15 / 31

第15話

「いや、好きっていうか、憧れ! あんな風に、カッコいい大人になれたらなぁ、って!」 「そうだな」  あんな風にカッコいい大人が好みなのか、廉。 (ダメだ、とても敵わない!)  この人になら抱かれてもいいかも、とさえ思えるのだ。この俺でも! 「今日は何にしますか?」 「マスター、とびきり苦いコーヒーってありますか?」  おやおやどうしたことか、と笑いながら、マスターはティースプーンに一匙、漆黒の液体を運んできた。 「とびきり苦い、原液を試してみるかい?」  巽はそれを、舌の上で転がした。  苦い。  しかしその奥に、甘みが潜んでいるかのような味だ。 「苦いけど、甘く感じます」 「そう」  マスターは、笑った。  憎めない笑顔だった。

ともだちにシェアしよう!