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第41話 夏休み

 今年の夏休みは、猛暑が厳しくなるって、言ってた。 「ぁ、ぁっ……あンっ」  ホント……蝉もバテそうな暑さ。 「ね、ナオ、もうこっち限界なんじゃない? 一回、イっとく?」 「ンぁ、んんんっ」  蝉って鳴いてるのかな。  わからない。 「手がいい?」  エアコンをガンガンに効かせて、窓を閉め切ってるからわからない。締め切った部屋の中でやらしい音をさせながらセックスの前戯に溺れてたから。 「それとも、く……ち……」  カズが、組み敷かれて汗だくになりながら身悶えてる俺に、視線を外さず見惚れてくれる。 「挿れて」  カズのこめかみから滴って零れ落ちていく汗を指先で掬い取った。顎にちょんと指先だけで揺れてから、脚を大胆に開いた。 「カズの奥まで咥えながらがいい。イクの」 「っ、何……それ、エロすぎ」 「ぁ、はぁ」  それだけでイける身体にしたのは、カズじゃん。大胆に開いた脚の間、カズのペニスの切っ先が孔に触れた瞬間、蕩けそうな期待感に胸が膨らんで。 「ぁ、あ、あああああああああっ!」  ズンと刺し貫かれたら、弾けるように射精した。 「入れただけで、イクとか」 「あっ……ン」  びゅくりと弾けて自分の腹の上に白が飛んだ。 「ン、ぁ、もっと……カズ、奥まで、来……て」  射精直後、甘ったるく絡みつく中をもっと締め付けながら、行儀悪い脚でカズを引き寄せた。  夏休みって、さ……なんか、もしかしたら、初めてこんなに夏休みってものに嬉しくなってるかもしれない。  前は早く終わればいいって思ってた。カズと二人だけで過ごすのも、カズが隣の部屋へ誰かを招くことも、胸の辺りが苦しくなるばかりだったから。 「ナオ、水飲む?」  今は、そうは思わない。 「あ、うん……ありが、っ……ン、んく」  コクンと小さく喉が鳴る。 「ん……」 「一回やってみたかったんだ。口移し」 「バカ」  エアコンガンガンにしててもやっぱ汗がすごい。バカって言われてもにこやかに笑うナオの顎から汗が滴り落ちた。 「ど? 美味かった? 口移しの水は」 「生ぬるいし、少ししか飲めないし、不便」 「えー? マジで? もっと、こう、エロ気持ちイイっていうか、最高に美味いんじゃないの?」 「バカ」  もう一度バカと言ったのに、それでもニコニコ顔のまま上機嫌なカズの手からペットボトルの水を奪うと、そのままカズを押し倒した。 「何? ナ、…………」  一応、俺だって剣道やってたから。  歳ひとつ下の男を押し倒すことなんて容易いんだからなって、思ったのに。腰を密着されて、抗えない。 「ン、……んんっ」  口移しの水飲みが、ただの濃厚なキスに変わる。 「ンっンっ、んんんんっ、っぷはっ!」  下にいるカズに抱き締められて、そのままいつもとは違う、舌を全部捻じ込まれるようなキスに呼吸困難寸前だった。腕の中で暴れてもちっとも抜け出せなくて、それでもまた暴れて。もがいて。  強い抱擁とキスから解放されたのは、カズが腕を緩めた瞬間だけ。そして自分の上で暴れる一つ年上の兄に苦しそうな顔一つせずに、むしろ、俺の下で満足そうに笑ってる。 「ごちそうさま、やっぱ、すごい美味いよ。口移し、好きな、ひ、と……っ」  言いかけた言葉ごと呑む込ませる口移しのミネラルウオーター。 「ずるい」  そして、また言わせてもらえなかったと不貞腐れてる。 「カズ」  だから、気を逸らすために、カズの股間に自分の腰を擦り付けて、跨りながら脚で脚に絡まりついて。 「っ……あっ、ン」 「下の口が美味そうに指飲み込んでく」 「ン、ぁっ、何言ってっ、ンっ」  まだTシャツしか着ていないはしたない格好。抱き締められて、乗っからされて、ほら、こんなにくっついたら、またしたくなるのに。 「あっ……」  くぷりと浅く挿れられた指でさえ、セックスしたばかりの柔い孔は嬉しそうに咥え込もうと、中がヒクつく。 「ンっ」 「ね、もう一回したい」  耳にキスをしながら、甘えた声でカズにそうねだられたら、我慢なんてできそうにない。  そろそろシャワーを浴びないと。母さんが帰ってくるまでに気配を消さないと。  セックスの余韻をちゃんと隠さないといけないのに。 「しようよ。ナオ」 「あっ……」 「ね? もう一回だけ」 「ン、ぁ、ン」 「お願い……おにーちゃん」 「ぁっ、ン」 「ね?」  ズルいの、そっちじゃん。それ。おにいちゃんって、言って、俺をからかうんだ。 「ぁ、ン……時間、ない」 「平気、ナオ」 「あっ……」 「しようよ、だって、夏休みなんだから」 「あ、あぁぁぁぁっン」  浅く悪戯に孔を行き来する指遊びをやめて、ずぶりと身体の奥まで一気に貫かれた。 「あっ……っ」  さっきあんなにたくさんイったはずのペニスが気持ち良さそうに白を、俺の引っ掻き傷を残すカズの腹の上に飛び散らせてた。 「ナオっ」 「ぁっ」 「また、飲ませて、水……ナオの中、熱くて」 「あぁぁっ」  くちゅりと甘い音を子ども部屋に響かせて、俺がカズに跨って、腰をくねらせながら開けたばかりのペットボトルが空になるまで口移しで水を、キスを貪り合った。 「はぁ、今日は暑かったわぁ」 「おかえり、母さん」  ただいま、そう言って、母さんが帰宅。いつもどおり、六時十分。 「ぁ、母さん、帰って来たんだ。おかえり」  パートの帰りに買ってきた食材を冷蔵庫にしまおうとするのを俺が手伝った。 「あら、ありがと。今日は、ナオ、アルバイトは?」 「ないよ。明後日。今日は……」  今日はずっとセックスしてた。親がいないから、俺の部屋でセックスをしてた。俺が、三回、カズが二回、イったんだ。 「図書館に行ってた」 「夏休みねぇ」 「……そうだね」  夏になった。  春が終わって、夏になっても、俺たちの関係は続いている。春よりもずっと濃厚で、ずっと卑猥で、ずっとかくれんぼが上手になって。おにいちゃんと戯れで呼ばれることにも興奮するようないけないことが。 「外、暑かったでしょ」  ずっと、続いてる。  俺は弟に片想いをしていて、そのことをバラさない代わりに、弟のセックスの相手をする、そういう名目で始まった関係が、ずっと――。

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