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8th 催眠

目をゆっくり閉じて。 そう。 ゆっくり.....音楽に合わせて、ゆっくり深呼吸して.....。 吸って.......はいて.......ゆっくり、ゆっくり。 君はいま、どこにいる? リラックスできる場所を想像して。 リラックスして。 次、目を開けた時。 君は目の前にいる人に恋に落ちる。 なんでも、言うことを聞きたくなる。 ゆっくり.....リラックスして。 目の前の人を好きになるんだ......。 「目を開けて」 ここまで、もってくるのに俺は苦労したんだ。 この人に、催眠に興味を持ってもらって。 この人と信頼関係を結んで、安心と安全を約束させて。 この人を催眠に誘導し、暗示をかけて。 そして.....催眠をかける。 あっさり告白をした方が早かったかもしれない。 でも、この人が俺を好きだっていう確証がなかったし。 俺は.....フラれるのが、怖かったんだ。 「.....高耶」 ゆっくり瞳を開けて吐息がもれるように、この人は俺の名前を呟く。 「何?氷樹」 そして、俺の首に腕を回して「高耶、たまらなく、好き」って、氷樹は俺の耳元で囁いたんだ。 ......催眠が、成功した瞬間だった。 ただ、ここまで効くとは思わなかった。 俺がキスを求めると想像以上に舌を絡ませて、激しく反応する。 身体中を愛撫すると恥ずかしそうな顔をして、細い身体をよじらせるし。 「もっと.....」って言って、氷樹の中に入れた俺を締め付けてくる。 そして、甘く、狂おしい顔をして、俺に微笑む。 その笑顔に.....逆に催眠にかかってしまいそうだ。 「催眠、ですか?」 氷樹は目を丸くして言った。 「さぁ、どうだろう....僕、結構単純だからかかっちゃうかもしれませんね」 にっこり笑ったその笑顔が胸にささってしまって、俺は氷樹を好きになってしまったんだ。 そして、学生の頃興味本位で習得してしまった催眠をこの人にかけたくなった。 氷樹は企業の総務担当で。 俺が勤務している病院と健康診断やストレスチェックの契約の担当をしている。 その幼く見える笑顔とか、真っ直ぐ俺を見つめる瞳に惹かれて。 「高耶さん」って呼ぶ声もたまらない。 すぐにでも告白したかったけど、告白したことで嫌われてしまうのが怖くて.....だから、氷樹に催眠の話をした。 「本当ですか? スキなんかなさそうに見えますけど。 催眠って、気分をリフレッシュしてストレス解消にもなるんですよ?」 「そうなんですか!?やってもらおうかなぁ、最近、忙しくって.....」 「じゃあ、試してみる価値はありますよ。今度、俺ん家来ませんか?」 「......高耶さんがお忙しくなければ、お言葉に甘えようかな」 「ぜひ!」 その時、背後で「チッ」と、舌打ちをする音が聞こえた。 ....今度異動できた医務課の課長、正直ヤなヤツだ。 おそらく、俺たちがうるさかったんだろうな。 「.....じゃ、あとで連絡します」 「分かりました」 氷樹は、俺の耳元に口を近づけて言った。 「気になさらないで、うちの職場にもあんな方いますから」 そして、そのかわいい笑顔を俺にむける。 やっぱり、好きなんだ.....。 どうしても、催眠をかけてみたい.....氷樹。 「なんか....緊張しますね、高耶さん」 リクライニングチェア腰掛けた氷樹が、目をしばたたかせて言った。 「緊張しなくて大丈夫ですよ。 そんな大したことないじゃないんです、催眠って。 変なイメージがありますけど、トップアスリートも集中力を高めるためにやってるんですよ」 「そうなんですね......目を閉じればいいですか? 高耶さん」 氷樹はチェアにゆっくり背もたれる。 「目をゆっくり閉じて。 そう。 ゆっくり.....音楽に合わせて、ゆっくり深呼吸して.....。 吸って.......はいて.......ゆっくり、ゆっくり。 君はいま、どこにいる? リラックスできる場所を想像して。 リラックスして」 こんなに深く催眠にかかった人を初めてみた。 嬉しい誤算というか。 あんなに恋い焦がれていた氷樹が、俺を求めてくる。 逆転したみたいだ。 俺を見る氷樹の目が甘くてキレイで......。 でもー。 一瞬、ほんの一瞬。 その瞳の奥に闇が宿った気がしたんだ。 「こんにちは、高耶。ストレスチェックのデータを持ってきたよ」 催眠にかかったままの氷樹は、俺を見ると途端に顔がほころび出す。 俺は氷樹の耳元で囁いた。 「氷樹、俺の声を聞いて。.....ここは外だよ。普通に.....普通に」 俺の声で、まどろんだ氷樹の瞳にいつもの光が宿り出す。 「あ....あの、高耶。ストレスチェックのデータ.....パスワードはこれ」 「ありがとう、氷樹」 その時ー。 「おい!高耶!ぺちゃくちゃくっちゃべってないでさっさと仕事しろ!ったく」 課長が俺に向かって怒鳴った。 あぁ、またかよ。 すぐ癇癪おこしやがって.....。 「はい、すみません。すぐ、終わりますから」 「早くしろよ、全く!ここは学校じゃねぇんだよ!」 課長は舌打ちしてイライラしながら、医務課から出て行った。 「高耶........あの人、嫌い?」 氷樹は目を細めて課長の後ろ姿を目で追って言った。 心なしか、氷樹の目の奥が暗く濁っている....。 「まぁ....ね」 「いなくなって欲しい、くらい?」 「そうだね、いなかったら楽かもね」 「そう........」 「......氷樹?」 氷樹は俺の声にハッとして、そして、いつもの笑顔を俺に向ける。 「今日、高耶の家。行っていい?」 「あぁ、いいよ」 「ありがとう。じゃ、またあとで」 その日、氷樹は少し遅くに俺ん家にきた。 「遅かったね、氷樹」 「ちょっと、バタバタしちゃって.....高耶....」 氷樹が俺の顔に手を添えて、深くキスをする。 激しく、早く....今日は、また、一段と激しい。 頰にあった手は、なぞるように俺のシャツへと移動してボタンを外す。 「ちょ....氷樹.....」 「我慢できない.....!!.....早く!.....高耶!」 俺のズボンに滑り込んできた氷樹の手が、俺のを......いじってくるから.....。 俺はたまらず、氷樹を押し倒した。 「......あ!.....あぁ!」 氷樹の喘き声が耳にこだまする......。 そして、俺たちは、深く絡み合う。 氷樹がいつにもまして激しかったからさ。 若干、コシが痛くて。 いつもより少しだけ遅く病院についた。 病院がザワザワしている。 俺は、近くにいた看護師に声をかけた。 「どうしたの?何かあった?」 「あっ!高耶!大変よ!医務課長がね、医務課長が死んじゃったのよ!」 「.........え?」 身体中の血が一気に足元に落ちた気がした。 頭も、手も、冷たくなる。 ヤなヤツとか、思ってたんだ。 でも......なんだか、心がざわついて落ち着かない。 「男性用トイレでね、ほとんど全裸だったんだって。それで、口いっぱいに何が入ってたと思う?」 「.........何?」 「シアリスが口いっぱい入ってたんだって!!あのエロオヤジ、何しようとしてたのかしら」 .....シアリス....ED....男性用性的不能治療薬......。 冷たくなった頭で、なぜか俺は氷樹を思い出してしまった。 なんで、氷樹が出てくるんだ? 昨日氷樹が言った「高耶....あの人、嫌い?いなくなって欲しい、くらい?」って言葉を思い出してしまったから.....。 まさかな.....そんなワケない。 俺、氷樹を疑うなんて.....どうかしている。 「.....医務課長が亡くなっちゃってさ」 「え......そうだったの?知らなかった.....高耶、大丈夫?」 ベッドの上で俺の横に添い寝をしていた氷樹が、少し上体を起こして俺の顔をのぞき込む。 心配そうな表情を浮かべているけど、相変わらず俺を見つめるその瞳は.....。 ー甘い。 「大丈夫だよ」 「高耶......じゃなくて、よかった」 氷樹が俺にしがみつく。 「昨日さ.....」 「何?」 「いや、なんでもない」 「そう.....」 「.....ん.....氷樹.....」 また、氷樹は.....俺の上にのっかって激しくキスをしてくる。 「大丈夫って言ってるけど、全然平気な顔じゃない........元気、出してよ。高耶.....僕だけを見て」 全然、関係ない。 医務課長と氷樹なんて、全く接点がないじゃないか。 俺は、何を考えてんだ。 俺に元気を出してもらいたくてこんなに懸命な氷樹なんだ.....。 氷樹は、関係ない。 俺は氷樹を抱きしめて。 そして、催眠をかけた氷樹の深みにハマるんだ。 当然といえば当然なんだけど。 同じ医務課の俺も、警察の人に話を聞かれた。 嘘を....嘘をつくわけにはいかないから、俺は聞かれたことには全部答える。 その警察の人は、前からの知り合いで.....まぁ、仕事を通してなんだけど。 警察が取り扱った変死を、うちの病院の医師が検視を行う関係で知り合った人だったからさ。 医務課長の事を少し教えてもらったんだ。 死因は窒息死で、胃から咽頭までシアリスが溶け切らずにぎっちり詰まっていて。 不思議なことに、無理矢理飲まされた形跡がなくて、自分の意思でぎっちり詰まるまで飲んだらしい.....。 「ラリってたか意識がマヒしてなきゃ、あんなこと普通の人はしないんだけどなぁ....。 自殺にしても不自然だから長引きそうなんだよ、この事件。 あの大量の薬物も、死んだ本人がインターネットで不法に手に入れてみたいだし....。 本当、八方塞がりってこういうこというのかも」 その人は苦笑いを浮かべた。 催眠.....。 催眠で、コントロールしたら可能なんだよ、そんなこと。 ただ。 いつも斜に構えて、人を疑っているような医務課長の性格からして、すんなり催眠にかかるハズがない。 どうやったんだ....どうやって、催眠にかけたんだ? 「高耶!!高耶ってばっ!!」 氷樹のめずらしく大きな声でハッとした。 「大丈夫?ずっとボーっとしてるけど。僕の話聞いてた?」 「ごめん....なんだっけ?」 氷樹は少し怒った顔をした。 「もう、今度見に行く映画の話.....なんで、そんなに上の空なの?ちゃんと僕を見てよ」 そう言って、氷樹は俺の膝に乗っかるとキスをする。 「.....何、考えたの?高耶」 「.....催眠....のこと」 「催眠?」 「.....どうやったら、偏屈な人に催眠をかけられるのかな.....って」 「そんなこと?そんなの簡単じゃない」 え? 今、なんて? 俺は思わず氷樹の肩を掴んで、体を引き離した。 俺の手が震えだす......。 氷樹はその震える手をそって握って、微笑んだ。 いつもの幼く見える笑顔。 ただ、瞳が。 瞳だけが違う......笑ってない。 「.....どういうこと?」 「高耶が僕にしたみたいに囁くんだよ。 簡単じゃない。 あの人もすぐかかっちゃった」 あまりのことに、思考が停止してしまう。 氷樹は体重をかけて俺を押し倒して、そのまま馬乗りになった。 そして、言ったんだー。 ーー 「君、高耶のなんなんだ?」 僕はトイレで高耶のとこの医務課長に声をかけられた。 前々から気付いていた。 僕を見る目が粘っこい.....蛇みたいな目。 きっと、僕に気がある。 僕が高耶と仲良くするから、高耶にツラくあたる.....。 だから、僕はこの人がいつも許せなかったんだ。 「何って、どういうことですか?」 「...........」 「ひょっとして、僕のこと、好きなんですか?」 この人は、舌打ちをして目を逸らした。 なんだ、図星か。 だったら、話は早い。 囁いてあげるよ。 囁いて、最高の気分にさせてあげる。 僕は医務課長の肩を掴んで、その人を壁に押し付けて、耳元で囁いた。 「.....リラックスして、目を閉じて。 深く呼吸をして......すって......はいて。 僕のいうことを聞いて.....。 今日の夜、僕はあなたに会いに行く。 だから、ここで待ってて。 すぐデキるようにちゃんと準備してて.....。 服を脱いだら、シアリスを飲んで。 1つや2つじゃダメだよ。 たくさん、たくさん......口から溢れるくらい。 僕で気持ちよくなりたいんでしょ? だったら、僕の声をしっかり聞いて.....。 次、目を開けたら。 今日の夜の準備をしなきゃ、分かった? 僕も......楽しみだな......。 .......さぁ、目を開けて」 医務課長のうつろな目が僕を見る.....。 「.....ほら、何するの?」 僕がそう言うと、医務課長はスマホを取り出してフラフラどこかへ歩き出した。 きっとシアリスを大量に買うはず。 単純だなぁ。 催眠って、簡単じゃない。 ーー 「!!....氷樹.......!!」 「高耶から医務課長が死んだって聞いたとき、ホント、嬉しかった」 氷樹はポケットから何を取り出した。 黄色い錠剤.........シアリス! 「.....高耶、試してみる?」 .....逃げないと。 逃げないといけないのに、体が動かない.....。 まるで、氷樹に催眠をかけられてるみたいに。 氷樹は黄色い錠剤を歯でくわえると、俺に覆いかぶさってキスをする。 ガリッー。 氷樹が歯で砕いた錠剤が、瞬く間に俺の口の中に広がって体の中に染み込んでいく.....。 .....カラダが、熱い!! 「もう、効いちゃった?」 ゆっくり、かすかになぞるように、氷樹は俺の服を脱がしていく.....。 「あ...!氷.....樹......や、め」 「うそつき」 「は.....ぁ」 「もう、こんなになってる....」 そう言うと、躊躇なく。 俺のをしごきだす.....口に含みだす.....。 いつもの優しくてかわいい氷樹じゃない.....瞳に狂気を宿した....。 サイコパス。 怖いのに......気持ちがいい......この感覚に溺れる。 ......カラダも動かない....快楽だけが俺を襲ってくる。 「あっ.......高耶、もうイッちゃった.......」 白い液体が一筋、氷樹の口から流れ落ちる。 それを舌でペロッと拾うと、氷樹は自分の服をゆっくり脱ぎ出して。 しなやかな細い体がまた俺に乗っかって.....俺は、氷樹の中に入っていく.....。 「....あぁ....ん....氷.....樹.....」 「高耶が....いけないんだ」 嘲笑するような、挑発しているような。 そんな表情をした氷樹は、人差し指を口に含んで舌を絡めて、そして、瞳を細めて俺を見下す。 その人差し指が、俺の口の中に滑り込んで.....。 舌をかき回すから.....。 口の中の刺激と、氷樹の中のキツさと暖かさで、俺は意識が朦朧とした。 「......僕に催眠なんてかけるから.....。 眠ってた本当の僕が出てきちゃったじゃないか。 高耶がいけないんだよ? さぁ、今度は高耶が僕の言うことを聞く番だ。 高耶、動いて。 動いて、僕をイかせて。 そして、ずっと僕を愛して......ね、高耶」 俺は、その言葉に抵抗できずに。 氷樹の言うがまま......氷樹を激しく突き上げるしかなかったんだ。 そんな俺を見て、氷樹が笑う。 「そう、高耶。いい子だね。どう?催眠にかかった感想は」

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