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第52話
-鵺-
能登島先輩は本当に頭が悪いので僕はとても助かっています。何故疑わないのでしょう。疑ってほしかった。自分は狙われる被捕食者であることに怯えてほしかった。能登島先輩は本当に頭が悪い。動物に近いのかも知れませんね。だから誰とでも交尾ができるんです。
真っ暗にしておいた社会科準備室に能登島先輩は何の疑いもなくただ良心だけを持ってやってきました。性善説の象徴だと思います。どうして能登島先輩の周りの人間は彼に悪意というものを教えないのでしょう?頭の悪い能登島先輩は、やはり付き合う人間もあまり聡明さどころかある程度の知能も持ち合わせていないのかも知れません。人は生きながらに特に思い当たる節がなくても生きることに後ろめたさを感じるものです。だから人は人を妬み、恨み、引き摺り落とし、下を向いて歩くのです。となれば無邪気な人ほど自分の後ろめたさから目を逸らし、逃れ、罪深く厚かましいものはありません。神でも人でも、誰でも森羅万象でも、何でもいいですから、能登島先輩のことだけはただただ何も言わず、手を上げず、慈しみの心を持って許してください。この人は後ろめたさを感じるだけの能もないのです。誰とでも交尾してしまうという、ただひとつの慈しみがあるのです。この人だけは許してください。この人だけは、この人はだけは罪深くても。
足音を殺して近付きました。愚鈍な能登島先輩は目隠しされるまで気付かないのです。指の1本2本は召し上がっていただくつもりで騒ごうとした口を塞ぎました。能登島先輩は僕の指を召し上がることはありませんでした。
「だ、誰?」
この人ほど哀れな生き物があるでしょうか。僕はまだ何かおふざけだとでも思っているようなこの人の腕を縛りました。こんな哀れな生き物があるでしょうか。予想よりも遥かに容易に事が運んでいました。僕はスマートフォンのカメラで脱がせるところから犯すまでを何枚もフォルダに収めました。激しく昂ったペニスを何百人何千人とこれから交尾してしまう淫乱なvaginaに挿入しました。女性とは違い粘液を分泌することはありません。それでも我らが人類の肉便器は僕にさえも慈しみの柔肉を絡みつかせました。僕はカメラを止められませんでした。薄い腹や小振りな乳首は目に毒で、僕は制御を失いました。交尾穴は雄である僕をすんなりと受け入れ、キツく引き絞り、もっと深い結合に誘惑しました。魚のようになっていた口がやっと声を出しました。
「やだ、やだ…やめて…」
口で嫌がっても本当は発情し、激しい戯れを期待し、催促していることを知っています。桃森先輩を誑かした悪魔的な乳首を僕は転がしました。そしてそのあまりにも小さな禁断の果実を舐め、噛みました。能登島先輩は嫌がりながらも僕のペニスを悪食のvaginaで貪りました。
「やめて、いや…っ!あ、やだ……!」
下の口は僕のペニスを美味そうに食べています。僕は自分の舌を召し上がっていただくつもりでこのくだらない悪俗ともいえる世のオアシスに口付けました。天にも登るような気持ちというものを初めて体験しました。本当に身体が消えていくようで、意識が脳天に向かって一点、引っ張り上げられていくのです。オアシスに咲く肉厚な花弁を食み、僕はその蜜を吸いました。この渇いた世に生きる罪のない人々の多くはこのオアシスを知りません。
「んんっ、く、んぁ…ひ、」
僕の舌を挟もうとする白翡翠の列まで味合わずにいられませんでした。漏れ出る鈴の音、風の音、せせらぎ。素敵でした。僕のペニスは暴走し、深く媚肉を突き上げます。蜜壺です。水飴を隠した甕です。僕のペニスを納めるための艶鞘です。夢中になって最奥の金塊を採掘しました。
「やめて…、おねが……っ、やめ、!」
このいじらしさに僕はまたスマートフォンのカメラを構えました。シャッターの音が響きます。フラッシュが嬌態を浮彫りの作品にします。そして僕はカブトムシになって樹液を吸いました。その細い木は蜜は出しませんでしたが赤い花を付けました。紅梅になるのか桃の花になるのか。僕は樹液を吸うつもりでそこに沢山の花を付けました。本当の蕾は僕のペニスが潰してしまいました。
「いやだ、いやだ…やだ……やめて…」
平地に落ちた実を僕は拾いました。すでに地に根を張り、それは僕の指の腹で凝り固まり、左右に踊ります。僕の散らした蕾がペニスに蔦を巻き付けました。僕は奥の金塊を探すつもりがそこで爆発してしまいました。また次の爆弾に火が点くまで僕はシャッター音を響かせました。
「やめて、やめて!やだぁあああっ!」
オアシスには雨が降っていました。洪水になっていました。この荒んだ砂漠を歩く欲深い僕はあらゆる雨水を舐めました。
-泉-
黙って座ってるってコトはガチ凹み沈殿丸無双なのっちの傍で1年の武中がにこにこしながら座ってた。あいつものっちにシコらせたい欲持ってんだよな。
「のっち、どした~?」
「あ、泰ちゃん」
のっちはテーブルに両手ついてそこに顎乗せてたケドぼくを向いた。目元ちょっと腫れてね?
「なんでもない」
顔は笑ってるケド声枯れてるし。そのすぐ傍の武中は背中摩ったりしてんのに心配そうな様子なんて全然なくてにっこにこだった。
「薫哉 ちん何かしたんか~?」
ついにシコらせたとか?でもこの凹みようは舐めさせるまでいったとか?ぼくもまだ舐めさせるまではイってないんだケド、先輩の先越すたぁどーゆー了見だ?武中はぼくの質問に答えずただいつもの超絶可憐笑顔 してるだけだった。生徒会長候補とかいうほどのめちゃくちゃ優等生で、文化部みたいな見た目してんのにまさかのサッカー部。あの王子様より王子様系で、キラッキラしてる。のっちの王子様 よりちんこ無さそうなんだケド部活で結構男らしいトコみてるからな~、多分ちんこある。
「のっち?」
「なんでもないって」
へらへら無理に笑ってるケド絶対なんかあったね、これ。
「元気ないの?…おっぱい飲む?」
ぼくは鍛えた胸筋をのっちに押し付ける。珍しいコトにのっちはぼくを突っ撥ねた。首にめちゃくちゃ蚊に刺された痕みたいなのあって二度見しちゃった。これキスマークじゃね?っていうかキスマークだわこれ。王子様ーーー!!数やっておけばいい、みたいな?独占欲丸出し。
「ちょっと朝早かったから、眠くなっちゃっただけ…」
王子様とお盛んシたからだろ。武中はこれ傍で見ててどー思ーよ?1年の童貞くんには刺激強くない?のっちは作り笑いやめないで目元を擦った。よく分かんないケドそーゆーことにした。
部活終わってのっちの機嫌治ったかな、なんて思ってまたいつもみたいに乳首 マッサージしたろ!と思って膝叩いてものっちは首振るばかりで来ないし、キスマークのこと揶揄われても愛想笑いで躱すだけで、やっぱなんか変だった。膝に乗せたいから両脇から抱えたら「泰ちゃんやだ、嫌い!」っていきなりヒステリックに叫んで、そんな珍しいコトないから傷付いたってのより純粋に驚いてたら言った本人が一番吃驚 仰天 して、不安定になりながらぼくに謝る。
「ゴメン、ホント…ゴメン。嫌いじゃない。泰ちゃん、ゴメン…」
「ダイジョブ、ダイジョブ。ぼくも悪かったし」
ぼくの胸筋 に顔を埋めるからぼくも押し付けた。のっちにおっぱい飲ます気分でよちよちしてたら目の前に武中が立つ。武中、アイドルみたいに可愛いカオして笑ってるケド目が怖い。絵に描いたような美少年ってやつ?一昔前なら武将とえっちしてるような感じのさ。
「薫哉ちん、どした?」
「能登島先輩の元気が無さそうでしたから、気になって。首の傷も…虫刺されの薬、ありますよ」
武中は霜霧キャプテン括弧笑 とか部長 みたいな無害な片想童貞 とは違って、邪悪な感じのある恋慕童貞 みたいで怖いんだよな。
「オレ…、もう帰る…!」
のっちは首押さえてただでさえ大っきな目をまん丸にした。王子様待たなくていいんかな。ウェア脱いだらもうなんか王子様は心の病気 なんじゃないかと思うほどのっちの身体中にキスマーク付いてた。アトピーみたいに。寒気がするほど。怖すぎ。ってーかグロいレベル。他の奴等も顔色変わったぞ。こいつやべーぞ、みたいな。揶揄えないレベル。ぼくは揶揄うケド。
「おアツいなー、王子様」
ハーパン脱いだら腿にまであんの。王子様これよくあるニュースみたいに交際相手殺すんじゃないか?ンでその交際相手誰だよって。のっちなんだわ。のっちは着替えながら涙ぐんで、逃げるみたいに部室から飛び出した。泣いてね?なんか追っちゃった。だってのっち泣いてた。王子様と喧嘩したのかな?
「のっち、ダイジョブ?」
駐輪場でのっちを呼び止めた。この訊き方、高確率で女は怒る。のっちは女じゃないケド。そんな風に訊かれたらダイジョブって答えるしかないんだってさ。ホントはダイジョブって答えても気付いてほしいんだってさ。訳ワカメ子持ち昆布。
「だ、だいじょーぶ…」
「ダイジョブじゃねーね。どした?解決率120%のぼくが相手になってやんよ」
のっちはまだ首押さえてた。
「ぼくってのっちのトモダチじゃん?」
「うん…」
「そのキスマさ、王子様と何かあった?のっちのコト心配なんだケド」
「これ、美潮が付けたんじゃないよ」
じゃあ誰よ。王子様以外にのっちにそんなキスマ付けたがんの他にいる?あ、ぼくか。でもぼくのっちにキスマ付けたっけ?覚えてないんだが?じゃあぼくじゃないよ。ンじゃ大本命の緋野てぃー?
「じゃ、マジものの虫刺され?」
のっちは首を振った。
「分かんない」
「え?」
「知らない人に、付けられたから、誰か分かんない」
それって何?レイプ?援交?どゆこと?謎掛け?
「のっち、ダイジョブ?違った。何かあんなら相談しろな?」
のっちは両目擦りながらしゃがんじゃう。ぼくは背中摩った。
「……美潮に、会いたくない」
「キスマのコト訊かれっから?」
のっちは頷いた。
「美潮、絶対…うるさいもん…」
あの王子様ならこの倍は付け直しそう。ぼくは背中を摩る手を止めた。ぼくにも母性ってもんがあるのか、のっちをおっぱいに当てるとなんかちょっと落ち着いた。よちよちしながらおっぱい飲ませてあげたい。ンで、ぼくには名案が浮かんでた。名探偵だわ。名案偵。
「じゃ、それ、ぼくが付けたコトにしてあげよっか?」
「…え?」
「それ、ぼくが付けたコトにして、そしたら王子様はぼくを怒る。のっちもぼくの所為にしたらいいんだよ。そしたら王子様に会っても説明する内容 が有 るじゃん?」
「そんなこと、できるわけないよ」
まぁ、解決はしないケド、王子様の意識を逸らすことはできんじゃん?
「ぼくはそれでもいいよ。でもちゃんと事実にさして。王子様と付き合いないから別にいいし。喧嘩んなっても」
「でも…」
「ぼくに無理矢理されちゃったって言えばいいんだよ。でもちゃんと事実にするよ。のっちの肌吸わせてってこと」
キスマだらけののっち、結構えっち。こんなん王子様みたら発狂しちゃうよ。
「肌…吸うって、どういう…」
「のっち、ぼくはオニイチャンみたいなんだよね?ぼくものっちのことオトウトみたいに思ってるよ?それにトモダチなんだし…だから浮気じゃないよ」
「…ちょっとだけ、怖い」
「ぼくが?王子様が?」
のっちは首を振る。
「美潮のことも……そうだけど。色々、全部…」
そのキスマ付けられたこととか?だって何も解決してないもんな。声震えてた。これは捨犬。捨てる犬あれば善人 が拾えって諺 でも言うじゃん。ん?あったか?まぁいいか。
「のっち今日泊まりに来ない?」
「え?」
「親、病院勤めでさ、今日いないんだわ」
寂 びちいから来てよ。ンでえっちなことしよ。
「オレ明日も朝早いし…」
「トバイだろ?起こしてやるよ、ぼくもランニングあるし。いい気分転換になりゃいーんだケド」
もう決まってた。のっちはぼくと帰る。問題無し。のっちは頷いた。よっしゃよっしゃ。ぼくン家は高校から大体そのまま南にのほうにある。新興住宅街の中にあって、結構近い。ってゆーか近いから選んだ。隣の市の男子校とかイヤだし、こんなに近い共学あんのにわざわざ通わない手がありますか、と。大事なのは大学で、例の男子校から難関大学行くのと、ランク下げてこの高校から難関大学行くの、どっちが推薦とか競争率低いかっていったら後者。鶏口牛後っていうの?おかげでぼくは学年3位。1位と2位誰だよ。古文さえ固められたら2位、いや、1位は近い。噂だと1位はあの落っこちた子らしいケド。
「おもちゃみたい」
のっちはぼくの家のある大体同じような家がポンポンポーンってコピーアンドペーストみたいに並んでるのを見てちょっと声が明るくなった。そんな珍しがるもんかね。確かに女の子とかがよく遊んでるおもちゃみたい…なんかな?青い芝生とちょっと車庫があってシーグラス嵌め込んだエクステリアでさ。多分デザインのテーマが砂浜みたい。家の色も薄ピンクというか薄いオレンジみたいだし。でもおもちゃみたいって言われる今まで考えたこともなかったわ。なんかいいな、こういうの。
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