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第51話
-泉-
のっちに近付こうとしたらめちゃくちゃ縁 に睨まれて、こんなことあったっけ?ってカンジでぼーっとしてるうちにのっちは連れ去られちゃった。だから王子様でも冷やかすかなーって思ったケドそんな親しくないし王子様のガチ囲いを敵に回したくないからそのまま自販機で野菜ジュース買ったぐびぐび飲んでたら王子様は下駄箱のところに居た。腕組んでるだけでも絵になる。
「のっちと遊ばねーの?」
王子様とは同じクラスにも委員会にもなったことなくてホントにまるっきり接点がないケドまぁ同じ学校 だし?1回喋れば友達みてーなもんだろ。でも王子様はそーは思ってないみたいでぼくのことチラッて見てまた床を見てた。返事くらししろっての。
「礁太は…部活ではどうなんだ。元気なのか」
「うん。そりゃね。心配には及ばないくらい元気だよ」
会話下手かよ。王子様は女だからな、ぼくがリードしてあげないと。
「サッカー部、気になる?体育でも去年の体育祭も球技大会も活躍してたらしーじゃん。どーよ?」
「集団行動は得意じゃない」
でしょーね。ほんの1日の短時間のゲームだったからなかなかいい動きをしてたケド。本格的じゃなくても仕込めばかなり…って、ぼくのレギュラー危うくなるじゃん。
「礁太は恨みを買うような人間か?」
何ふざけてんだろって思ったケド、王子様の目はマジだった。ぼくに一歩踏み込んでくるくらい。細いから分からなかったケド意外と背が高い。
「のっち?まさか。ンなワケねーでしょー。だったらぼくなんか刺されまくってるっての」
「…そうか」
「なんで?」
「特に意味はない。忘れてくれ」
はっはーん。コミュ障陰キャなりに会話がしたかったってワケだな。間違いない。
「ンで?王子様からみてどーなのさ?のっちは。恨みを買いそうなタイプ?」
「いや、まったく」
「だろ?ありゃ野原をよちよち走り回る柴犬の子供だな。何にでも興味持っちまーから気を付けないとだ。そんなのを恨むってなると、よっぽど捻くれたやつか、もしかしたら……王子様、アンタにガチ惚れして嫉妬してるやつだろーな」
王子様は黙っていた。何かあったのか?
「この前ラブレターもらってたケド」
スパイス、スパイス。恋には必要だろ?楽しませてくれや。それでその反動みたいなのは全部上手いことぼくがいただく。でも王子様は予想に反してまだ見透 した態度で床の反射ばっか見てた。
「あれだけ可愛いんだ。ラブレターのひとつやひたつ貰ったところでおかしくない」
「妬かないのかよ、つまんな」
「妬かないわけないだろう。これでも十分妬いている。礁太は俺を好いちゃいない。迫られたらきっと…」
やっぱ陰キャだな。暗過ぎる。前見て生きてんのかな?明日死ぬんか?石橋は叩き過ぎるとそれで壊れるって知ってる?
「ふーん。じゃ、そん時はぼくがのっちもらーから指咥えて見とけや」
「礁太の気持ちを優先させたいが、俺も諦められないから」
しっかり捕まえとけよな。でなきゃ楽しくないよ。のっちが好きでもない王子様に尻穴でイッちゃうほど開発されてたとか、緋野てぃーに重ねてされるがままだったとか結構興奮ポイントよ?ぼくの手マンが上手かっただけの話だケド。やっぱ人の恋人 奪うなら、相手がガチなほど燃えるもんだし。
「ま、頑張って」
それでもっとのっちをドえろくして。そうだな、たとえばおっぱいだけでイかせるとかさ。ぼくがやってもいいケド、カレシが開発した場所横奪りすんのが乙なのよ。それで部室でさ、霜霧キャプテン括弧笑 とか部長 たちにオカズを提供してあげれるってワケ。ぼく優しーから社会貢献出来ちゃうんだわ。純情なある意味ドーテーくんたちにはデキないでしょ、のっちをイかせてあげるだなんて。触ることだって出来ないんだから。女の子と100回セックスしたって100回イかせたって、好きな子に迫れなきゃ、ンなものはドーテーですわ。君たちの睾丸 はサクランボに過ぎなかったというワケ。
-雨-
ショータがまた変な中傷ビラもらったんじゃないかと思ってオレは警戒した。下駄箱には美潮がずっと突っ立てて、それをコモンスペースの座るところに反対に座って教室棟と裏校舎を繋ぐ廊下を挟んで美潮と向かい合うみたいに玄関を見張った。美潮じゃないよね。美潮なの?まさか。弁当作ったりデザート作ったりドン引き行動 するけど中傷ビラ下駄箱に入れるなんてことはしないでしょ、さすがに。
「あのさぁ…」
「笛木」
目が合って、同時に言葉が出る。
「あ、あ~」
「なんでもない」
それでそれを受けての反応まで同時で3度目の失敗はきっとやるせないから結局黙った。それで5分くらいしたらショータ本人が通った。美潮を見てギョッとして、オレに気付いてないみたいだったから呼んだらこっちに来た。
「どったの」
「泰ちゃんと喋ってたんだけど泰ちゃんの友達来て暇だから来た」
「飲む?」
「うん」
飲みかけのイチゴみるく差し出したらショータはオレの隣に座ってストロー吸った。美潮の目がめちゃくちゃ怖い。
「笛木ちゃんは何してんの?」
「日光浴してんの」
「ここそんな日に当たらなくない?」
苦し紛れだけどショータちょっと頭弱いから大丈夫じゃね?って思ったけどそこまでバカじゃなかった。中庭に面してるガラス張りから確かに日は入るけれども逆光するほど暗いしここそんな窓際でもないし何より窓に背中向けてる。
「直射日光は肌にダメなの。ショータじゃないんだから」
「そうなの?」
「ショータも日に当たったらちゃんとケアしないとすぐ老けちゃうよ。今は若いから焼けてもぴっちぴちだけどさ」
イチゴみるく吸ってる頬っぺを指で押した。美潮ちょぉ怖い。楽しすぎ。
「オレはいいや、面倒臭いし」
頬っぺもにもに揉みながらオレは下駄箱に目を戻す。
「美潮はあそこで何してんのかな?」
それはオレにも謎。だってショータは美潮に中傷ビラの話するの嫌がってたし、知ってるはずないんだよな。なのになんで玄関に居るんだ?もしかして本当に美潮が犯人なんじゃないよな。
「下駄箱の匂いフェチなんだってさ。変わってるよね」
「へー!そうなんだ。知らなかった。意外」
「違う」
美潮にも聞こえてたみたいで否定が飛んでくる。ショータはストローをズゾゾって鳴らしてパックを潰してから「全部飲んじゃった!」って焦った。まぁ全部飲ませるつもりだったからいいんだけど。ショータはそれから色々なことを隣で喋った。テレビのこととかバイトのこととか部活のこととか、友人たちの恋愛事情とか。平和で優しくて、なんでショータが中傷ビラなんかもらわなきゃならないんだろって悔しくなった。どこのどいつだよ。ショータが羨ましいのかな。明るくてかわいくて、ちょっとかっこいい。みんなから愛されて、優しくて、ちょっと頭弱いからそこも守りたくなるし、相談しやすくもある。人気者への嫉妬かな。そしたら目の前の廊下を緋野が通って思わずオレはショータに抱き付いて、背凭れでショータのこと見えるわけないのに咄嗟に緋野から隠しちゃった。
「ちわわっす」
オレっていちいち挨拶しちゃうあたり真面目だわー。
「ああ、こんにちは」
テキトーそうに緋野は教材抱えて目の前を横切っていく。ちょっとちらっとオレのほうを見るだけ見て。病人みたいな顔色 してた。緋野だって分かった瞬間にショータはオレを突き離す勢いで背凭れから前のめりになって緋野の後姿見てた。授業でも見られんのに。
「緋野せんせ…」
「礁太」
牽制するみたいに美潮は怒ったような声でショータを呼んだ。
「…分かってるよ」
さっきまでよく笑ってたのにもう曇り。外も本当に曇りって感じだった。予鈴も鳴って、今日は犯人来ないみたいだしさぁ帰ろってところで美潮だって候補から外れてないんだよな。だってなんでこんなところにいるのさ?ショータはオレの腕を引っ張る。
「どしたの、笛木ちゃん?」
「みっしーも一緒に戻ろうよ。せっかくなんだしさ」
「いいや。俺はまだここに残る」
美潮怪しくない?ショータは不思議そうにオレの腕を引く。さすがに美潮そんなことしないって思うけど。でも信じるって最終手段で思考停止で諦めじゃん?
「あ、ショータ。あーしトイレ寄りたいから先戻ってて?」
「うん、分かった。じゃ、教室でね!」
ショータはちょっと申し訳なさそうにしてパッと手を離した。また教室で会うのに手を振って先に教室に戻っていった。こういうところ、ホント、男女なんだなって思う。
「みっしー、もしかして知ってる?」
美潮の目が割と興味ありげにオレを見下ろす。オレ157cm。美潮は?170よりは絶対あるね。175?もっとかな。180はないね、多分。
「何を」
この訊き方はオレも逃げたから悪いけどさ。でも墓穴掘るの嫌だし。やっぱ尻尾巻いて逃げてみるか。
「あーしもショータが大好きってこと」
「ああ。妬かせるほどにな」
美潮はそれから「トイレには行かなくていいのか」なんて言った。
「ここで誰待ってんの?」
「誰か待っているように見えたのか」
「誰かを待ってるんじゃないとしたら…タイミングを待ってた。でもあーしが居るからそのタイミングが来ない、とか?」
これ結構核心迫ってない?こういうの苦手だな。美潮はオレの目をじーっと見つめた。7秒以上見つめ合うと精神的にセックスしてるのと同じだったかセックスOKなサインらしいからやめて。そしたら美潮はいきなりオレから目を離したのにオレの腕を引いて玄関扉側の下駄箱の横っちょに隠れ始めた。口元押さえられて、黙ってろとばかりに唇に指を当ててる。抱擁 されてるみたい。少女漫画によくあるやつじゃん、人目を忍んでイケナイことするやつ。ホントに少女漫画か?ってくらいの際どいやつとか。でもオレ性自認 男だから美潮相手じゃ全ッ然萌えない。ショータだったらなぁ、なんて。そしたら下駄箱が開く音がした。誰か他にいる。廊下はもう静かで教室棟のほうに騒がしさが偏ってるくらいだった。美潮の育ちの良い匂いがやたら近くて気持ち悪いけどまだ下駄箱には誰かいるらしかった。美潮は耳を澄ませている。綺麗な顔してるわ、ホント。やっと下駄箱にいる人が退いたみたいで美潮は体育でめちゃくちゃ活躍するらしい瞬発力で廊下に出た。裏校舎のほうにいく背中は気持ち速歩き。男子だ。便所サンダルスリッパの色からして1年。ちょっと茶色 っぽい髪。美潮はまた下駄箱に戻ってショータのところ開けてた。オレも一緒に覗く。ショータの明るい色のスニーカーの上には手紙が入ってた。中傷ビラじゃないかと思って1回出しちゃった。でもハート型のシールとか封筒に貼ってあって、ありがちでベッタベッタの見るからにラブレターで、そんなの中を見られるわけなかった。美潮と顔を見合わせちゃう。なんでか美潮の顔色窺いながらオレはおそるおそる元あったようにラブレターを戻した。
「みっしー、知ってたんだ…」
「俺のところにも来ていたからな」
「みっしーのとこにも?疑ってたわ、ごめん」
美潮は全然気にした感じもなく「戻るぞ」って言ってた。別にデレじゃなくてあのラブレターに対しての牽制。俺の居ない間に読むなよってことだよ。
「みっしーのとこにはどんなの来てたの」
「口にするのも憚られるようなことが書いてある紙だ」
「みっしーに対して?」
「いいや」
意外と素直に美潮は答えた。でもそこまで聞けばもう分かる。もうすぐ本鈴鳴るから他クラスみんな席に着いてて、まだ廊下ほっつき歩いてるオレたちは目立った。教室に戻るとショータは机の上で溶けてるみたいにぐでっとしてた。ラブレター来てるよ、ショータ。男からみたいだけど、意外とシャイな女の子で、男子に頼んだのかもね。モテ期かな?
「おかえり笛木ちゃん」
「ただいも」
良かった、ラブレターで。ショータは気にしてないフリしてるのかホントに気にしてないのか分からないけどあれから中傷ビラのこと言わないし。あんなことするやつにショータが押し潰されるなんてそんなのダメに決まってる。でもラブレター、どうするんだろ?一応、ホントに一応だけど美潮と付き合ってるんだし。ショータ、ラブレターもらったことあるのかな。コクられたこととか。無さそう。モテるって聞いたことない。腹立たしいことにショータってこんないいやつになんでかモテないんだよな。女は目が腐ってる。美潮とか緋野みたいなのばっかモテて。その点今日のラブレターの子は分かってるね。先見の明があるいい女になるよ。女とは決まってないけど。あんな古風なラブレター。清楚でさ、下ネタ全然知らなそうなさ、下着は白でね。大和撫子みたいな。1年みたいだけど姉さん女房たいになるんじゃないかな?なんかちょっとそれはそれで苦しくなってきた。性自認 とか肉体 とか、もうそんなのかなぐり捨ててさ、オレだって…
ショータは暇そうに教師 が来るまでオレの跳ねた毛先を腕を伸ばしてぴろぴろいじってた。親友でいるのがいいと思う。
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