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7th Stockholm syndrome

掴まれた手が、痛い。 僕を真っ直ぐ見つめる瞳が、苦しい。 その表情が切実で、動けない....。 「....痛い....んだけど」 ようやく絞りだした声は、すごく小さくて。 それでも掴まれた手が、痛みから解放されることはなくって。 真っ直ぐ見つめる瞳から、目をそらすことができなくて。 その切実な表情から、そのまま涙がこぼれ落ちて。 この状況が、すごく現実味がないから、夢みたいな感じがするのに、手の痛さで現実に引き戻されて。 どうしたらいいのか、分からなくなる。 「どうしたらいいか....分からない。 制御が効かなくなるくらい純弥が好きだ....。 この気持ちは、もう、止められない」 「どうして?....あなたはお金目的で、僕を誘拐してるんだよ....?」 ✴︎ その日の学校帰り、迎えにきた車に違和感を感じた。 いつもと違う雰囲気の運転手。 「今日は、岡部さんじゃないの?」 「....今日は、お休みで」 「そっか........ねぇ、いつもと道が違うよ?」 「....大丈夫です」 「.......ねぇ、本当に、代わりの人?」 僕は、車のドアに手をかける。 カタカタカタ。 ドアを引くけど、ドアは軽い音を立てるだけで、全く開こうとしない。 さらに力を入れてドアを開けようとするけど、やっぱりビクともしない。 「そんな事しても無駄だよ、純弥」 「....!....」 聞いたこともない低い声。 この時、はじめて気がついた。 僕は、誘拐されたんだ....。 鼓動が激しくなって、呼吸が苦しくなる。 胸が痛い....手に力が入って、震えてくる....。 「ハァ、ハァ、苦....し....ハァ、ハァ、ハァ」 息を吸っても、吸っても、全然肺が満たされない....。 どうしよう....過呼吸の発作だ....。 苦しくて、苦しくて、意識が遠のきそうになった時、僕は口を塞がれた。 柔らかで、あたったかくて....そして、僕の口の中を何かがかき回す....。 「......ん....んん.」 呼吸が一瞬止まって、次第に鼓動も呼吸も落ち着いてきた。 僕は、圧迫されていた温かい感触から解放されて、後部座席に崩れるように横たわる。 体に力が入らない....。 「大事な人質だからな。 今、死なれたら困るんだよ。菱沼財閥のご子息さま」 その人の深い輝きの瞳が、僕をとらえて離さない....。 その瞳の余韻を残したまま、僕の視界は、真っ暗になってしまった。 「........そう、10億。 天下の財閥様ならすぐご準備できるでしょう? ..........また場所は、後から連絡する。 下手な真似したら、ご子息の無事は保証しないから」 ....遠くから、声が響くカンジ。 視界も意識もはっきりしだして、ようやく、周りが見えてきた。 薄暗くて、殺風景な....部屋。 机の上にパソコンがあって、そのブルーライトは辺りをうっすら照らしてる。 天井には少し大きな天窓があって、そこからまるい月が見えるから....なんか、妙にホッとして、落ち着いてしまった。 「なんだ、気がついてたんだ」 背が高くて、深く輝く瞳がキレイで。 その人は横になっている僕を、見下ろしている。 「さっきは、ありがとう」 「え?」 その人は、目を見開いて驚いた顔をした。 「過呼吸の発作、止めてくれて。 すごく苦しかったから、助かっちゃった。 ありがとう」 「....自分の立場、分かってる?」 「....わかってるよ。 ....ねぇ、上見て。月がキレイでしょ? ....あの月見てたら、なんか落ち着いちゃって。 なんだか、あなたのキレイな瞳に似てるんだよ。だから、あんまり怖くないよ。あなたのこと」 「........そんなこと言って、隙をついて逃げようとしても無駄だから。 変なマネしたら、痛い目、みるよ?」 「そんなことしないよ。 体格差がありすぎて、肩パンされただけでも、僕、吹っ飛んじゃうよ」 僕の言葉にその人が軽く笑うから、つられて僕も笑ってしまう。 「やっぱり、名前とか聞いちゃ。ダメだよね?」 「..........」 「.......僕さ、なんか.....疲れちゃって.......もう一度、寝ていい?」 発作が起きた日はいつもこうだ。 まぶたが重くて仕方がない。 ぼやける意識の中で、僕の耳にかすかに声が刺さった。 「....ユタカ、ユタカだよ」 周りの明るさに、目が覚めた。 天窓の空は、すでに青空に変わっている。 僕は、上体を起こした。 穏やかすぎて、誘拐されたこと自体夢だったんじゃないか?って、錯覚してしまう。 「起きたのか?」 この声、この顔、やっぱり夢じゃない。 心がざわざわして、急に不安になる。 「....うん」 「これでも食えよ」 ユタカは、ペットボトルの水とパンを僕の横に置いた。 「....うん。ありがとう。 でも、今は、食欲ないからいいや」 「....具合、悪い?」 「ううん。そうじゃないよ。 本当に、食欲がないだけ」 「昨日から、何も口にしていないじゃないか。 ....水くらい口にしろよ」 そう言ってユタカは、僕にペットボトルの水を差しだす。 「....本当に、大丈夫だから」 僕は、なるべく笑って答えた。 この状況がいつまで続くのか。 不安で、水すら体が受け付けないくらいのは事実で。 落ち着いてはいるんだけど、心の中の気持ちを悟られたくなくて、ユタカの顔をまともに見れなかった。 ーすると、ユタカは急に僕の手を強く、掴んだ。 ✴︎ 「どうして?....あなたはお金目的で、僕を誘拐してるんだよ....?」 僕の言葉をさえぎるように、ユタカは僕に強く唇を重ねた。 口の中で、舌が乱暴に絡まる....。 ユタカのキスから逃れたくて、必死に抵抗するけど、その腕は僕の体をがっちり捕まえて、離してくれない。 ユタカのその体は、微かに震えている....。 ようやく唇を離してくれた時は、お互い息が上がって、そして、僕をキツく抱きしめた。 僕は、変だ。 こわいのに、こわくて仕方がないのに......。 気持ちいい......。 なんか、気持ちが良くなっちゃって、ユタカに体を預けてしまう。 「こんなつもりじゃ....こんなつもりじゃ、なかったんだ....。 君の声が、君の笑顔が.....俺の計画を、俺自身を.....狂わせた.....」 ユタカは、さらにキツく僕を抱きしめると、再び、むさぼるようにキスをした....。 「....あっ....ん......」 ユタカの指や手に、いちいちカンジてしまって声が出る。 ユタカが、僕の耳たぶから僕のつま先まで愛撫するたびに、恥ずかしさを忘れるくらい、気持ちよくなってしまって....とろけてしまう.....。 そして、ユタカをより一層、求めてしまう....。 ....どうして.....? 僕、どうにかなっちゃいそうだ....。 だから、ユタカが後ろから僕の中に入ってきても、痛さなんか感じなかった。 ユタカの動きが激しければ激しいほど、僕を突き抜ける快感が襲う。 「純弥、なんでそんなに.......俺を狂わせるの.....?」 「.......ん、や....ユタ......んっ....カ.......」 カンジすぎて、言葉にもならない.....。 僕に触れる、ユタカのすべてが....。 僕は、ユタカのすべてを愛してしまって。 ユタカしか、いらない.....。 ユタカ、ずっと、そばにいて欲しい.....。 ユタカと何回も肌を重ねて、僕は、体に力が入らないくらい、ぐったりしてしまった。 そんな僕を、ユタカは肩を抱き寄せて、優しく包んでくれた。 「.....純弥......大丈夫?」 僕は、ただうなずく。 ユタカの余韻が残る体は、ぐったりして力が入らないはずなのに、ユタカを求めてまだうずいてる....だから、声が出せなかった。 僕は、ユタカの肩におでこくっつける。 「....純弥?」 「.......どうしてかな? ......僕がおかしくなったのかな? ......ユタカすべてが欲しい.......ユタカ以外いらない......」 僕の言葉に、ユタカは優しく笑った、 そして、また激しく唇を重ねる.....。 僕は、誘拐された。 でも、犯人を愛してしまって、離れなれない。 このまま、ユタカにずっと、愛されてたい。

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