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第15話

-星-  何故ソファーのある進路指導室を選んでしまったのだろう。進路の相談だと思ったからか。進路指導室で生徒の他の相談を受けるのはそう珍しいことじゃない。  子犬は簡単にソファーに倒れ、簡単に腹を見せる。俺の腕を引っ掻いて。スラックスからシャツの裾を引き抜くと引き締まった薄い腹が見えた。筋は刻まれているが脂肪が足らないせいできちんと割れることはない。小麦色の皮膚を触らずにはいられなかった。柔らかく滑らかだ。無邪気な子犬の裸体を暴いている。激しい興奮はもう俺を止められなかった。潤んだ飴玉は俺を呆然と見ている。口の端から落ちる2人分の唾液がこの子犬を妖艶に飾り立て、また俺は子犬の冷たい唇を塞いだ。無抵抗な舌が絡まって、硬い髪に指を通す。深く巨大な満足感があった。子犬の手が震えながら俺の肩を押す。温く汗ばんでいた。指を絡めると子犬の手の小ささに堪らなくなった。 「緋野…せ、ん……っんッ」  空いた手が子犬の脇腹を撫でる。細い。腰の曲線を往復した。ベルトを取ってしまう。スラックスのホックも外し、ファスナーを開けて下腹部に手を伸ばすと髪と同じくらいの硬さの毛が指に絡んだ。薄いのか柔らかな肌の質感もそのすぐ下から伝わった。 「ぁ…っ、緋野せんせ…ぇっ、」  子犬の下の毛を探ると、そこの器官はもう硬くなっていた。俺は目を閉じて体内に溜まりきった熱を息を吐いて逃した。まだ身体は発育途上だというのにそこはある程度、大人の男になりかけていた。その差異にまた俺は汗ばんで目眩を起こす。しかしまだこの子犬のそこはわずかに皮を被っている。恥ずかしいことでもない。多数派によくある性質のものだった。柔らかく握って先端から根元まで擦る。 「っんっぁ、せ、んせ…」  子犬の手が俺の服を掴んだ。薄紅色の甘い果物のような先端が少しずつ皮の中から現れる。 「せんっんんぁっ!」  擦り切れた声がもっと聞きたくなった。もっと呼ばれたい。余裕をなくした声で、幼い普段の姿からは想像もつかないくらい乱してみたい。露わになった先端に唇を近付ける。躊躇いはある。こんなに急いでしまっていいのかと。まだ焦らしたほうがいいんじゃないかと。見逃してしまわないかと。  扱き続けた手を止める。子犬は訳も分かっていなそうだった。腰を揺らして俺の手の中で動こうとする。根元を親指と人差し指で絞めた。 「ぁ…あ…」  惜しそうな声を漏らして子犬はまだ腰を上下に振り続け快感を追う。 「せ…んせ、な……んで、…」  泣きそうに潤む目は飴玉よりもガラス玉のようだった。昔実家にあったサンキャッチャーのよう観賞していたくなる。 「ひ、のせ…ゃっあ!」  朝露のような蜜が愛らしい先端の窪みに溜まっていた。俺は舌の裏で掬い取る。ソファーの表面が子犬の肌と摩擦し軋んだ。 「あ、あぁあ…」  子犬は繋いだ片手を外そうとした。俺はそれが許せなかった。掴み直す。するともう片方の手が俺の頭を押して拒む。もう俺ですら止められない。歯だけ立てないようにして舌を使った。先端部の括れが舌に引っ掛かるのが楽しくなって何度も舌先で突ついた。子犬の身体が跳ね、高い声が上がる。ソファーが軋んだ。他の人に触らせたことがないようだった。自分の意識では予測できない刺激に戸惑っているようでもう俺のことなんか見てやしなかった。舐めている間にまだ片膝に引っ掛かっているスラックスも下着も邪魔になって足から抜いてしまう。 「能登島」 「緋野、せん…せ、ぇ…っ、」  息を乱しながら飴玉が子犬の目の中を転がっている。濡れた目の輝きに胸の中を鷲掴まれたようで苦しくなった。舐めたくなる。だがまだ手の中にある食べ残しに気付いて俺はまた子犬の性器を口に入れた。揺れ動きながらも怖気付く腰を押さえ、徐々に喉奥まで入れてみる。塩はゆさも苦さもこの子犬のものかと思うと止まらなかった。むしろもっと出せと先端の括れを焦らした。 「や、ぁっあんっ!」 「ぅ、んっ…」  子犬の腰が一際大きく揺れた。咥えていた器官が口の中で弾ける。舌の上に止まり、ゆっくりと口内に広がる。息をすると特殊な草の匂いが抜けた。子犬の身体で作れたものだと思うと燃え上がるような気分になる。子犬のようでもう身体は大人だ。生物としてはもう子供を抱いていてもいい。こんな身体で。まだ俺の手で好き勝手されてしまうような身で。 「かわいい…」  片手で顔を隠している子犬の顔を撫でていた。繋いだままの手は汗ばんで冷めていく。俺の手はまだ熱いというのに。 「…せんせ…」  息切れと化している荒々しい自分の呼吸にも構っていられない。子犬が子犬らしからぬ姿で乱れる様を求めていた。貪りたい。腹の奥が重くなる。筋だけ入り平たい腹が浮き沈みし、誘っている。女と同じように繋がれやしないか。繋がりたい。この子犬の中に入りたい。目眩がする。どこで繋がろうと厭わずにいる自身に驚いた。萎え始めている性器の下に指を潜める。 「あ…」  子犬は俺の手を止めようとする。硬く閉ざした場所を押した。 「せ、…せ、なん……で…」  繋いだままの手をソファーに打ち付ける。子犬の手が下敷きになっているが大した痛みはないだろう。だが鼈甲飴を大きくして濡れた目に俺が綺麗に映り込む。 「お前が悪い子だから」  子犬や子猫を虐めたいと思ったことはない。飢えたり濡れたり、轢かれたりしないかと心配になったことは何度かある。しかしこの子犬の前になると意に反してしまう。この子の前では優しい燈でなければならないのに。 「せ、んせ……ゴ…メン…せんせ、せんせ…ぇ、!」  指を硬く窄まった穴に突き入れた。子犬の悲鳴が心地良かった。 「い……た、い…ひ、のせ……っ、」  俺の指を拒み、何重にも巻いたゴムのような感触で締め付ける。 「痛いのか」  小さな頭が頷いた。飴玉が水膜に揺れていた。涙が溢れそうになっている。俺はこれ以上ないくらいに眉間に皺を寄せていた。眦を舐める。砂糖水なわけがなかった。甘さはない。子犬の頬を舐める。やはり甘さはなかった。汗の塩はゆさだけわずかに感じる。 「やめ……ひの、せ…せ、あ、あ…」  子犬の中に、たとえ指1本にも満たない質量でも捻じ込むことが出来た。俺の中ではまた新たな欲望が生まれる。まだ繁殖期にも入っていないような子犬と交尾がしたい。子犬と交尾が。交尾がしたい。この単語が、概念が強烈に焼き付いて甘美な響きを残していく。下腹部が重い。唾棄(だき)すべき変態だ。頭の片隅で思うだけだった。窄まりにはまだ俺のものは入りそうになかった。子犬が一生懸命、俺を受け入れるところが見てみたい。だが痛そうだった。暫く粘膜に指を突き入れていた。濡れることもなく軋むように硬い入口は俺の指を締め、指先は熱く柔らかな肉に包まれる。 「壊れたら一生面倒看る」  どうしてそんな言葉が出てきたのか自分でも不思議で仕方なかった。壊すつもりなどなかった。一生面倒を看るなど会って時間も経たない者に言われたところで何の信憑性がある。思い浮かんで咀嚼する間もなく口から出任せ同然に俺はそんな重い言葉を吐いていた。 「や、だ……ぃ、やぁ……ァ、!」  子犬は逃げようとする。押さえ込むのは容易だったが、逃げようとしたことそのものが許せなかった。もう戻れないほど海綿体には血液が集まってる。逃がす前に貧相な身体を穿った。無理矢理に子犬は俺を受け入れる。 「アァアアっ!」  硬い肉体と密着する。薄い腹にみっちりと俺が詰まっている。満足感に頭がぼんやりした。思考する能力がなくなってしまいそうなほど、すべてに満足した。 「は、ぁ……あ……ァア…ッ、」  軽い身体を抱き寄せ、俺はソファーに座った。子犬も俺の腰に跨がり、より深く繋がる。シャツだけ身に纏っているのがひどく淫靡だった。 「せ…ん、せ………」  結合部が濡れていた。まさかと思い、触れてみると手には鮮血が付いている。避妊具を付けていなかった。そういう物があることすら忘れていた。覚えていたとしたらやめたのか。持っていなかった。持っていたら?やめなかった。 「生だったな。俺以外とこんなことはするな」 「な、んで…ど、…して……」  青褪めた顔をする子犬を抱き締める。小さな悲鳴が聞こえた。傷んだ髪は汗とシャンプーの匂いがした。まだまだ底のみえない深い満足感に酔い()れる。 「せんせ…」  消え入りそうな声で子犬は俺を呼ぶ。子犬と重なった部分があることに俺は嬉しくて仕方がなかった。子犬の中は俺を強く拒んで押し出そうとする。俺は反対に腰を突き上げる。 「せんせ……せんせ…」  シャツとシャツの狭間から俺の口腔で一度射精した性器が濡れて天井を仰いでいた。白く濁った蜜が溢れ落ちていた。 「こんなふうに、してるのか」  俺の声は掠れていた。喉は風邪のひき始めのように焼けて痛んだ。先端部からあまり高低差のない裏側の筋を通って(とろ)みを帯びた精液が落ちてくる。指で掬う。興奮が下半身に働きかけ、俺はまた子犬を突き上げた。突沸を思わせる勢いで頂上部の穴から白濁が飛ぶ。 「ぁ、あっあっぁ、!」 「俺を見ろ」  俺を嫌がる腕を掴んだ。シャツが靡く。上下に揺らした。突き入れると俺の子犬の精が噴き出る。俺のシャツに散った。 -漣-  能登島のストーカーみたいになっている気がする。間違いなくなっている。近付ける隙があるはずだった。大神のいない時間なら放課後。部活終わり。スポーツウェアから着替えを終える能登島を追った。今日は少し顔色が悪いように思えた。帰るのかと思うと校舎に戻っていく。生徒玄関は閉められる時間だった。そうすると職員玄関から帰るしかなかった。能登島は暗い廊下を歩いて行く。俺も後に続いた。本当にストーカーだ。何と声を掛けようか、まだ決めてもいなかった。核心的なことを言われたら俺は冷静に真摯に受け止められるのかも分からない。俺が撒いた種だと分かっていても、それなりの言葉がくれば傷付くことはある。そういうものなのか、俺に言い寄ってきたヤツらも。冷たいコンクリートの壁に背を預け、気持ちを落ち着ける。今なら大神もいない。他の教師もいない。 「美潮」  階段を上がる前に呼び止められる。能登島に聞こえてしまいそうだった。意外にも気安く肩を触られる。緋野だ。 「何をしている?もう下校時間だろう」 「いいえ…別に……」 「親御さんも心配する。用がないなら帰れ」  それが厄介払いや揶揄のようで、恥ずかしくなる。必要以上の庇護されなければ生きらない人間だと思われているみたいだった。少しのことで母親は学校に連絡する。それは俺のためじゃない。暇潰しで、自己をアピールするためで、俺のためじゃない。 「…はい」  ただでさえ俺は腫物だ。自覚はある。祖父のことだけでなく、母のことも。素直に従ったほうが賢明だ。教員に迷惑をかけたいわけじゃない。でも引けなかった。能登島に会うなら今しかない。適当に同意してあしらって、また能登島を追う。緋野も何も言わなかった。俺と行く方向が同じらしかった。後を付いてくる。2階に上がっても能登島の姿はなかった。緋野はそのまま「気を付けて帰れ」と言って3階に上がっていく。教室にも能登島はいなかった。3階かトイレか、また別の部屋に用があったのか。少し痩せた気がして心配になる。笑顔も減った。俺が教室に居るからか。あれで大神の前では相変わらずやってるのかも知れない。痩せたのは…経済状況が傾いたか、それとも悩みでもあるのか。俺の所為だと思うには、能登島にとっての俺がそんなに悩みの種のように、俺には思えない。俺の所為だったなら、悪いと思いながらも、わずかに、ほんの少し、嬉しい。  職員玄関で少し待ってみても能登島は現れなかった。これはかなり気持ち悪い。気恥ずかしくなる。会おうと思えば教室で毎日会っているはずなのに。声を掛けようと思えば掛けられる。大神を振り解く気になれば振り解けないこともない。会いたい。目と目を合わせて、見るとか、そんなんじゃなく。呼ばれたい。また余計な世話を焼かれたい。くだらない話に巻き込んで欲しい。声を聞きたい。あいつの教室に響く爛漫な声を俺には聞く資格がないような気がして。スマホが鳴る。おそらく母親からだ。俺は職員玄関を後にした。振り向けば都合の良く能登島が出てくるんじゃないかと往生際悪く俺は足を止めた。あいつの存在が大きくなっていく。それこそ本物の腫物だみたいに。まだ明るい職員玄関を振り返る。誰もいない。苦しい。日常だ。望んだ時に奴がいないのは、息苦しい。胸が詰まる。俺の中で腫れていく。誰にも触らせたくない腫物に変わっていく。スマホが鳴り止む。また学校に連絡を入れられる。俺は門を出てもまだフェンス越しに職員玄関を見ていた。緋野が出てくる。何か大きなものを抱えていた。フェンス前の生垣でよく見えなかった。

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