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第38話
-夕-
相変わらず緋野てんてーは乾涸びたミミズみたいだった。やっぱり話は聞いてなくて、呼ぶと緋野てんてーは別人になったみたいに柔らかいカオするから末期かなって。もうすぐ新しい家族迎えるんだから生きててよ。
「すまない、何の話だったっけか」
ずっと項垂れて肩とか首凝らないのかな。授業中の数学アンドロイドはどこ行ったんだろ。もうボクの中の緋野てんてーの印象 は一新された。黙って見下ろしてるボクに緋野てんてーは骨肉があるみたいに首を傾げた。ボクが大人とか兄とかみたいに子供っぽく。
「地域猫の話です」
見ちゃいけないものを見た感じだ。共感性羞恥っていうやつ?ボクの失敗みたいでこっちまで恥ずかしくなる。
「猫…」
「人懐こい猫がいるんです。もう成猫 で、去勢された後だから結構太ってるんですけど。その道の前を通ると足元に寄ってくるんです。ボクに蹴られたり踏まれたり、酷い目に遭わされるんじゃないかってもう怖くて。人間なんか信用しなきゃいいのにな…なんて、猫を渡す相手にする話じゃなかったですね」
緋野てんてーは首を振った。閉じた世界から現実に戻ってきたみたいだからボクももう用は済んで、蟻を眺める。ボクがわざと踏み潰したりしないように見ててよ…なんて思って緋野てんてーはボクのパパじゃなかった。そうだ、緋野てんてーはボクのパパじゃない。ボクは緋野てんてーをパパか何かだと思ってた。
「緋野てんてーに渡す子猫たんは無事ですよ、もう緋野てんてーの飼猫ですから。ボクも傷付けようだなんて思いません」
「大神は、別に傷付けようと思っているわけではないだろう」
フォローするような気遣いめいているけれど、特に説得しているわけでもないほんの何気ない一言だったんだと思う。緋野てんてーにとっては。ボクは何かとんでもないものに撃たれたような気がして目が染みた。寸分の違いで嵌らないパズルのピースがどういうわけか今嵌った。
「どうした?」
ボクは声が出せなくなって首を振る。顔も見られない。緋野てんてーから顔を背けて目を大きく開けて、早く眼球を乾かしたかった。
「緋野てんてー…ボクは自分でいいな好きだなって思ってきた子にも酷い妄想しか出来なかったけど…緋野てんてーは幸せになるべき人です。今、そう思いました」
「俺が幸せになるべき人なら、もっと先に幸せにならなければおかしい奴等はいっぱい居る。もちろん、大神もそこに含まれているはずだ。だがありがとう。大神にそう言ってもらえて嬉しいよ」
急に緋野てんてーが近くに感じた。でも多分それを近いと思ったら、見えなくなるし触れなくなるくらい遠く離れちゃいそうで怖くなる。この感覚をボクは知ってるんだ。でも大丈夫だよ。だって緋野てんてーにはショウタが居るんだもん。緋野てんてーはショウタを飼うんだから飛び降りたりしない。ショウタを置いて、首吊ったりしない。ショウタの前で薬いっぱい飲んだりとか、ショウタを巻き込んで練炭焚いたり薬品混ぜたりとか。ショウタは人懐こいからすぐに緋野てんてーに慣れて、もっと大きくなったら喉鳴らしてお腹見せてさ。緋野てんてーのまだ硬直してない死体に身体擦り付けてくれるよ。でも飛び降りはダメだね、ショウタは傍に寄れないし、もし外に出られてもボクみたいな子供に見つかったらいじめられちゃうよ。練炭焚くのも薬品混ぜるのは絶対ゼッタイぜーったいやめてね。ショウタも死んじゃうから。ショウタがこてんってゴムーボールみたいに死んじゃうのを想像をしてギュって胸が苦しくて気持ち良くなった。でもその近くにあるはずの緋野てんてーの死骸は母さんの死骸と同じくらいあんまり興味が湧かなかった。そうなると、やっぱりボクの興味のある死骸って限られてるんだな。飛び降りちゃったりミンチになったり真っ黒焦げなら見た目はほとんど同じなのに。死んじゃえば同じ肉塊で、もうそこには個人として判別できるものなんてないのにそれでも人間には思想があるから、全部等しく同じ肉塊って分からないんだ。でも普通の死体には顔があってそれなりの体格が残るから、死んだ後も個人なんだな。ボクはコンクリートに叩き付けられた礁太の肉塊なら、なんとなく見分けつくつもりだったけど。だって母さんの着てた服なのに途端に違うものに見えたんだ。
「そろそろ帰ります。緋野てんてー、土曜日、楽しみですね」
緋野てんてーはまた優しいカオをした。ママに似てた。
-雨-
欲求不満な男子どもにショータはよくカワイガラレル。ちんぽまさぐられたり、おっぱい揉まれたり。最近やたらとそれが顕著。オレのすぐ傍で割りかし大柄な野球部のヤツの膝に乗せられておっぱい揉まれてる。ショータはくすぐったがりながら悶えてる。ショータはそれをじゃれ合いだと思ってるし野球部のソイツもただ何となくのムラムラを小柄で軽くて態度もキツくないショータで発散してるだけ。別にショータである必要はない。他に似たような属性はいる。嫌がる女の子にやったら笑えない問題だけど、ノりいい野郎どもと乳繰り合うのは何とも罪の無い光景なわけで。教師だって笑って見過ごす。何故ならショータもくすぐったがってイヤがっても真の底から嫌がっちゃいないのが分かるから。ショータはオレに助けを求めるけど、野球部のソイツにどっかの誰かさんみたいな他意がないことは分かるから、まぁそこそこ悪くない光景で助けにも入らずおっぱい揉まれてちんぽ触られるショータを観賞してた。でもどっかの誰かさんが羨ましさで気が狂いそうになってるから冷やかしにいかずにはいられなかった。脇腹をくすぐられて丸太みたいな膝で上下に揺すられるショータを置いてオレはどっかの誰かさんの殺意に満ちた目の前に移動する。美潮はうんざりしたカオで校庭のほうを向いた。
「目、怖いよ。ただのじゃれ合いなのに妬いてる的な?」
何か煽りたくなってそう言ったら美潮は席から立っちゃった。ショータはまたおっぱい撫で回されてた。こんな触ってるのに勃たないのヤバくね?って野球部のソイツはけらけら笑って、ショータはソイツじゃ勃たないとかなんか下品な話をしてた。オレも混ざりたかったね。でもオレがショータのカラダまさぐったら問題だろ。美潮はショータたちの横を通って教室を出て行った。暁 ちゃんがすれ違いに入ってくる。買ったばかりのイチゴミルクにストロー挿して、一口目をまだおっぱい触れてるショータに飲ませてから自分で飲んで席に座った。それで美潮の席の前にいるオレにへらへら笑った。美潮はトイレでしょ、ヌきにいったんじゃない。そんなわけないケド。
「なんか美潮きゅん怒ってなかった?」
「ムラムラしてただけっしょ」
「なんで?」
暁ちゃんも興味ありそうだった。
「あーしのパンチラ見たから」
「それはないね」
暁ちゃんは苦笑した。まだショータは野球部のヤツの膝にいたけどくすぐったがる声は途切れた。モーホーじゃなくても野郎の多いクラスって割とあんなもんだ。
「あっ、んんっ…」
でも突然オレと暁ちゃんの間を通り抜けたヤバい声にお互い目が点になる。ショータの可愛い声はこの場所じゃなかったらもうちょっと聞いてても良かった。何してんの?って思ったらショータは乗ってる膝変わって、今度は同じサッカー部の桃森ナントカってやつといて、また胸揉まれてた。教室は騒然としていてなんかショータは見世物にしてる感じがすごく嫌。
「あ……っあ、ッ」
確かB組かA組の桃井とかナントカってヤツはニヤニヤしながらショータのおっぱいを触る。美潮と人気を二分するくらいモテるらしいケドそれを鼻にかけてオレに言い寄ってくるからホントにウザい。
「のっち、乳首感じるんだ?」
「んっ…ぁっ」
ショータのガチっぽい声が何か静かになったクラスに響いた。
「誰でも感じるよそんなトコロ」
暁ちゃんはそっちも見ずにあくまで外野を装ったふうで、知らんカオしてイチゴミルクを吸う。
「でものっち、敏感過ぎなぁ」
「ぁ、あっ…おっぱい、」
「ってゆーかなんで居んの?あーたC組だっけ?」
ショータの見ちゃダメなカオから目を逸らしてオレはA組かB組のナントカカントカに怒っちゃう。
「そ、今日からC組。だからよろしくな、縁 。そんで、教科書貸してくんね、古文の」
もうナントカはショータから興味無くしたみたいだった。
「あ、ボク貸すよ。今あるし」
暁ちゃんは引き出しから古文の教科書出してショータに手を出したヤバいヤツに渡した。
「えー、縁のじゃねーのかよー」
「ごめんね」
暁ちゃんは怒るでもなくヘラヘラしてた。かましてもいいくらいなのに。
「じゃーなのっち。部活で」
ショータの背中を馴れ馴れしく叩いてナントカは出て行った。ショータはまだちょっとダメなカオしてオレたちのところに来る。無防備に手ブラして。まだクラスは変な感じだった。ショータがいっくらかわいいからってショータのこと変な目で見るなよ!
「はぁ~、オレおっぱい弱いのかも………あ、ゴメン、笛木ちゃん」
「いや、いーケドさ」
それよりさっきのほうがクラス全体的に対してのセクハラだと思うんだけど。
「オレおっぱい弱い?」
ショータは暁ちゃんに訊いた。暁ちゃんはへらへら笑って「知らない」って答えてたけど多分あれは弱い部類だと思うね。緋野か美潮にやられたの?それともショータの天然感度?
「そんなの触ってみないと分かんなくない?」
オレはショータの乳首に指を突いた。平たいし思ったより硬かった。おっぱいって言われたら柔らかいもの想像するじゃん。プツってしてて、もうちょっといじめてみたくなるけどガマン。
「うーん、別にフツーかな?ちょっとくすぐったいけど」
「状況が違うんだし、あんな状況なかなかならないでしょ。ダメだよ、これから油断しちゃ」
ショータが暁ちゃんと話してる間もオレは名残惜しくてショータのおっぱい触ってた。ショータはオレのモミモミしてる手を触るだけで剥がそうとはしない。ショータのおっぱい。おっぱいって感じじゃなかった。胸板だ。
「笛木ちゃんおっぱい触りたいならボクの触る?」
「えっ!いい、ダイジョーブ」
ショータのおっぱいじゃなきゃ野郎のおっぱいにはまったく興味ないわけで。イチゴミルク飲みながらまだヘラヘラ笑ってるけど暁ちゃんちょっと怒ってない?それで王子様まで戻ってきちゃうからややこしくなる。ショータの手が重なってるオレの手剥がされるし。美潮は大激怒 。怒 プン。ムカ着火ファイア。大憤激悪夢 。やばたにえんの悪 さーP38。
「みっしー、おかえり」
美潮は何も言わないでキレーな顔してぶすくったれて席に着いた。ショータはなんかちょっとビビってる。
「2人っきりにしといてやろうぜ」
暁ちゃんは冷やかすみたいにオレに言ってショータの肩を抱いてショータの席に行っちゃった。
「ショータのおっぱい揉んじゃった。いーでしょー。羨まし?」
相変わらずCGみたいな顔してるけど目がちょっと動じてるのがくっそ面白かった。揉みたかったんだ。違うね、触りたかったんだ。そうでしょ、美潮。オレだっておっぱいだけなら何の価値もないよ。ショータじゃないなら。おっぱいでも肩でも腕でもいい。ショータなら。
「遅いよ、みっしー。気付くのも、逃げんのも、戻ってくんのも」
やっと美潮はオレを睨んだ。ショータのあんなえろい声、いつも聞いてるの?ショータのあんなかわいい顔、いつもみてるの?傍で。気に入らないな、美潮ってホントやだ。大っ嫌い。でもこれでいいんだ。生徒愛好 で寝取られ一家の色情魔 お異母兄 ちゃんにいいようにされるくらいなら。知らん性病 持ちの軽そうな女に取っ捕まるよりは。
「俺だって…好かれたい」
美潮はヒジキみたいな睫毛を閉じかける。ケーコクのビジョってやつ?まったく見惚れちゃうね。オレでも一瞬持ってかれかけた。顔がいいってやっぱ得だわ。でも何よりそんな弱音をオレにこぼすんだから面白くって仕方がなかった。なんか落ち込んでるみたいで美潮をいじめてる気分だ。違うでしょ、オレはショータと美潮のこと、これでも妥協 してんだよ。
「ま、ファイト。愛 してもらえるようにさ?あーし、応援してっから」
笑いが止まらないよ美潮。ショータの肌 気持ち良かった。美潮の前で触るのはもっと気持ち良かった。あーあ、やっぱオレってママンの子だわ。寝取り一族なんだよ、つらいね。ショータのところに戻って、オレのおっぱいも触るか聞いた。ショータにだけ。異性ってだけなことで、ショータが特別な感情なんて持ってないし、持たないの分かってるから。でもやっぱり異性ってだけでショータは即答で断った。悲しいな、ショータ。異性として見られたことじゃなくて、オレに触らなかったことじゃなくて、もう絶対的に隔たれてる認識が、さ。
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