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6th この愛は、違う。

....なんで、こんなことになっちゃったんだろう。 頭がガンガンして、何も考えなれない。 体に力も入らない。 感覚もなくなってきて、何をされてるのかすらもわからない....。 細くてキツいヒモが、僕の手首に絡まっていて、僕の手首は....動かすこともできない。 ....僕は、そのヒモをぼんやり見ていた。 激しい息づかいが、耳元で聞こえる。 ....たまに、僕の名前を囁く。 囁かれても....もう、僕はなんにも....感じない。 ....けど、涙だけは、とめどなく、あふれる。 営業ニ課の高藤悠人。 背が高くてクールなイケメンは、笑うと目がなくなってかわいくなるって、女性職員に大人気だ。 実際、総務課の美人と付き合ってるだの、取引先のカワイイ子と付き合ってるだの、色んな話があちこちから聞こえくる。 ....正直、ちょっと苦手だ。 この人は毎日毎日ニコニコ笑いながら、不備だらけの請求書や領収書を、経理課の僕に持ってくる。 しかも、なんの悪びれた様子もなく。 「高藤、この請求書は合計金額が間違ってるから、相手方に言って再作成してもらって」 「え?!本当?あれっ!?」 っていう会話を、毎日している。 いい加減、覚えてほしい。 ....だから、余計な仕事が増えて、毎日残業になってしまう。 しかも、今は決算の時期。 修正作業を行なって、帳簿と突合して、きちんと出納計算書を整理するって作業が山積みだ。 いつもならスムーズに行く作業も、連日現れる高藤のおかげで全然進まない。 「あれ?渋谷、残業?」 明るい....ちょっと苦手....な声が聞こえる。 「うん。決算が近いからね」 「まだ、頑張るの?」 「うん。....地下書庫に行って、去年の資料を確認しなきゃいけないし。....まだ、しばらくかかるかな?」 「じゃ、これあげる」 高藤はそういうと、紙コップに入ったコーヒーを僕に差し出した。 「いつも、渋谷には迷惑かけてるから」 高藤は、恥ずかしそうに笑った。 「ありがとう。いただきます」 「さてと....」 誰もいないフロアに僕の声が響く。 僕は高藤からもらったコーヒーを飲みほして、地下書庫におりた。 地下書庫は、各課の証拠書類が納めてあって、セキュリティも厳重だ。 だから一度閉まってしまうと、外からはカギがない限り開けられない作りになっているし、内鍵がかかってしまえば、カギがあっても外側から開けることすらできない。 「えっと、決算整理表は....」 ....なんか、おかしいなぁ。 簿冊を探す目が、なんだか、ぼやける。 頭もクラクラしだして、思わず僕はその場に座り込んでしまった。 ....毎日、残業してて、疲れがたまってんのかな....。 「渋谷.......拓実.......大丈夫?」 背後で声がした。 ....この、声....高藤? 僕は振り返る。 けど目の焦点が合わなくて、高藤の表情がわからない。 「........具合、悪いの?」 高藤は僕に近づいて、スーツを脱がして、ネクタイを緩めてくれた。 「....ありがとう....なんか、クラクラしちゃって....」 「....コーヒー、飲んだんだ....」 「....えっ?」 どういう....こと? 僕が顔を上げると、すぐそこに高藤の顔が迫っていて、その口元が、薄く笑みを浮かべているのが、はっきり見える....。 「....!!」 高藤は体を勢いよく寄せて、僕に唇を重ねてきた。 高藤の体を突き放そうと手に力を込めるけど、頭がクラクラしているせいで、なかなかうまくいかない。 バタバタ暴れる僕の手は、高藤に手首を強く掴まれて、簡単にその動きを封じられて、地下書庫の冷たい床にそのまま押し倒された。 高藤の熱い唇は、僕の唇を離さない....。 避けようとすればするほど、強引に舌を入れられて、僕の口の中をかき回す....。 ....苦しい....助けて....! ガリッ! 「!!....っ!」 高藤が、ようやく唇を離す....。 その唇から、舌から、逃れたくて....。 ........僕は、高藤の舌を噛んだ。 高藤の口の端から、血が流れでて、白い肌に赤色が映えるから、白と赤の色味が浮き上がって映画みたいで現実味がない。 夢みたい........だ........。 夢なら早く覚めてほしいのに.........。 高藤は少し顔を歪めて、手の甲でそれを拭う。 「....なかなか、やるじゃん」 そう言うと、高藤はまた薄く笑みを浮かべて、僕の胸に膝をついて圧迫してきた。 高藤の体重が僕の体にのしかかって、途端に苦しくなる。 「!!」 動けない....息が出来ない....! なんで!? なんで、こんなことするの?! 高藤はそのまま僕を押さえつけて、僕の右手を強引に掴むんだ。 そして、ダンボール梱包用のヒモを僕の手首に巻きつけ、キツく縛ると、スチール製の大型書棚の足に、僕の手首をくくりつける。 左手も同じように、くくりつけた......。 動けない......。 .........怖い。 自由を失った僕の手は小刻みに震えていて、震える僕に高藤は馬乗りになる。 そして、僕のネクタイをゆっくりはずす........。 「なんで....こんなことするの?....」 僕の声は、この上なく震えていた....。 高藤はにっこり笑うと、ゆっくり体を倒して僕の耳元で囁く。 「なんでかな....好きだからかな? ....拓実と毎日話しても足りない....。 やっぱり、俺のものにしないと....満足しないんだよね」 そう言うと、僕の耳を舌で刺激してきた。 耳から体中に伝わるぞわぞわした感覚のせいで、涙が出てくる....。 僕はたまらず叫んでしまった。 「やめて!!離して!!誰か助けてっ!!誰かっ!!」 「....誰もくるわけないじゃん。 ....まぁ、叫ぶだけ叫んでいいよ。 俺、拓実の声、大好きだから」 高藤は、僕のシャツを強引に引きちぎると、再び強引に僕の唇を奪って、血の味がする舌を激しく絡めてきたんだ.......。 「.........やめっ....,.やめて!」 僕の意識とは反するように、声と体は高藤の愛撫に敏感に反応する。 その舌が僕の体を這って、首筋や鎖骨を刺激するたびに。 その大きく熱い手が、胸や太腿をふれるたびに。 震える体をよじって、どんなに泣きながら切実に「やめて」と言っても、高藤は一層激しく、快感の波に沈めるように僕をせめる。 ....そして、声が漏れる....体が感じる....。 「やめてほしいの? ....どっちなの? .......拓実のその声で〝やめて〟なんて言われたら、余計イジメたくなっちゃうよ」 そう言うと、高藤は僕の腰を浮かせて、僕の中に強く入れた。 「!!んっ!!.........んっ....」 「......きもち.....めっちゃ、しめてる」 「やめっ!!......本当に......」 「それ、本心?」 「や........んっ、あぁ....」 体を突き抜ける痛さと深い闇に堕ちるような怖さと....。 僕の中で激しく動いて....。 本当にどうにかなりそうだった....。 おかしくなる......。 狂ってしまう......。 「....あんまり、しめないでよ.......イキそうじゃん....」 〝早く終わってほしい....早く解放されたい....〟 ....もう、それだけしか、考えられなくなった。 高藤は激しく動きながら、僕を刺激してくる。 ....本当に....もう....やめて.........。 「....や........やぁ....」 「....何、その声....!........っ!!」 僕の中が、一瞬で熱くなった。 それと同時に、中からあふれでる。 ....涙が、とまらない....。 泣くことしかできない....。 でも、もう、終わる....。 「....もう、終わりだと思ってない?」 高藤のその言葉に、僕は愕然とした....。 そして、高藤は、再び激しくキスをして、僕に囁く。 「俺だけに感じるようにしてあげる。 大好きだよ、拓実」 それから何回されたか、わからない....。 感覚がなくなって、高藤に抵抗することを諦めるまで。 感じるたびにだんだん激しく声を出すようになるまで。 体が、高藤を激しく求めるようになるまで。 高藤が僕を抱いていることが、現実か夢か分からなくなるくらい、意識が混濁してくるまで。 それでも、高藤は僕を愛し、抱き続けた。 縛りつけられた手首が解放される頃には、手首についた紫色のアザと同じくらい、僕の体に刻みこんだ高藤の痕跡を消しさることができないでいた。 ー高藤が僕を支配する。 そう、 高藤が最初に言ったとおり。 ....僕は〝高藤のもの〟になっていたんだ....。 涙がとまらない....。 .........なんで、こんなことになっちゃったんだろう。 僕は、どうなってしまうんだろう........。

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