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第62話
-鵺-
「付き合わない!揶揄うの禁止!」
能登島先輩は両腕を交差してバツ印を作りました。可愛い人です。美潮さんと本当に別れてしまったのは少し惜しくもありました。もう少し遊んでみたいところもありましたから。そうなると次はあの可愛い女の先輩にしてみようかなと思いました。ですが流石に異性で、きちんとした関係の成立していない人を巻き込むのは可哀想だとも思いました。女子は女子の中で情報を共有する謎の文化があるようですから。1枚2枚能登島先輩がレイプされている写真を送れば、意外と能登島先輩の可憐さ、儚さ、妖艶ぶりに気付くかも知れません。
「っつーか、薫哉 んってのっちのこと好きだったのかよ?」
「はい」
いやらしく貪欲で淫乱な能登島先輩を僕なら愛せます。壊してもみたいけれど、それはもう少し壊せそうな頃合いをみてから。美潮さんに捨てられた能登島先輩を記念に撮影しておきたいくらいでした。カメラを置いた場所からして今の能登島先輩は撮れていないかも知れません。
「誤解されるって!そういう意味じゃないでしょ」
僕は少し苛立っている様子の能登島先輩を眺めていました。美潮さんがいなくなったということは今度こそ能登島先輩を連れ帰れます。どうやって眠らせましょうか。僕は能登島先輩のタオルをずっと巻いている首を無意識のうちに見つめていたようで、能登島先輩はタオルを直してしまいました。僕が付けたんですよ、そのキスマーク。ひとつひとつ、能登島先輩のことを考えて吸ったんです。能登島先輩の肌を。毎日付け直したいところですが、能登島先輩にはまだ意識があります。
「さ~てと。ンじゃぼくもそろそろ帰りマスカット。どうする鍵?」
「僕が返しに行きますよ」
「ありがてーこったな。じゃ、また明日な」
桃森先輩は軟派で軽率で人格が破綻しているところがありますが、あれで家が病院ですから勉強が忙しいようでした。大体のことを卒なくこなせる器用な人です。桃森先輩が部室を出ていくと能登島先輩は、よく拭いてはいるのですが朽ちかけている木製のテーブルに突っ伏してしまいました。
「体調が悪いんですか」
「ううん」
能登島先輩のいつも頭髪検査に引っ掛かっている毛先がテーブルの上を掃いてくれました。
「別れられてよかったですね。おめでとうございます」
「ありがと」
能登島先輩は顔を上げてはくれませんでした。僕はどうしても能登島先輩に触りたくなりました。どうしても、どうしてもです。触らずにはいられませんでした。今のルールではとりあえず顔見知りで同性で年が近ければ触っても犯罪ではありません。僕は能登島先輩に触りました。元気溌剌なのは変わらずなものの発達不良なまま成長期を終えそうな見た目で、そうなるともっと実質的な健康面は良いものではなさそうでしたが、触れた肌は瑞々しくぷにぷにとしていました。もう少し乾燥して荒れたものを想像していました。日にも焼けているはずでしたから。
「何?武中。どした?」
手を離せなくなった僕はもっと触りました。
「武中?」
「能登島先輩、僕と付き合いましょう。美潮さんは交際というものに慣れていそうですから、ノーカウントです。ノーカウントでそういうの初めて同士、僕と付き合いましょう」
「ちょっと、ちょっと待って!」
僕は能登島先輩の背中に圧 しかかりました。能登島先輩のいやらしい汗の匂いとミント系のシャンプーの匂いがしました。
「能登島先輩のこと、僕は好きですよ」
「あ、ありがと!でもさ、ちょっと離れ、て!」
耳が子供っぽくて僕は舐めたくなりました。
「武中、何して…っ」
「この前女の子たちが、耳が性感帯って話していたんです。本当ですかね?」
僕は息を吹き掛けてみました。僕の下で能登島先輩はキュッと小さくなりました。ダンゴムシみたいで可愛いと思いました。能登島先輩は野暮ったい可愛らしさも持っているから堪りません。人を惑わすことに長けています。
「それ、やだ」
「おかしいですね。では、これは?」
いきなり唾を付けるのは悪い気がして僕は能登島先輩の幼さのある耳を唇で挟みました。能登島先輩、こんなのは拷問です。能登島先輩、あなたがこの世に存在した時から人類の拷問は始まっていたのです。あなたを認識したその時から人類は、試練を与えられているんです。僕はこの試練を越えられない。能登島先輩、能登島先輩、あなたを食べてしまいそうです。能登島先輩に触ったら、もう貪り食べるしかないんです。でも今日はきちんと、調理して食べたい。
「武中、ちょっと、やめてって!変だよ!どうしたの?」
「能登島先輩。勃っちゃいました、僕」
「変なことするから…トイレ行ってきなよ。待ってるからオレ。ごゆっくり!」
「能登島先輩は勃ちませんでしたか?」
能登島先輩に僕のerectionを見せたいくらいでした。能登島先輩によって僕のpenisには血液が集まって、グロテスクに腫れ上がっているのです。能登島先輩を求めてspermが噴き出てしまいそうでした。僕の身体の中で作られたspermはすべて能登島先輩のためのものです。能登島先輩…
「なんで武中相手に勃つんだよ」
僕は前から能登島先輩を抱き締めました。肌と骨に吸着するような抱き心地の良さがありました。積極的になるのも悪くありません。次はカップルがするようなセックスがしたいんです。能登島先輩、僕と恋人みたいなセックスしてください。能登島先輩、愛しています。美潮さんよりもずっと。僕は能登島先輩を絞め殺さないように加減しました。とても難しいことでした。能登島先輩を抱き締め殺せないなんて。もし抱擁によって死に至らしめることがあれば綿を詰めてぬいぐるみにします。能登島先輩の死体ぬいぐるみ。
「能登島先輩……僕、あまりオナニーってしたことがなくて…」
本当は人より多くしていると思います。平均よりもずっと。僕は能登島先輩に性の話をすることが好きなようでした。男子生徒が女子生徒に卑猥な話をするわけが分かったような気がしました。部長やキャプテンや桃森先輩が能登島先輩に性の話をするときは少しつまらないくらいだったので意外でした。
「へ、へぇ~…」
「能登島先輩は、どのくらいの頻度でするんですか」
能登島先輩の鼓動がちょっと速くなりました。能登島先輩は表向きでは性にあまりガツガツしていません。
「なんでそんなコト言わなきゃなんないの」
「知りたいです。教えてください。参考にします」
僕は能登島先輩で1日5回は最低していると思います。常にvaginaに空きの無さそうな能登島先輩もmasturbationするのでしょうか?何を思ってmasturbationするのでしょう?誰を想って?あの可愛らしい女の先輩でしょうか。美潮さんにレイプされるところを考えるのでしょうか?それとも桃森先輩たちに輪姦されるところを?他の人々と同じようにアダルトビデオを観ながら?
「自分のやり方が正しいかよく分からなくて…将来、女の人と付き合えないんじゃないかと思ったら怖くなったんです。こんなこと、能登島先輩にしか頼めません。人生の先輩と見込んで、能登島先輩……僕に能登島先輩のオナニーを見せてくれませんか」
能登島先輩のオナニー。その甘い響きに僕は熱くなりました。
「や、やだ…」
「それなら、僕にオナニーを教えてください」
僕は部活用のショートパンツの紐を解きました。能登島先輩の驚いた目に僕のpenisは質量を増やしました。帝都タワーよりも大きくなってしまいそうでした。そうしたら能登島先輩のvaginaには入らなくってしまいます。それは困ります。
「泰ちゃんに相談したら…?でも泰ちゃんはあんまりそういうのしなそう……伏木くんとかは?優しいし……」
「能登島先輩がいいです」
僕は能登島先輩に迫りました。ですが能登島先輩は僕の後ろで何か見つけました。
「ショータ~?まだ居んの~?」
あの可愛らしい女の先輩の声がしました。能登島先輩はこれ幸いとばかりに僕の脇を擦り抜けてしまいました。
「笛木ちゃん!」
男女にも関わらず能登島先輩は当然のようにあの可愛らしい女の先輩に抱き付きました。廊下でも抱き付くカップルは目にしますがそういうものは感じられませんでした。姉弟 みたいでした。その姉弟 みたいな感じが、僕が彼女をターゲットに外していた理由のひとつでもありました。美潮さんでないと意味がない。すると次は伏木部長か霜霧キャプテンだったのですが、あの2人は能登島先輩に欲情しているのですから美潮さんのような反応は期待できないかも知れません。本当にmasturbationに使うことだけが予測されるからです。
「武中、部室の鍵やっぱオレがやるからさ、そろそろ帰ろうぜ」
能登島先輩は女の先輩をホールドしたままでした。僕を恐れているのでしょうか。何故。人畜無害そうとはよく言われますし、優しそうとか性格が良さそう、穏やかそうとは聞き飽きるほど言われました。それに僕のほうが歳下です。どうして僕を恐れる必要があるのでしょう。
「大丈夫ですよ。僕がします。ではまた明日」
「あ~、そう?悪いな。じゃ、お疲れ!」
僕の帰り支度を待って鍵を返しに行くのもその先輩を付き合わせる気だったのでしょうか。僕よりも能登島先輩よりも、世間は女の先輩の帰り道を心配するものです。それとも送る気なんですか。可愛らしい先輩の帰り道はおおよそですが能登島先輩のお家とは反対方向だったと思います。
「お疲れ様でございます」
僕は頭を下げました。2人並ぶ背中を見ていました。次のターゲットはあの先輩にしようと思いました。美潮さんのことは少し残念でした。能登島先輩とカップルになれなかったことも残念でしたし、能登島先輩のmasturbationを見られないことも残念でした。能登島先輩にmasturbationを手伝っていただけないこともまた残念でなりませんでした。ですが焦りは禁物です。能登島先輩の座っていたイスに座りました。ゴミ箱を手繰り寄せ、能登島先輩の捨てたものを拾いました。あまり点数の良くないテストがありました。可愛い。採点の赤ペンと点数が異物混入している感じがして邪魔でした。レアリティは低いですが僕の宝物に変わりはありません。もっと、能登島先輩そのものが欲しいのに。僕は能登島先輩を得られないから、こういったものから能登島先輩を感じるしかないのです。能登島先輩が僕のものにさえなれば、僕は能登島先輩だけを愛します。能登島先輩でないこんな紙切れに、割箸に、ティッシュに、絆創膏に何の価値があるというのでしょう。能登島先輩が得られないからいけないのです。能登島先輩、許してください。能登島先輩の肉体を求めているのは本当です。これは浮気ではありません。今でも求めているのは能登島先輩そのものであることに変わりありません。能登島先輩、これは浮気ではありません。能登島先輩が浮気をしても、僕は能登島先輩以外を想ったことなんて一度たりともないんです。能登島先輩、僕は能登島先輩あなたが初恋です。僕は能登島先輩の小テストを抱き締めました。こんな紙には価値がありません。こんな紙が欲しいのではありません。能登島先輩、僕は飢えて死んでしまいそうです。能登島先輩、振り向いてください。気付いてください。あなたの中にいたのは僕です。能登島先輩、早く僕に気付いてください。僕は掃除をしました。虫の死骸がありました。能登島先輩にプレゼントすることにしました。着替えてから職員玄関を通って能登島先輩の下駄箱に死骸を入れました。歩きづらいほどにerectionもしていたのでmasturbationもしてしまいました。1回では足りませんでした。ですがあとは家でゆっくり今日の能登島先輩を思い出しながら耽 ろうと思いました。能登島先輩のサンダルの上で僕のspermで糸を引いていました。明日には乾いていることでしょう。僕はとりあえずのところ満足しました。美潮さんにも餞別にビラを贈りました。能登島先輩を手放すなんで自殺願望があるに違いありません。今夜には首を吊るか、朝に電車に飛び込んでいると思います。明日からはあの可愛い先輩にします。笛木先輩の下駄箱もすでに調査済みです。あの先輩はどんな反応をしてくれるのでしょう?職員玄関経由で出ようとしたところを養護教諭とぶつかりました。新寺先生はその甘いマスクで女生徒の人気の的です。
「ああ、すまないな。ボーっとしてた。気を付けて帰れよ」
「はい」
新寺先生の大きな手が僕の頭の上に乗りました。実質的にはセクシャルハラスメントでしたが僕はこれといって不快ではありませんでした。僕は新寺先生が靴を履く後姿を眺めていました。背が高く、四肢が長く、とても絵になりました。そして外を通る運動部の女生徒に絡まれていました。どうして能登島先輩に惹かれないのでしょうか。それが分かりませんでした。能登島先輩に出会えない人生はただの消化試合でしかありません。出逢ってしまった人生は渇望の苦しみです。僕は彼女たちが羨ましくもあるのです。この苦しみを知らないだなんて。哀れでもあるのです。ただ寿命に向かって息をしているだけだなんて。
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