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第68話
-泉-
のっちがやたらと部長 に絡み付いて、ぼくへの当て付けなのかな?って思っちゃった。でもそれは意識過剰ってやつで、ホントのところは多分だけど武中。武中がのっちに近寄ろうとするとのっちは部長とか霜霧キャップテン括弧笑 に纏わり付こうとする。ぼくならもっと上手く守ってあげんのに、なんでよりにもよってその2人なの。のっちのコト、やらしー目で見てんのに?どシコりネタにされるよ、のっち。それでもいいの?グラドルとかAV女優みてヤりたいだの抜いただの言ってるケドさ、それはそれ、これはこれなんだよ。ぼくだってグラドルとかAV女優とか、まぁとりあえずおっぱい大きくて可愛い女の子とヤりたいケドのっちが目の前にいたらさ、それはそれ、これはこれなんだよ。ンで、のっちはぼくのことも避けるワケ。やっぱ最後までヤっちゃったの、嫌 だった?いやでもあの流れは最後までヤらなきゃ逆に失礼だろ。どっかのマナー講師も大体そんなようなこと言ってたような気がする、多分。知らないケド。のっちに嫌われたんかな?泣きそうなんだケド。のっちに嫌われたくない、マジで。中イキさせたら好きになってくれるんじゃないの?男もさ。ぼく、のっちのコト中イキさせたよね?悶々としてたらローテーションしてた練習のぼくの番が回ってきてた。大会近いとのっちはマネージャーみたいな役割になって、練習に入らないでストップウォッチを握ってさ、まるで伏木とか霜霧のカノジョみたいになっててさ、女マネいても部内恋愛とかバランス崩すしやめてくれって話なんだけど、男マネなら別に、な?そういう暗黙の了解みたいなの、これといって感じなかった。でもさ、でもさ…のっちの両肩には2人のタオルが掛かってて、そしたら他のやつも真似して今度は頭とか首とか腕にタオル掛けてさ、のっちはタオル掛けじゃないんだよぉ!ぼくはなんか目を合わせてくれないしなんか逃げ惑ってるっぽいのっちの近付くなオーラに負けてベンチにタオル掛けたよね。1年たちも変な目で見てっしさ。
部活終わりもさ、確かにぼくが絡みにいかなきゃ基本のっちってそんなぼくと絡みないんだケド、やっぱなんか、話しかけづらかった。今までのぼくが人格破綻者みたいにずけずけのっちを構ってたんだな。で、のっちはすぐに着替えて帰ろうとしてた。
「能登島先輩」
1年が片付け終わって部室帰ってきて、のっちに懐いてるっていうかなんかヤバげな感情持ってそうな武中が呼び止めようとした。ぼくも気になってた。何かあんの?
「もう帰るんですか」
「あ~、うん。これから夜もバイト入れることにしたからさ」
それでのっちは、「じゃあね~」なんて言って帰っていった。もう高校ごと辞めちゃうんじゃないかと思った。でもさ、今のご時世、高校もある意味義務教育みたいなものじゃん。義務教育は中卒までだけど、中卒じゃ大体のところは雇っちゃくれない。高卒でもやっと。公立だからかね?公立だから、こうも家庭の落差が浮き彫りになるのか?都会じゃ高校は私立が当たり前なんだろうけど、ここみたいな田舎じゃ公立なほうがステータス。志望校に受かれば大学で地元出てもまたここに戻ってくるのが決まっちまってるぼくにはちょっと複雑な話だね。
「大丈夫なんでしょうか。朝と夜にアルバイト入れて高校生活に部活動だなんて」
なんでか武中はぼくの傍に来る。顔が良いからミステリアスで済むケドばちくそ変人だからなお前。脳の構造で美醜を判断する場所と善悪を判断する場所って近いんだとさ、知らんケド。だから武中が変人でもやっぱ顔が良いから不審者とかやべーヤツって認識にはならないケド、変だよこいつ。気色悪いし怖い。やっかみとか言われるから言わないケドな。
ンで、武中がそんなコトいうから部長が、のっちから退部届預かってるだなんてポロるワケ。何も聞いてないケドぼく。
-雨-
美潮との見張りは放課後まで続いて、美潮は古文の暗記帳持ってた。放課後デート?とか冷やかされたから変な距離空いてて、それがまた面倒臭いけど美潮ならいっかって思ってたらなんか他のクラスの女子に囲まれてて笑っちゃった。同クラの女子が牽制し合っててドライな態度にドライに対応するのは分かるけど、他クラスの女子のイケイケな態度で絡まれると苦手オーラ丸出しで挙動不審 ってて面白過ぎた。オレは他人のフリして美潮から離れる。可愛い子じゃん付き合えよ、なんて思って、ホントは美潮がまだショータのこと好きなこと期待してるし、断って欲しいし、でも同じくらい美潮がまだショータのこと好きなのが気に入らないし、なんで手放したんだよって思う。モテるくせにまだショータに片想いしてるところはなんかウケるから嫌いじゃない。でも別れたならいいんじゃない?可愛い子と付き合って、ショータのこと忘れちまえ。そしたらオレ、美潮のことバカにしまくるから。心の底、ずっと奥深くから軽蔑するよ。それ軽蔑じゃ済まないね。そ、だからつまり、早い話がオレは美潮を嘲笑 りたいんだよね。だってオレは美潮のそういうところをチクチク刺すしか、ああ勝ったなって強者を感じられるところが何もないから。それってなんで生きてるの?ってカンジ。実際どっちが優れてるとか勝ってるかなんてどうだっていい。オレがオレを騙せるのかって話。自分が弱者で劣ってるって自覚あんなら、自分で自分を騙せないやつが一番不幸。可哀想。哀れ。それでオレはそのすれすれに居るワケ。焦るっしょ、そんなの。美潮はとうとう無視を決め込んだ。そんでそのとばっちりはオレにくる。なんで男女でいるとオツキアイを疑われるんだろ?テキトーに委員会って嘘吐いた。で、詮索してこないからそれでよかった。美潮は有り得ない至近距離に古文の暗記帳近付けて顔隠してがっつり話しかけるなオーラ出してた。派手めな女子はまた玄関をきゃんきゃらきゃんきゃら賑やかにして帰っていく。
「可愛いじゃん、さっきの子たち」
「そうなのか」
「そうなのかって、何」
反論があるってカンジじゃなかった。マジで?初耳なんだケド?みたいなニュアンスがある。
「美醜の判断ができない。関わりがない。外面だけなら女子はほとんど似て見える」
「はえ~、そうゆうもん?」
「明らかに違っていれば分かるかもな」
ま、今の流行りのちょっと茶より黒髪のお洒落なおかっぱか無難なロングに男の教師 相手ならほぼ誤魔化せるし女 の教師 も忖度して違反扱いできない程度のナチュラルメイク。確かに似たり寄ったりではある。流行りだからね。ピンク色出るリップとかね。顔面じろじろ見るのも、まぁ、失礼っちゃ失礼で、オレなりに考えてみたんだケド、そういう無頓着なところが下心無さそうとかいってモテちゃうんだよな。おっぱいとかもじろじろ見ないし。ま、下心はバリバリ持ってるでしょ。ショータに食わせてた弁当かデザート、あれのどっちか、もしかしたら両方に多分ゲロキモ生臭精子入ってると思うし。レシピにちんぽヨーグルトって書いてあったかよ?あ?
「ショータの前に好きな子とかいなかったの」
「いなかった」
「いたでしょ。保育園・幼稚園の保育士 さんとかさ。マジでいなかったの?小坊時代の先生とか?」
「いない。大体のことはショータが初めてだった」
高2で初恋かよ、気色悪 。大体のコトって何?訊いてないし、気味悪 。ってかやけに素直なのがマジでゲロかった。
「未練たらたらであーしは助かるケド、ふつーにキモくね」
「…分かってる」
「後悔してんの?」
「理性ではしていない。感情的にはしている」
こいつもっと自分のコトひた隠しにするキャラだったじゃん。聖人キャラにでも転向 する気?そしたらショータも振り返ってくれそうだから?それともオレにココロヒライテルとかいう駄作 い歌詞 みたいな?
「キモ…」
「俺もそう思う」
分かってるならいいけど。分かってるならね。ショータは優しいから、そこんとこも分かってるよな?
-漣-
礁太とクラスメイトに戻ってからは、会話が減り一緒にいる時間もまったくといっていいほど無くなった。それでも何事もなかったみたいにクラスメイトの1人として礁太は俺に挨拶するし、無視することもなかった。自然なくらいに。素直な礁太がそうしているのだから、もうかなり前から俺は礁太にとって本当にクラスメイトの1人に過ぎなかったのだと思わざるを得なかった。キスする時もセックスする時も、俺は常に礁太の中ではクラスメイトの1人に過ぎなかったのだろう。ある程度は分かっていた。礁太から好かれているだなんて思ったこともない。ただ望んでいるだけだった。いつでも。俺は勉強し成績を上げ親の望んだ大学に入るためだけに高校に通う、前の生活に戻っただけだ。昼休みになって礁太は教卓のアルコールティッシュで大神の机を拭きにくる。俺は意識しないようにして、余計意識する。礁太は何も言わないこともあれば何かしら、本当に前の生活に戻ったような取り留めのない話を振った。俺はどんな風に受け答えしていただろう?大神がいないだけで、俺は礁太と会話すら成り立っていなかったのかも知れない。それで普段ならB組の桃森とかいうやつと居たはずが、礁太はそのままベランダで昼食を摂るようになった。俺は笛木と玄関飯に出なければならなかった。教室前で例の桃森が礁太のことを訊いた。笛木は俺を見た。俺は知らないと答えた。
「部活辞めたんだってさ、ショータ」
土埃と饐えた匂いが残る玄関、簀子の上で購買部の熾烈な争いを背に笛木はまたキャラクター弁当を喰らう。耳が千切られ、顔面が削がれていく。
「いつの間に」
姉に買ってもらったとかいう蛍光色のシューズは印象に強く残っている。
「あーしも知らなかった。人伝に聞いたし」
ほぼ毎時間、笛木は俺を連れ出した。だから笛木とそう礁太と話す機会が少なくなって、そうまでして得られた成果は今のところ、1人に疑念を抱くところまでだった。笛木に親しげに声を掛けては礁太のことを訊く1年で、ついでに自販機に寄っていく。
「あ~、なんだかあーし、悲しいわ。なんでかなぁ。もうショータが部活してるとこ見られないからかね?」
笛木は本当に落胆しているようだった。顔を削がれ片耳を失ったクマの首を断つ箸が少し鈍っている。
「理由は聞いているのか」
「そこまでは知らない」
「夜間にもアルバイトを入れたそうですよ」
俺と笛木は一斉に顔を上げた。あの1年だった。馴れ馴れしく、この場に参加する。俺たちが好き好んでここで2人昼食を摂っているとでも思っていそうだった。実際は違うが話しようが他にない。
「また君?」
笛木は咀嚼しながら喋った。彼女も彼に対してあまり好い印象を持っていないような感じがある。
「部活を辞めてしまわれたので、寂しくて」
「あんた、ショータのこと好きすぎじゃない」
「はい。愛してますよ。告白もしました」
俺は軽くパニックになっていたと思う。落ち着かなかった。何にも集中出来なくなった。すぐ隣の会話が遠く聞こえる。
「で?」
あまりの未練がましさに気持ち悪い、気色悪い、嘔吐しそうと言われ続け、俺はそれを肯定するしかなかった。もう別れた。礁太が誰を好き、誰と付き合おうと俺の知ったことではなくなった。緋野は不在だ。おそらくこのまま暗黙のうちに教職からフェードアウトするんじゃないかなんて考えてもいて、だとしたら本当に礁太が俺と付き合う理由がもうなかった。だが他の人と付き合う理由なら、いくらでもある。
「答えはいただけませんでしたよ。だからこうして、またラブレターを贈りに来たんです。でも返事をもらったことはないんですよ。能登島先輩、何か言ってませんでした?」
なんとなくの良心が、飽くまで疑念に留めていた。俺以外はみな容疑者で、笛木にもその可能性は0でないと考えているくらいだった。
「ショータの下駄箱にラブレター入れてるの?」
「はい。でも返事がないってことは、誰かに抜き取られているのでしょうか?困るなぁ。どこかで揶揄われていたりして」
この1年を疑っていいのか迷っている。断定は出来ない。だが疑うことはできる。一度疑ってしまえばこの1年に集中するのがいい。自発的な疑念はすでに浮かんでいる。しかし理性と意識の部分が抑え込もうとしている。犯行はビラ配りや死骸を入れる嫌がらせだけでなく、強姦や盗撮も含んでいる。簡単には疑えなかった。
「悪戯だと思われたんじゃない?下駄箱にラブレターとか、いつの時代?ってカンジだし。今度は手渡ししてやんなよ」
1年は笑っているだけだった。手の中のラブレターは本当にラブレターなのか?妙な写真や誹謗中傷が書いてあるんじゃないかとすでに疑いが先行している。礁太が爆睡していた日、この1年も一緒だった。礁太は腹が痛いと言って――
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