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第56話 欲情

 濡れた砂って気持ちイイ。水が抜けていくとずっしりと重くなるのに、波に濡れると途端に柔らかくふにゃりとした質感に変わる。寄せては返す波に砂が硬くなって、柔くなって、また硬くなって。  でも、それが誰かを埋めるにはちょっと不都合でさ。  せっかく埋めたはずのカズの足首が波に奪われた砂のせいで出てきてしまう。埋めて隠しても、隠しても、出てきてしまう。 「ナオ、急がないと、また波が来るよ? ほら」  座り込んでのんびりしているカズの足首を砂の中に沈めて、動けなくしてしまいたいのに、ちっともできずに、ほら、またカズの足の親指が砂の中からぴょこんと顔を出した。 「動くな」 「動いてないってば」 「じっと」 「じっとしてる」  閉じ込めたいのに。もう動けないようにしてしまいたいのに。 「ねぇ、ナオ……」 「うーん?」  砂でぎゅっと固めたそばからまた。 「あと、もう一個あった」 「?」 「無人島だったら嬉しいことっていうの」  一生懸命に砂を掻き集めていた俺の手をカズの手が握る。ざりざり、じゃりじゃりと砂が俺たちの手の中で悪戯をするけれど。 「ナオと、したい時にキスができる」  カズが首を傾げて、キスを一つくれた。  浪打際の砂は柔らかくてくすぐったくて好きなんだ。ね? 波で濡れた砂は途端に柔く優しく俺とカズの手の中から流れて消えた。 「うん……」  今度はカズへ、首を伸ばして、俺からもキスをした。 「あっ」  せっかくまた埋めたのに、カズが立ち上がったせいで砂の山が一瞬で崩れてしまった。 「んもー」 「ナオ、無邪気すぎ」 「そう?」  また伸びた?  背が。 「可愛くて、ムラムラしてくるじゃん」  背が少し伸びたんじゃない? ほら、少し背伸びをしないとキスがしにくい。  そして、その背伸びをした足の裏を砂粒たちが波と一緒に海へと流れながらくすぐってくる。  足の裏をスルスルと流れていく砂がくすぐったくて。  首筋に触れるカズの唇が心地良くて。  自然と零れた声が波の音に混ざっていく。  甘い甘い、屋外ではしちゃいけない甘い声。 「ナオ……」 「……帰ろっか」  もう一歩近づいて、手を伸ばす。いくらかまた越されてしまったらしい身長分背伸びをして、その唇に触れた。しっとりと重なる唇に、燦燦と照りつける日差しの熱だけじゃなく内側からも熱が込み上げてきてのぼせてしまいそうだった。  無人島遊びはおしまい。  行きにあれだけ遠くに感じていた海水浴場はそんなに遠くなくて、帰り道はあっという間だった。  あっという間だけれど、でも、少し早歩きをしている気がするカズの背中に胸が高鳴って。  無言のまま宿を目指すカズの濡れた髪が風に揺れるのに、ときめいて。足取りはどこかふわふわしていた。 「ナオ、水道あった。ここで砂流してこう」 「あ、うん」  更衣室の脇に水道があって、ホースがそこから伸びていた。ガーデニングなんかに使うような手元で水を止めることのできるノズルがくっついている。  海水とは違うひんやりとした水に思わず吐息が零れた。 「……」  見つめ合ってしまった。 「……き、着替え、せずにたしか宿まで行けるから」  たぶん俺たち二人とも欲情してる。  水道の水がやたらと冷たくひんやりと感じるくらいに、身体が熱くなるほど、今、欲情してるって思った。  宿についたら、チェックインをして、部屋までは自分たちで荷物を持って上がる、あと布団とかも、全部がセルフサービスのところにした。そのサービス分、宿泊代が安くなるし、ふたりっきりでずっといられるから。 「あっ……ン」 「ナオ、砂遊び、しすぎ」  ずっと。 「ン、太腿の内側にまだ砂が残ってる」 「はぁっン」  宿の脇でしっかり砂を落としたと思ったのに、まだ残ってたんだ。 「あぁっ、ン」 「ね?」  太腿の内側を掌で撫でられて、じゃりっとした感触に感じてしまう。 「砂が、ナオの中に入ったら、どうすんの?」 「あっ……ン、んんっ」 「ほら、まだ砂がくっついてる、こんなところにも」  腿の内側、ギリギリのところを指になぞられて、甘い溜め息がバスルームにこだました。  シャワーに二人で当たりながら、キスをした。侵入してくる舌に舌を絡めるような深いキスに蕩けそう。 「あ、はぁっン、ぁ、じゃ、あ、綺麗にして、よ、カズ」 「……」 「中に砂が入らないように、綺麗にして」  大理石みたいな模様のタイルに手をついて、突き出した尻をもう片方の手で広げた。小さな声で「ここ……」って呟くと、カズの手がその「ここ」をまさぐる。たしかにきゅんきゅんと口を窄めている孔を指で撫でて通りすぎて、太腿の内側に残っていた砂粒たちをお湯で流してから、またきゅんきゅんと切なげに欲しがる孔を撫でてて通りすぎて、期待をした身体がヒクンと跳ねた。 「あン、カズっ」 「足、上げて?」  片足を持ち上げられた不安定な格好のまま。 「ぁ、ぁ、あぁぁ」  指が入ってくる。  まだ指なのに、もうイっていまいそう。  ヒクつく孔を抉じ開けて、セックスの用意をしてくれてるのにすごく気持ちイイ。ちゅぷちゅぷといやらしい音を立ててほぐされていく身体がたまらない。  欲しくて、おかしくなりそう。 「あっ、ん」 「中、熱い」 「ぁ、あ、あ、あっだって」 「それに、ここ、好き?」 「ぁ、あー!」 「ここ撫でるとナオの孔がぎゅってする」  前立腺。これをペニスで突く度に同じようにぎゅってしてくれるんだって教えられて、想像しただけでまた感じた。  指で攻められながら、耳元に「やらしい……」なんてさ、低く欲情に掠れた声で囁かれたら、イっちゃう。 「ぁ、ン」  だから、早く。 「突かれたい? ここ」 「ン……」  早く、抉じ開けて捻じ込んで。 「し……て」 「……」 「カズのここに、早く、欲しい」  欲しがりな孔に。 「早く、来て」  自分で広げてみせた。尻を割り開いて、孔を見せながら、振り返るとカズが険しい顔をして、見つめてた。 「早く、ぅ……ン」  熱っぽい溜め息を零して、凛々しい顔を歪ませて、凶暴な目つきで。 「ぁ、あ、あ、あ、あー!」  ずぶりと強く刺し貫かれた瞬間、イかされた。 「あっ…………ぁあっ、ぁ」  射精した白をタイルにかけながら、たしかにペニスで前立腺を撫でられて、身体が、太くて逞しいナオのペニスを咥え込んだ孔がぎゅっとその口を窄めて、中がいやらしく絡み付いてしゃぶりつくのがわかった。

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