激しい劣情に煽られた友規もまた、永遠に冷めることのない愛が揺蕩うシーツの海に身を委ねた。

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