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3rd 真似っこ
欲しくて、欲しくてたまらなかったモノとか。
どうしても手に入れたかったあの人のキモチとか。
大切に、大切に。
少しずつ目標に近づいて、やっとの思いで自分の手中に入れたのに。
次の日には、全く同じモノ、もしくはそれに近いものを、真紘は持っている。
僕が好きだったあの人は、いつの間にか真紘と付き合い出していて。
僕の思いは、あっけなく、木っ端みじんになる。
最初は、気にしすぎかと思ったんだ。
だんだん真紘とカブる持ち物や好みが頻回になってきて。
偶然.....にしては、できすぎていて。
偶然とは、思えなくなって。
僕の手の中にあるモノが急に色あせて見えたり、あんなに好きだったあの人を見ることさえも億劫になって。
悔しさとか、悲しさとか、裏切りとか。
色んな気持ちが入り混じった僕の心は、サイテーな気分になってしまう。
気分がサイテーだと、人間としてもイヤなヤツに思えて、僕はサイテーな人間なんじゃないだろうかって、落ち込んでしまう。
できれば、もう。
アイツとは関わり合いになりたくないし、正直、僕をほっといてほしい。
僕のことを気にしないでほしい。
だって、僕は知ってるんだ。
低く優しい声で「秋斗」って僕を呼ぶくせに。
一方では、冷たい眼差しで僕を見据える。
蔑む.....って、言うのかな.....?
僕が、一体何をした?
答えが分からないまま、こういう関係が続いてくると、さすがに心も荒れてくるし。
誰にも言えないから、さらに落ち込んでくる。
だから、僕は無意識にも意識的にも、アイツを避けてしまう。
避けてるのに。
あの低く優しい声で、僕を呼ぶんだ.....。
「秋斗」
「......何?真紘」
「そのキーホルダー、かわいいね。どうしたの?」
「キーホルダー?」
僕は、真紘に指摘された身に覚えのないキーホルダーの存在にドキッとした。
そして、カバンを慌てて見たんだ。
あぁ、これ......やられた。
「姪っ子だ。
姪っ子が最近プラ板にハマってて、やたらめったらキーホルダーとか作ってるんだ。
多分、その中の1つだよ」
あれだけやめろ、って言ったのに。
5歳の姪っ子は、僕の目を盗んで遊び感覚でそのプラ板キーホルダーの1つを、僕のカバンに勝手につけたんだ。
姪っ子はめちゃめちゃかわいいけど、こういう時は、かわいくない。
「なんていうキャラクター?」
「なんだったっけな.....えーと、すみっこナントカ。確かこれ、〝とんかつのはじっこ〟だ」
「〝とんかつのはじっこ〟?何それ?」
真紘は、目がなくなるように顔をくしゃっとして、楽しそうに笑う。
「そういうキャラクターなんだって」
「上手だね。
俺、欲しい!姪っ子さんにもらえないかな?」
.......また。
また、始まった。
真似っこ。
いくら写して描いたとはいえ、所詮、5歳児が作ったプラ板キーホルダーをなんで欲しがるんだ、コイツは。
......まぁ、そんなことを言ったら、姪っ子も喜ぶし......。
一応、頼んでみようかな?
「いいと思うよ。
今、幼稚園も夏休みでほとんど毎日、姉ちゃんが連れて帰ってきてるから、帰ったら聞いてみるよ」
「ありがとう!」
「なんで、欲しいわけ?」
「だって、かわいいから!」
本心じゃない、だろ。それ。
だってほら。
僕にまた、いつもの冷たい眼差しをむけて。
なんなんだ、本当に。
僕、何をした?
真紘と僕は同期なんだ。
背も高くて、男前で、優しくて。
あっという間に人気者になって、真紘は常に人の中心にいる。
正直、真紘のオーラというか、なんというか。
とにかくキラキラしているのが、真紘から発散されてるみたいに。
吸い寄せられるように、人が集まる。
目が離せないくらい、視線を集める。
僕にはそんな、真紘のようなキラキラしたものは、備わっていないし、僕はあんまり人と積極的に接するのが、得意な方ではないから。
人の中心にいたいとか、そんなの、どうでもよかったんだ。
それでも真紘は僕に気を使ってか、話しかけてくる。
......その中心に、僕を呼ぼうとするんだ。
あの低く優しい声で。
僕と真紘は、だんだん話すようになって、親しくなって、意外と気があうのも判明して。
退社後に飲みに行ったり、休みには一緒に出かけたりするようになった。
でも、ある日ー。
僕は、真紘に違和感を感じたんだ。
真紘のネクタイ......僕のと一緒だ。
量販モノだし、どこにでもあるネクタイなんだけど。
その時のその一瞬、僕の胸が大きく音を立てて動いたの感じた。
「........そのネクタイ、いいね」
「でしょ?たまには、ブルーもいいかなぁって」
あたかも、最初から自分のモノって言う感じで話すから、余計、違和感をもったんだ。
ブルー、好きだった?
細いネクタイは、結びににくいとか言ってなかった?
そして。
にこにこ笑いながら話す表情に、重なる、僕を見る冷たい瞳。
その瞬間から。
僕は、真紘に対して微妙な感情を抱いている。
嫌いなのか、好きなのか。
正直分かんない。
だから、僕の心は、荒れてくるんだ。
「真紘、総務の美人と別れたんだって」
「しっ!声が大きいってば」
同じフロアの女の子の話し声が耳に入る。
あ、あの人.....。
真紘と別れちゃったんだ。
.......別に〝チャンス!〟とか〝だから言ったのに〟とか。
あの人に対して、そういう感情すら起こらなくなってしまった自分にうんざりする。
もし、今、真紘が自分の立場だったとしたら、きっと気の利いた言葉をあの人にかけるに違いない。
でも僕は、真紘じゃない。
そしてあの人に対して、僕は勝手に傷ついているから。
そんな、気持ちのままで、あの人に話なんかできないよ......。
やっぱり、僕は。
誰にも言えない複雑な感情を抱えて、さらに落ち込むんだ。
「ねぇ、プラ板のキーホルダー、一つもらっていい?」
僕が家に帰ると、姪っ子はひたすらプラ板に絵を描いていて。
僕の言葉に恥ずかしそうに笑う。
「秋斗には、あげたよ?」
「僕のじゃないよ。僕のお仕事の人が欲しいんだって」
「そうなの?そのヒト、すみっこ、すきなの?すみっこのどれがすき?」
おしゃまな5歳児の特技はおしゃべりで、僕に矢継ぎ早に質問する。
「どうかな?かわいいから、どれでもいいんだって」
「えー?そうなの?.....どれがいいかなぁ?そのヒト、かわいい?」
「かわいい......かな?」
「どんないろがすき?」
「んー.....白かな?」
姪っ子は、しばらくじっと考えて、ひらめいたように明るい顔をして、僕に一つのプラ板キーホルダーを渡してきた。
白い丸っこい、イキモノ。
「これ、何?」
「しろくま」
「......しろくま?かわいいね。僕のお仕事の人も、喜ぶよ。ありがとう」
姪っ子は僕の言葉ににっこり笑う。
「僕のカバンとかに、勝手にキーホルダーつけないでね」
続けて言った僕の言葉に、姪っ子はにっこり笑顔をバツの悪そうな笑顔にかえた。
僕はそのキーホルダーを見つめた。
真紘は、何がしたいのかな?
僕と親密になって。
僕のモノとか片っ端から欲しがって、手に入れて。
それでいて、僕に冷たい眼差しを送って。
僕は、真紘が、よくわからない。
「ありがとう!秋斗!嬉しいっ!」
満面の笑みを浮かべて、真紘は僕から白い丸っこいイキモノのキーホルダーを受け取った。
笑顔なのに、本当に、嬉しいのかどうか。
疑って見てしまう。
だから、一言。
釘を刺してしまった。
「姪っ子が一所懸命作ったヤツだから、大事にしてね、真紘」
その瞬間の、真紘の表情。
瞳に力が入って、いつもとは違う、湿っぽい熱い眼差しで僕を見た。
ほんの一瞬、ほんの一瞬だった。
次に瞬きをしたときは、いつもの真紘に戻っていたから。
一瞬だったのに、脳裏に焼き付いて離れない。
そんな、表情だった。
胸が........ドキッとする。
「ありがとう。大事にする。
そうだ!今日、飲みに行かない?姪っ子さんになんかお礼がしたいから、知恵を貸してよ」
「........いいよ。今日は予定ないし」
「じゃあ、俺、いい店知ってるから!そこにしていい?」
「うん、まかせるよ」
気乗りは、しなかったんだ。
ましてや、心の底では苦手としているヤツと飲むなんてさ。
でも......。
さっきの表情が気になってしまって、さっきの表情の原因が知りたくて、僕はつい了承してしまったんだ。
「んぁ.....はぁ、ぁ......」
ありえないくらい声をあげる。
僕がおかれているこの状況が、うまく理解できない。
真紘の吐息が耳元で聞こえて、僕の中に何が入っててずっと振動しているから、僕の中がかき乱される。
何.....?
なんで?
お洒落な店、だと思ったんだ。
個室っぽい作りで、ソファが大きめで。
天蓋みたいなオーガンジーのカーテンが、個室周りを覆うように遮断して。
野郎2人でくるようなとこじゃないなって。
普通に居酒屋でもよかったのに。
「前に取引先の人と来てさ、こんなとこだけど食事も美味しいし意外と穴場なんだよ」
そう言って真紘は、いつもの無邪気な笑顔を僕にむけて、薄いピンク色のスパークリングワインを差し出したんだ。
一口飲んだところで、そこから記憶がない。
気がついたら、真紘が僕に覆いかぶさっていて。
「やっ!真.......絋....!!」
肌が触れ合ってる感覚と、僕の中で振動する感覚に混乱して、思わず叫んでしまう。
.........真紘と、目が合った。
あの時の目.......湿っぽくて、熱い.......あらゆる感情が渦巻いているような、そんな目。
真紘は優しく笑うと、叫んだ口を塞ぐように僕に唇を重ねる。
口の中を舌が割って入ってきて、余計、混乱する。
でも、なぜか、抗えないんだ。
されるがまま、そんな状態。
「秋斗、舌出して」
そう有無を言わさない真紘の言葉に抵抗することなく、従ってしまう僕がいる。
「お酒、秋斗には効き過ぎちゃったね」
「.....な......なんで.....?」
「周り、見てごらんよ」
僕は薄い布越しに、周りを見た。
........驚愕......って言葉がぴったりくるくらい、息が止まるかと思った。
どの個室からも、男女問わず、媚を含んだ艶めかしい声が響いていて.......シンプルに絡み合う人もいれば、複数人で絡まっていたりして.......。
な、何。ここ。
だから、こんな変な......作り。
いやだ.......。
頭が......痛い.......。
ここから、出たい.......。
「泣かなくていいよ、秋斗。
大丈夫、俺がついてる。俺に任せて。
........やっと、やっと、本物が手に入ったんだ。
俺が乱暴にするわけないじゃないか」
遠くでカチカチ音が聞こえた気がしたと思った瞬間、僕の中で振動していたモノが、より強く、より激しく、振動しだす。
何.....やめて......これ、とって.......。
「あっ.....いぁ......」
「ずっと、ずっと、好きだったんだ、秋斗。
君の何もかもを手に入れたくて、君の持ち物を全部真似した。
君が好きな子だってそう。
俺以外、見ないで欲しいから。
いつの間にか、俺の周りは秋斗のものばっかりになっていて.......。
気がついたら秋斗の偽物ばっかりで.........。
やっぱり、本物の秋斗が欲しい。
秋斗の姪っ子にすら盗られたくない。
.........でも、もう、秋斗は俺のものだ」
そして、また、秋斗は僕に強く唇を重ねる。
「もう、いいかな?」
僕の中でかき乱すくらい振動していたモノが引っ張り出されて、間髪入れず、暖かい指が入ってきて僕の中を弾く。
反射的に体がしなるように.....反り返った。
「んぁっ!.....や、やぁ」
「なんだ、ヒクついてんじゃん。そんなに欲しがらないでよ」
「ち.....違っ.....!!.....ん」
真紘は僕に顔を近づけて、片方の手で僕の頰を優しく撫でた。
その手の感触と、下の手の感触があまりにも違いすぎて、混乱して涙が出てくる。
「泣かないで、秋斗。
ちゃんと、俺のことが〝好きだ〟って、〝欲しい〟って言えたら、もう真似っこも、秋斗のものを横取りしたりもしない。
秋斗を楽にしてあげる。
.........言える?秋斗。ちゃんと、言える?」
僕には、ちゃんと思考できる正常な頭は、もうないのに......。
快楽に溺れそうな体は、何故か、真紘を求めているのに........。
〝NO〟は、言えない.......。
「....... 真紘、好き........真紘が欲しい」
「ごめん、よく聞こえないよ」
「真紘....好き........真紘が、欲しい.......もう、勘弁して.......早く.....」
真紘は僕の頭を撫でて、にっこり笑った。
「おりこうさん、秋斗。ご褒美をあげるよ」
奥、深くを。
真紘が強く突き上げてくる。
絡みつくように、吸い付くように.......真紘が中でかき乱す。
胸をいじる感覚や、僕のを擦る感覚が。
僕の思考を停止させて、本能のまま、体が反り返る。
腰が揺れる.......。
真紘から出る熱いのが僕の中に注がれて、広がる度に、僕は高揚感と絶望感の間で、気が狂いそうになった。
真紘の真似っこから始まったんだ。
真似っこがイヤで、真紘が苦手で。
そんな真紘が、嫌いだったハズなのに.....。
僕は、真紘を求めて、離れたくなくて。
繋がって。
好きになってしまって......。
真紘は、最初からそのつもりだったんだろうか?
「.....やぁ.....中.....やだ.......出さ....ないで」
「.......嫌がってるの?.....それとも、欲しがってるの?.......しょうがないな、秋斗。
たくさん、たくさん出してあげる。
俺ので満たして、愛してあげるよ」
そして、また。
僕を襲う、高揚感と絶望感。
あ......だめだ........。
僕は、もう........正常に戻れない。
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