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第47話

-漣-  気質(がら)の悪そうなチームメイトは緋野とショータのことを訊きたがった。勘は鋭いようで、礁太が根から俺を好いて付き合っているわけではないことを見破られた。そうなると礁太が言い包められるのは早く、そのうちあのチームメイトは礁太を口説き始めた。礁太は俺に、あのチームメイトと緋野のことは片付けるから俺と別れたいと言い始める。それはそうだ。緋野への片想いがどうにかなりさえすれば礁太は俺と付き合う必要なんかない。あのチームメイトは自分なら忘れさせてやれると豪語して、理由は友人で兄貴分だから恋人よりも偉いのだと言った。礁太も礁太で俺を重くて怖いと言う。  その日の帰りに手を付けられなかった弁当を返される。もう要らないと強く言われた。俺が無理矢理食わせたカップケーキだけしか腹に入れていなかったことになる。許せなかった。俺は礁太を犯した。禁忌にしていた。肉体関係が目的だと思われてしまうのは避けたいことだったのに。それでも俺は礁太の曇りながらも漏れる高い声と熱く柔らかな内部と細い肢体を前に我を失って、感じやすい礁太は俺にしがみついて怖がって嫌がった。なのに俺はそれにまた興奮した。俺は礁太と別れない。  量を増やした。礁太を陵辱して3度出した。それでも俺は2回、出来るならあと3回出して、礁太の中に入らなければならなかった。バニラの薫るプリンを作って翌日礁太に会って、あと10分しかないのに俺はまた礁太を犯した。機嫌が悪くのも当然で、俺を見てくれない。あのチームメイトがクラスに来て、笛木は俺を嘲笑う。大神はこういう時、間に入った。意外と気を遣っていたらしい。  昼休みの礁太は笛木と菓子パンと、彼女が作ったらしい少し歪な味噌握りを食べていた。食べ終わったら来るように言えば礁太は嫌がりながらも律儀に俺の傍にやって来た。 「あの、さ…デザートなら、要らないよ…」  少し遠慮しながら礁太は大神の席に座った。そこに大神が居るみたいに一言断って。 「食べろ。食わせてやる」 「い、いい。要らないって…」 「駄目だ」  言いたくない台詞が続きそうになる。これは俺が礁太を圧力に従って意のままにしてしまうから言いたくない。脅して作った形は恋愛に於いて意味を成さない。俺は礁太を犯した。肉欲が無いだなんて言えない。それでも俺は肉体より礁太のアイガホシイ。 「美潮…」 「別れないからな」 「だって…美潮には何の得もないじゃん。あ…あるか。で、でもオレじゃなくても、可愛い子なんて美潮にはいっぱい居るよね?オレより()っさい(やつ)だって…」  保冷剤に埋まったプリンを取り出し、掬って小さな口に運ぶ。 「自分で食べられるから…!」 「食べないだろう。俺にやらせろ」 「やらせろって、なんかヤだ…」  口を開けないため床に落ちないように添えた手で柔らかな唇を捲る。 「二度と、他の人と付き合った方がいいとか言うな。俺は俺の意思で礁太と付き合いたいと思ってる。礁太じゃなきゃ駄目だ」  礁太の口に俺の何億もの亡子(こども)が入っていく。バニラの匂いが強い。焼いてしまえば生臭さは消える。出した段階からプリン液になった時も匂いはないような気がしたが、自分の匂いには気付かないものだ。 「…っ甘い」  礁太は口元を押さえてプリンを噛む。よくあるプリンより少し硬いかも知れない。 「何度も言うけどさ…絶対、ゼッタイ期待しないで。オレ多分、美潮のこと、ホント、好きになれないよ…?ガチの、マジで」 「分かってる」  聞きたくないことだ。それでも礁太のアイが欲しいと思ってしまうから、つらい。礁太の声を聞きたいはずなのに何も書きたくない。プリンで口を塞ぐ。俺の人間になれなかった遺伝子が可愛い歯で刻まれる。俺ですらも惚けてしまう体温で溶けていく。 「分かってない…」 「分かってる」 「分かってないよ!」 「分かってる!」  キスしてしまおうかと思った。カラメルソースで艶を帯びた唇は何よりも美味そうだった。事実、そこに口付けたら離せなくなることを身を以って知っている。 「じゃあ、もう好きとかオレじゃなきゃダメとか…言わないでくれる…?」  俺は礁太の小さな顎を掴む。怯えた目を向けられて、こんなのは脅しで八つ当たりだ。そんなの無理に決まってる。 「す、すす…好きになれないの、も、申し訳なくなるんだって…好きって言われるだけ、美潮といるの、つらいよ。重いんだって」  俺が何か言うたび礁太は正直な気持ちのナイフで弱いところを滅多刺しにする。もう黙って小悪魔みたいな口にプリンを入れていく。カスタードとバニラの匂いに俺の匂いはしなかった。礁太も気付く様子はない。なのにカラメル色の大きな目は無防備に俺を突き刺す。 「…あのさ、その、だからさ…欲求不満なら……、お弁当とかお菓子作ってもらったし…ホントは()だけど、手淫()でいいなら、する、よ…」 「怒るぞ」  俺がYESと言うんじゃないかなんて躊躇はありながらも礁太なりの譲歩だったんだろう。それは分かる。あれだけ身体を好き放題した。肉欲は確かにある。でも何故言葉通りそのまま好意を受け取ってはもらえないんだ。この感情までが欲求不満と片付けられてしまうのは我慢ならない。 「オレは緋野せんせが好き。ずっと、これからも」 「それなら俺はずっと礁太と恋人で居られるんだな」  礁太は嫌がった。教室だが構わず触れるだけのキスをする。触れるくらいしかできない。礁太が嫌がるから。 「ばか!みんな見てる…」 「見てないやつもいる。みんなじゃない」 「屁理屈!」 「俺は別に学校中に礁太は俺と付き合ってると公言したっていい。俺はな」  軽い力で小さな拳が俺の二の腕を殴った。 「やだ」 「あまり妬かせないでくれ」 「ごちそさま、美潮。じゃあね」  最後の一口を食べ終えて礁太は逃げるよに去っていく。俺の3億の遺伝子(こども)を腹に入れたとも知らないで。バニラの匂いに礁太の香りが混ざってまだ目の前に残っている。俺もプリンになって食われたい。あの唇に()まれたい。舌で掻き回されて、礁太の高い体温とひとつになりたかった。礁太は笛木のところに戻って仲良さそうに、(はた)からみたらそれこそカップルみたいに菓子を分け合っていた。俺が女じゃないからか。俺が緋野じゃないからか。俺が明るくお喋りじゃないからか。苦しくなる。 -泉-  のっちと王子様は偽装カップル。いいこと知った。緋野てぃーと王子様、確かに雰囲気とかちょっと似てる。大判焼きと今川焼きくらいの違い。ブロッコリーとカリフラワーくらいの。パプリカとピーマンくらい。一旦びろびろになった綻びを知ったらこっちのもんで、ぼくは優しいからその時は「ふーん」で済んだ。のっちが緋野てぃーの名前(こと)呼んであんあん鳴くんじゃさ、嫌でも気付く。王子様って緋野てぃーの代わりなんだなって。それでのっちも教師にガチ恋とかえげつないな。  でも王子様の腕の中でぼくにイかされてたのっちはなかなかヨかった。上体(うえ)はカレシ、尻穴(した)はぼくってなかなか。ぼくの指でかくかくしてたのかわいかったな。達成感っていうの?王子様の鼻を明かした感じ。もうちょっと泳いでもらって、それからだね。でもさ。  のっちはもう付き合ってるみたいに(ゆかり)と仲良い。ンでも姉弟(きょうだい)にも見えるしあくまで仲の良さは付き合ってるレベってだけでカップルって感じの甘酸っぱさはない。C組覗けば今日も一緒に居るし。一番仲良かった友達がベランダから落っこちてからのっちは縁と居るようになった…っつーかこの場合、ぼくら縁見に来てるんだから主語は縁だよな。男がケツでイくってインパクトあり過ぎてちょっとのっちのこと意識し過ぎ引っ張られてんのかも。その前からのっちの乳首いぢめたりちんこ触ったりムラついてチュウとかはしたケドさ。全部、暇潰しとムラムラの延長じゃん?ぼくは気付くと中に入ればいいのに教室の外でジトーってのっちと縁を眺めてた。出入りの邪魔になってたまである。キャッキャウフフしててるのが気になって気になって、そのまま観てるのも楽しいケドぼくものっちとキャッキャウフフしたい。あれ?違うな、縁とだよ。王子様ものっちたちをジトーって見てた。カビ臭く陰気に根暗極まりなく。呪ってんのかな?縁を?怖。女の嫉妬は陰湿だケド、男の嫉妬は凄惨だよー?キャプテン括弧笑(かっこわら)部長(ぶてふ)と、あとなかなか綺麗なカオした1年。ライバルは多いよ、王子様。ま、その中で一番ぼくがカッコよくてその中で一番ぼくがえっち上手いしその中でぼくが一番ちんこデッカいケド。比べたことはないケドそんな気がする。っていうかそんな狭い範囲に留まらないで学校単位で一番(それ)だよ。 「な、のっち!」  ぼくものっちと縁のキャッキャウフフに混ざる。後ろから肩を抱いたら見上げる口元に食べかす付いてたからチュウして取ってやろと思ったら縁に邪魔される。のっちに触らせないようにする縁の手を取って手の甲に白馬の騎士みたいなチッスする。 「わー!」  のっちは女子みたいにキャーキャー言ってはしゃいだ。縁はぼくの手を払って、ぼくのチッスした手を汚物みたいに遠くに曲げたまま水道に行こうとしたケド、途中で引き返してぼくのこと睨んだ。 「ショータに変なコトしないでよ!ショータ!このチンカス野郎に気を付けてね」 「2人っきりー。いぇーい。のっち、元気?」 「う、うん。元気だよ!」  縁の座ってたところに座ってまだちょっと体温が残ってた。膝を叩くとのっちはちょっとまだ照れながらそこに座る。猫みたい。デブ猫より軽そう。 「あのさ、笛木ちゃん帰って来たら、オレあっち行くね?」 「なぁんで。一緒に居ろよ」  狭くて薄い肩に顎を乗っけて後ろからのっちの顔を見た。耳元が近くて舐めちゃいそう。 「笛木ちゃんに会いに来たんでしょ?オレ、そういうんじゃないからさ、ムカついたりしないでね」  ホントにのっちは素直で、言い方も雰囲気も嫌味がないからなんでも許しちゃうし、ヤキモチ焼くことも忘れてた。それにぼく、縁に会いに来てたんだなって気付いた。 「のっちにも会いに来たんだケド?」  脇腹くすぐりながらゆらゆら揺れる。のっちはきゃはきゃは笑った。頬っぺたに毛先が当たる。シャンプーの匂いがするな。作り物みたいなグレープフルーツみたいなやつとミントのスースーする感じの匂い。夏に使うと気持ちいいやつ。イチゴとかは作り物だと結構あざとい臭ささがあるケド、グレープフルーツだとなかなか。大きな犬と遊ぶみたいに横に揺さぶる。かわいい。 「オレに?」 「そ、のっちに。王子様に怒られちまーかな?」 「ダイジョブだと思う。美潮はただカラダ目当てだから…って言ってもオレ、そんなそういうの、上手くないんだケドさ」 「違う」  なんかぼくのでものっちのでないも声がなあい聞こえたんだケド… 「肉体(からだ)目当てなわけないだろう」  王子様が立ってて、のっちはぼくの膝から飛び降りた。膝がちょっと寒く感じる。 「礁太」 「な、何、美潮。オレ、泰ちゃんと話してるんだけど…束縛されんの、あんま好きくない…」  痴話喧嘩かな。王子様はジトーってカビ臭い目でのっちを見下ろして、のっちは顔上げられないみたいで床ばっか見てた。 「そうか。笛木から様子を看るよう言われただけだ。話の邪魔をして悪かったな」  噂じゃ表情筋が全滅してるってゆー王子様は背景に花散らすみたいにふわ~んって笑った。ちょっと見惚れた。元々きれーなカオしてるし。それでまた離れて行った。のっちはのっちでぼくの膝じゃないところに座る。つまりイスだな。のっちが座る場所は2つ。ぼくの膝か、ぼくの膝じゃないか。 「なんか怖いんだ、美潮。頭打ったのかな。時間差で、いきなりおかしくなるってあると思う?」 「うーん、人体は不思議がいっぱいだからな~」  たとえばあの王子様に巨ちんが付いてるらしいとか。たとえばのっちがケツでまんこみたいにイけるとか。のっちは割りとガチめに訊いたらしくてちょっと不安そうだった。なんか前に階段から転落させたとかそんな話は聞いたケド。 「大丈夫(だいじょび)だって。のっちがあんまりかわいいからちょっとおかしくなっちゃったんだよ」  カラダ目当てなワケねーだろ、あれが。どう見たってガチ惚れしてるぞ。ヤバくね?ホントの好き(ぴっぴ)に似てるって爆発的有利(ばくアド)じゃん。ちんこがデッカいとかえっちが上手いとかより。どうするぼく。のっちが王子様のモノになっちゃう。膝が寒くなった。あれ?なんでぼく焦ってんの? 「のっち」  のっちはてへてへ笑ってる。ぼくのでしょ。ぼくのだよ。ちんこの皮も剥けて無そうなチンカス臭い部員(やつら)から守ってきたでしょ。先輩(ぱいせん)たちにちんこいぢめられたりおっぱい揉みしだかれたりAVごっこさせられてるの助けたでしょ。ぼくのだよね。え?ぼくのじゃないの? 「チュウしてよ、のっち」  ぼくは自分の頬っぺたを指で押す。 「こう?」  チュッてのっちの柔らかな口が当たる。ほらやっぱりぼくのじゃん。

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