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5th white cube

白い天井に、白い壁。 四角まできれいな90度の白い直角が三方向に伸びていて、天井が絶妙な正方形だから。 まるで豆腐の中にいるみたい。 僕の頭は末期だな。 変なボキャブラリーしか出てこない。 白い天井にはダウンライトが、これまた白い光を放っていて。 白い壁には窓一つない。 唯一。 白い床に寝そべっている僕の足元の方向に、白いドアがあるだけ。 その白いドアにものすごく違和感を覚えた。 なんだろう、何かが違う。 特に他に見るものもないから、僕はそのドアを違和感を解決するようにじっと見つめた。 あ......ドアノブがないんだ。 シリンダーしかない。 鍵がないと、部屋の中からは開けなれないようになってるんだ。 変な作り.......。 余計、豆腐の中にいるみたいじゃないか。 でも、なんで? なんで、僕はここにいるんだろう? ここに入った記憶がない。 ましてや、こんなところに自ら入るはずもない。 えぇ.......? 分かんないな......。 ここにくるまでの最後の記憶......。 唇に何かがふれて、そして、口の中に何が入ってきて。 それは、僕の体の中に落ちていって染み込んで.....。 そこから先が記憶が真っ暗だ。 じゃあ、その前は? 唇に何かがふれる前、僕は、どうしていた? ダメだ、全然思い出せない。 頭が痛い.....。 今が何月何日で、何をしていて、それすら出てこない。 ちゃんとわかっている唯一のものは、僕の名前ナツキ、だってことくらいだ。 ガチャー。 この部屋から外へと繋がるたった一つのドアが音を立てる。 僕は上体を少し起こして、そのドアの方向を見た。 扉の向こう側でドアノブが動く音が聞こえて、音もなくドアが開くと、若い男の人が顔をのぞかせた 。 そして、僕はドアを開けて入ってきたその人に釘付けになってしまったんだ。 背が高くて、足が長くて。 ブリーチしたの髪によく生えるライトブラウンの目。 きれいな、人。 .......でも、僕は、この人を知らない。 誰? 君は、誰? その人は僕の横にくると片膝をついて、右手の手のひらを僕の胸に押し付けた。 少し起きていた僕の体は、その手の勢いで、また、床に引き戻される。 その人は、僕を見て優しく微笑む。 「気がついた?ナツキ」 びっくりした......この人は僕の名前を知っている。 「......ここは、どこ?.....君は、誰?」 僕は記憶喪失モノのドラマのような、セオリーどおりの言葉を発してしまった。 やっぱり、僕の頭は末期だ。 ボキャブラリーが貧弱だ。 「ここは、俺の家。俺は、トウマ」 僕の貧弱な質問に、トウマと名乗ったその人は優しく答えてくれた。 こうなると、僕は止まらない。 頭に浮かんでいた疑問を、矢継ぎ早にトウマにぶつける。 「僕はなんでここにいるの? 君はなんで僕の名前を知ってるの? 今日はいつなの?」 「ナツキ.....うるさいよ?」 トウマの目が少し鋭くなって、怒ったように僕を見た。 でも、ここで引くわけにはいかない。 ちゃんと、自分が置かれている状況を理解したい。 .......トウマだけが知っているこの状況。 僕はこれ以上、この人に支配されたくない! 「答えてよ、トウマ。なんで......!!」 僕のうるさく喋る口をふさぐように.....トウマは僕の頰を両手で覆うと強く唇を重ねてきた。 この感じ.....ここにくるまでの最後の記憶のあの感じ。 〝唇に何かがふれて、そして、口の中に何が入ってきて〟......今のトウマの唇に近い感覚。 僕は手足をバタつかせて、トウマの体を必死で押し返した。 早く逃れたい、逃れたいのに......トウマの体はビクともしない。 僕の口の中を激しくかき回すトウマの舌が、僕の抵抗しようとする力を削ぐように僕の舌を絡めとるから、悔しいけど力が抜けてくる。 苦し.....息が、苦しい......。 鼓動が激しくなる。 「.....っはぁ......何、す.....だよ......!」 ようやくトウマがその唇を離して、僕は思いっきり空気を吸った。 「ナツキ。俺の言うことを聞いたら、ここからだしてあげるよ」 「......言う、こと?」 「そう、俺の言うこと」 「......例えば?」 「それを言ったら、面白くないじゃないか」 「......イヤだ、って言ったら?」 「ここにずっと閉じ込めるだけ。さぁ、どうする?」 「......何をされるのがわからないのに、そうやすやすと言うことなんて聞きたくない......イヤだ」 「じゃあ、ここにしばらくいてよ。 俺はまた、来る。 そして、また同じ質問をするから。 その時までじっくり考えてて」 トウマは、僕に優しく微笑んだ。 鼓動がまだ激しくて、息も苦しくて、立ち上がれない僕をそのままにして。 トウマは、その白いドアから出て行った。 そして。 僕はまた、その部屋に一人残される。 何もかも白い部屋がそうさせてるのか。 単に僕が疲れているだけなのか。 〝豆腐の中にいるみたい〟なんて、考える余裕もなくなってきた。 ただ一人。 白い部屋の中にいるだけなのに、変に緊張して頭が疲れてくる。 ドアを叩いて、叫んでみても。 ドアの向こう側からはなんのアクションもなくて。 だんだんやる気もなくなってくる。 もう、何回同じことを繰り返しただろう。 白いダウンライトもずっと僕を照らすから、今が昼なのか夜なのか分からないし、目を閉じて眠ろうとしても白い部屋が眩しく感じてぐっすり眠れない。 落ち着かない.....。 トウマは最初に言ったとおり、たまに現れては、僕に激しく唇を重ねてから同じ質問をする。 その時、トウマは僕にペットボトルの水とパンを持ってくるけど、僕は緊張と疲労のあまり、それに手をつけることができなくて、部屋の隅に封を切られていない水が何本もおきざりにされてしまっている。 精神的にも体力的にも。 だいぶキてる、僕は。 「ナツキ。俺の言うことを聞いたら、ここからだしてあげるよ」 「......いや....だ」 「だいぶ疲れてるんだろ?そろそろ降参したら?」 「......言う事って、何をするの?」 「それを言ったら、面白くないじゃないか」 「......いい加減に...してよ」 「じゃあ、俺の言う事を聞く?」 「.....いや」 「じゃあ、まだここにしばらくいるんだね。 俺はまた、来る。 そして、また同じ質問をするから。 その時まで、また、じっくり考えてて」 この会話も何回繰り返したんだろう......。 僕は、気が狂いそうだ......。 ✴︎ ✴︎ ✴︎ 独り占めにしたいって、思っただけ。 ただ、それだけ。 屈託のないその笑顔に心惹かれて。 真っ直ぐなその瞳に魅了されて。 俺だけのものにしたい。 誰の目にも触れさせたくない。 そんな思いが大きくなって、渦巻いて。 どうすることもできなくなって、俺のそばにおいておきたくなったんだ。 だから、俺はその人のことを徹底的に調べた。 名前は、ナツキって言って。 月曜日から金曜日は大学に行って、月水金で居酒屋でバイト。 土日は基本家にいるか、映画を観に行くか。 映画といってもミニシアター系のコアな映画を観るから、ナツキを連れ出すには、このミニシアターにいる時しかないって思ったんだ。 そして、俺は〝ナツキの部屋〟を準備する。 ナツキのために、ナツキに喜んでもらえるように、真っ白な部屋にした。 壁も、天井も、床も、ライトも、ドアも、全部。 ドアもシリンダーから替えた。 ナツキしかいない真っ白な部屋で、俺だけを待ってるって想像しただけで、官能がうずく。 準備は万端。 あとはナツキを連れてくるだけ。 単純な人なのか、鈍感な人なのか。 これだけ俺がナツキの周りで色々調べまわっているって言うのに、ナツキは全く俺の存在に気付く事はなかった。 だから、ミニシアターで飲み物をすり替えたって絶対に気付かないハズだ。 ミニシアターでナツキが飲むのは、決まってジンジャーエール。 俺は同じジンジャーエールを注文して、その中に少量のウォッカとスコポラミンを入れる。 スコポラミンは、いわゆる〝デートレイプドラッグ〟のひとつ。 小さなコップ一杯で、てきめんに効くんだ。 いつものように映画に集中しているナツキのジンジャーエールのカップをすり替えて、ナツキは何の疑問も持たずにそれを飲む。 ドラッグ入りジンジャーエールを飲んだナツキの意識が混濁するのに、そんなに時間はかからなかったから、さらに追い討ちをかけるように、俺はウォッカを口に含むと、ナツキに口移しでそれを飲ませた。 「......ん....」 映画の音にかき消されそうなくらい、ナツキの小さな声が、耳についてしまって.....早くあの部屋へ連れて行きたくなる。 そして......。 足元のおぼつかないナツキを抱えて、俺はミニシアターを後にしたんだ。 真っ白な部屋にナツキを監禁した。 最初は、ナツキも口答えなんかして元気だった。 俺の問いに、真っ直ぐな瞳で「イヤだ」って返事をしてたから。 どんなに激しくキスをしても、折れずに、絶対に変わらない。 こんなにナツキが頑固者だとは思わなかった。 でも、次第に真っ白な部屋の効果が現れ始める。 白い部屋は、精神を不安定にさせて、気力を奪っていくんだよ、ナツキ。 はじめはドアを叩く音も、叫ぶ声もハードだったけど、そのうち、それすらしなくなる。 白い光に24時間照らされていると、昼夜の区別がつかなくなって睡眠不足になる。 真っ白な部屋は落ち着くように見えるけど、緊張を継続させるから、危険な部屋なんだ。 だんだん瞳の光が弱っていくナツキを見ていると、この部屋を気に入ってくれたんだ、って感じた。 いつものとおり舌を絡ませ、ナツキに激しくキスをする。 最近は抵抗することもなくなって。 感じているように、小さく喘ぎ声をもらすようになった。 「ナツキ。俺の言うことを聞いたら、ここからだしてあげるよ」 「......いう.....こと?」 すでに限界なんだろうな.....俺を見る瞳が虚ろだ。 「そう、言う事を聞いたらね」 「.....ほんとに?」 「本当だよ、俺は嘘をつかないから」 「.....いうこと......聞けば.....いいの?」 「ああ。ナツキ、俺の言う事、聞く気になった?」 俺の言葉に、ナツキは小さく頷いた。 やっと。 やっと、ナツキが手に入った。 「あ.....あぁ......んぁ.....」 ナツキの細い体がしなる。 俺が少し胸に触れただけで。 俺が舌で愛撫しただけで。 体をビクつかせて、媚びを含んだ艶かしい声をあげる。 きっとナツキはもう、俺なしでは生きていけない。 俺はナツキの中の入り口を指で触って、ゆっくり入れる。 「.....んんっ.....あぁ!」 なんだ、指なんかで確かめなくても。 ナツキの中は、もう俺を受け入れる準備ができている。 「ナツキ、入れるよ?」 ナツキの細い足を持ち上げて。 ゆっくり....深く.....。 奥に、貫く......。 「あぁ!.....やぁ....や......」 真っ白な部屋に、より色っぽいナツキの喘ぎ声が響き渡る。 俺が動いて、奥に当たるたびに、体が震えて。 ナツキの中から、やらしいのが漏れてきて。 寝不足で真っ赤になった瞳から、涙があふれてきて。 俺がナツキにキスをしようとすると、その細い腕を絡ませて、俺にしがみついてきて。 白い部屋に生きるナツキの世界で、俺はとうとう100%になったんだ。 俺はナツキに軽くキスをする。 そして言ったんだ。 「ナツキ。 この真っ白な部屋をナツキにあげるよ。 だから、ずっとここにいて? ずっとここいたら、俺のそばにいられるよ? ナツキもそうしたいだろ? ......ナツキ、愛してる」

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