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第31話
-星-
大神との特にこれという会話のない、ほぼセルフカウンセリングといえた時間が終わって子犬を待つ。ドアが開き俺の顔を見た途端に子犬は不安げな表情をした。俺が近寄るより先に飛び込んでくる。抱き留めるともう俺の肌に馴染んだ匂いが薫った。俺の腕が背に回るより早く子犬は俺のスラックスの前を開けはじめる。
「しょうた…?」
「したい。せんせと、したい」
子犬は俺を咥えて、跨った。解 してあるらしく抵抗感はあまりなかった。
「しょ……う、た…っ」
俺の腰を掴んで自ら腰を振る。俺は自分のことばかりで、若いこの身体のことを一切考えていなかった。
「せんせ、好き。オレ、せんせのこと大好き。好き、せんせ…」
ほぼ嘆きだった。泣きながら身体を振った。子犬の中は温かい。落ちてくる涙を拭いながら必死に上下する腰を抱いて止めた。
「オレせんせが好き。オレせんせだけ好き、せんせ…」
肩を震わせ垂れた前髪を耳に掛けた。
「しょうた、痛くないのか」
自分で涙を拭きながら子犬は幾度か頷いた。
「いきなり挿れたら痛いだろう。一旦抜こうな」
髪に手を入れ頭の形に沿って撫でた。俯く顔を上げさせる。
「せんせ…」
「大丈夫だ。だから泣くな」
泣くのを堪えている子犬を抱き上げてそのまま胸元に入れて新しく持ち込んでいたタオルで包むと俺は揺籠になる。
「せんせ…」
「腫れてないか。痛くない?」
「うん……ゴメンなさい」
「痛くないならいい」
子犬の自転車を車に積んで今日も自宅まで送り届けるか、それとも燈のもとに連れて行くか。俺では子犬の傷を癒せない。そろそろ、きちんと話をしたい。カラダの関係のことと燈とのこと。
「せんせが好き。せんせがいい。せんせが大好き…」
爪のしまい方を知らない子猫が這い上がってくる時にみたいだ。俺のシャツに頬擦りしている。触らずにいられない。首の届くところすべてに口付けたくなる。子犬から首を伸ばして俺にキスした。
「一緒に帰ろう。俺の家へ」
顎や耳に子犬は硬い毛を押し付けて俺を撫でる。幸せで幸せで目頭が熱くなる。
「せんせといるのが幸せ…せんせと離れたくない。せんせが一番好き。せんせじゃなきゃヤダ…せんせがいいよぉ…」
子犬はまた泣き出す。この子犬が泣くようなことがあっていいはずがなかった。この子犬に溺れる。倫理観も良心も罪悪感も何もかも捨てられる。絶対に手放さないと決めた。
「ずっと、何があっても傍に居る。しょうたが嫌がるまで、ずっと」
喉が嗄れて、胸は痛んで、目頭は熱く、腹奥は捻られたようだ。自分の中に他人の枠を作ったら映画の宣伝で見たような甘さなんて微塵もない。
「好き、大好き。ひかりせんせが好き…」
何度も子犬からキスさせられず、今度は俺から唇を塞いだ。
-雨-
暁 ちゃんが廊下の窓を見上げてぼけーっとしてたから声を掛けた。暁ちゃんは窓ガラスの上のほうのクモの巣に掛かったアゲハチョウを指してへらへら笑った。残念だねって言ったら「クモからしたらご馳走様だよ」って暁ちゃんは言った。アゲハがピクピク動いてクモの巣全体が揺れる。ホウキでも何でも持ってきて助けることは出来るけど、多分やらないのはあのクモの巣が翅 に付いたらもう取れないことを知ってるからじゃなく、きっと暗黙の了解で、クモの身になってるからだと思うんだわ。知らんけど。暁ちゃんはずっとアゲハを見てるからオレも見てた。「チョウチョになるのも一苦労なのにね」って言ったら暁ちゃんは「自然は勝手に数を調整するんだよ」って言ってた。ちょっと難しい話だった。話題変えるついでに、緋野と仲良いのかって訊いたら暁ちゃんはちょっと変なカオをしたから放課後一緒に居るところ見たって言ったら「帰宅部の部活動」って言った。その時の笑い方がヘラヘラしたものじゃなくて、ちょっと頭の良さそうな、どこかの御曹司 みたいであんまり暁ちゃんらしくなかった。その違和感が来た途端に背中がいきなり温かくなってショータがオレと暁ちゃんにしがみつく。
「一緒に居てい~ぃ?」
少し不安げな声でショータは言った。オレはショータを暁ちゃんに渡して振り返る。美潮がこっち見てた。ただでさえ陰気なのにもっと陰気でカビ生えそうだった。カビも嫌がるよ。あれが好きとか女子は分からんね。まぁああいうのは年下の女の子にはミステリアスでウケるし何より顔がCGみたいに綺麗だから置いといて、新寺しぇんしぇは頭 おか。
「ダイジョーブ?」
「う、うん。何が?」
オレと暁ちゃんでショータを挟む。暁ちゃんはもうクモの巣を見るのやめて、またヘラヘラしたカオに戻ってた。美潮と何かあったのか遠回しに聞いたけどショータは分かりやすい態度で誤魔化すけど、これは何かあったね。ざまぁ~半分、しっかりやれよって怒 り。
「ショータ、ちょっと暁ちゃんといて」
オレはまだ廊下のど真ん中に突っ立って、近付くオレにも気付かずぼんやり物欲しそうなカオでショータ見つめてる美潮の腕を引っ張った。まだぼやぼやしてて、精神 に違う人入ってんじゃない?
「みっしーさぁ…」
「放せ」
ショータが見えなくなった途端に腕を払われる。
「ショータのことあんまりいじめないでよ」
ちょっとカマかけたらみるみる表情変わっていて、まだ表情筋生きてたんだ。
「…っ!」
「この話ここで出来ないからちょっと、」
「いいっ!要らない…」
美潮は叫んだ。周りの目を引く。また美潮の腕を掴んで裏校舎のカビ臭い空き教室に突っ込んだ。
「ショータとくっついたんだ?」
一度もオレと目を合わせないで返事もしなかった。何してたか聞いてたよ。オレが望んだことなのに、全然嬉しくなかった。あれは。
「くっついたって言わないか、あれは」
睨むようにオレを一度だけ見て、また目を伏せた。
「苦しい」
日頃から憂鬱そうなツラしてたけど、余計に磨きがかかった。これはまたモテ度が上がるね。悩ましいカオしちゃって。新寺しぇんしぇのことでも紹介しといてあげる?美潮はそれから廊下のほうを見ていた。
「誰か来た」
話は終わったとばかりに美潮は出て行った。誰かと喋ってる。喋ってるっていうか話し掛けられてる。おはよ、とか、今日はいい天気だね、とか、体調悪かったらいつでも来てね、とか。美潮は微風で掻き消されるほど声小さいから何か言ってるのかどうかも分からなかった。相手は新寺しぇんしぇ。ストーカーでもしてるの?入れ違いに入ってくるから何する気なんだろうと思って部屋仕切ってる棚とラックの陰に隠れちゃった。新寺しぇんしぇは壁に凭れて胸とか腹を自分で撫で始めた。ちょっと不穏な感じがするな~とは思ってた。
「ん…っ、」
服の上から胸をぐりぐり押し始めて、どうしよ、完全に出るタイミング見失った。トイレでやれよ。
「あ…ぁっ…」
ああ、なるほど美潮見ちゃったから?違うでしょ、美潮目当てじゃなかったらこんな場所来ない。じゃあやっぱりストーカーでは?胸いじりながら焦らしまくって、なんかこういうプライベートなところ見ちゃうの悪いなって。しまいには好き好き呟きながらちんぽいじり始めて、予鈴も鳴っちゃうし、仕事しろって公務員。イケメン、高身長、公務員、温厚柔和、童貞臭い、学校で自慰 る、生徒に片想い中。
「ぁ……好きです…好き…」
赤黒いちんぽが片手の残像から見えた。っていうか喋り過ぎじゃない?そういうもんなの?独り言多いタイプとか?ガサゴソ音がして、ふぅふぅはぁはぁ声がして頭おかしくなりそうだった。なんで野郎のちんぽ見なきゃなんないんだ。拷問か?
「新寺しぇんしぇ~ちょっとウソでしょ~」
もう隠れてられなかった。新寺しぇんしぇはマヌケな声出して射精 った。なのにまだ手を止めなかった。興奮した目でオレを見た。
「笛木さん…行かな……で、っあっあっあっ!」
オレはあからさまにイヤなカオして教室戻ろうとしたのに新寺しぇんしぇはまさかのまさか、オレを呼び止める。壁を伝いながら床に座って足を開く。
「相談に、のって……、あっ…」
「はぁ?」
情けなくて、情けなくて、見てるオレのほうも恥ずかしくて仕方がない。何、相談にのってくださいって。その間も新寺しぇんしぇはシコシコしこしこ止めない。
「…先生、おかしくなる…」
いや、もうおかしいんだよな。何もかも。何もかもおかしい。新寺しぇんしぇの頭も、オレの身体 も美潮のバカと緋野のド畜生も。
「みっしーと会ったから?」
相談に乗る、の意味が分からなかったけど、オレは多分一生手に入らない、床に散った精液指で掬って新寺しぇんしぇのお口に突っ込んで掃除させた。だって無理でしょ、精液 って内臓で作られるんでしょ?移植でもしない限り無理じゃない?医療 がやっていい領域なの?何度も指で掬って新寺しぇんしぇに舐めさせる。オレは一生、たとえちんぽ作っても出せない。
「みっしーは他に大好 な人いるからやめときなよ。入る隙ないよ。緋野しぇんしぇにしときなよ。生徒じゃないんだし。あーしから言っといてあげよっか」
胸いじくってる手を見てるの焦れったくなってオレがシャツの上から摘んだ。ぷつってしてる。枝豆剥くみたいな。親父のしか見たことないけどなんか大きくない?そのままぐりっと捻った。新寺しぇんしぇはびくびくする。
「ぁひっ…っ!」
公園とかにある水飲む用の水道みたいに精液が上に向かって噴き出た。本物ってすげ~!って感動した。床に落ちたのも全部掬って新寺しぇんしぇの口に入れた。本当はオレだって、これ持って生まれてくるはずだった。母親の子宮 に置いてきちゃったんだよ。オレはまだ、生まれつき手がない足がないみたいな感じでちんぽ生えはずが生えないまま生まれたんじゃないかって思ってる。
「緋野しぇんしぇもさーカッコいいじゃん。みっしーより大人だしさー」
「あっ、あっ、あ…ちくびがっ、ぁっあ…」
オレはやることなくてぷつぷつしてる乳首いじった。新寺しぇんしぇはズボンに手を突っ込みはじめる。ケツ痒いのかと思ったけど様子が違った。なんか熱っぽいカオして新寺しぇんしぇは長く細く息を吐いた。
「ああっあ…あ」
腰を浮かせて新寺しぇんしぇはバイブレーションする。未知との遭遇って感じだった。
「お尻の…穴、ほじるとこ……あっんっ見て……恥ずかしいの見て…っ!」
オレは新寺しぇんしぇを見下ろした。膝が何かの発作みたいに震える。悪霊が取り憑いた映画の有名なシーンと同じだった。
「踏んでくれ……先生の大事なところ、踏んでくれ……あっあっああっ!」
ドロドロになってるちんぽ靴下で踏みたくなかったから指定の便所スリッパで踏んだ。ちょっと芯の硬さがあって、でも弾力もある。タマの部分かな。びゅるびゅる精液が飛んだ。そこだけ生きてるみたいにちんぽはぴくんぴくん跳ねてる。本物みるたびにオレの将来の設計図みたいなのが曇っていった。だって頭のどっかで無理だって思ってる。居場所掻き回してまでやることなのかも分からない。家族の中のこと、書類手続き、過去との清算、色々さ。オレを女だと思ってる奴等のほうが多いというか、オレを女だと思ってる奴等しかいない。
「みっしーでシコって気持ち良かった?」
ド変態の生徒愛好 じゃん。まだ射精してるちんぽをサンダルで転がした。だらんだらんしてる。生命の神秘ってすげ~わ。そんなところでドアが開いて、「あ、終わったな」って思った。オレも新寺しぇんしぇも。実はこれがホモ行為なんてことも誰も信じやしない。新寺しぇんしぇだって分かっちゃいない。いや、新寺しぇんしぇのやってることは十分ホモ行為なんだけどさ。とにかくヤバいと思ってオレは両手広げて屈んで新寺しぇんしぇの本物ちんぽ隠した。
「笛木。授業がもう始まっている」
緋野だ。緋野だわ。寝とら一家のド畜生お異母兄 ちゃん。でも部屋の中覗いて状況察したみたいだった。ヤバいよね、女子生徒と下半身丸出しの養護教諭。
「…何をしている」
「相談です。相談。某 教師 と某生徒のヤバい関係を相談してたんです」
緋野の片眉が上がった。表情筋さ、あるなら日常的に使えっての。
「話がある。放課後に来い」
「へーい」
「すぐに授業に戻れ」
「ほーい」
そろそろ新寺しぇんしぇも本物ちんぽしまったよな?後は知らない。オレは教室に戻った。なんでオレ巻き込まれたの。相談にのっちゃったから?教室に入ると美潮がオレを見た。ショータはいい子だからもうちゃんと席に着いてた。少しでも新寺しぇんしぇがちょっとショータに似てるなんて思ったのが間違い。
「笛木ちゃん、大丈夫だった?」
オレの袖引っ張ってショータは少し心配そうにオレを見上げた。可愛いから撫でちゃった。
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