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第62話 隠し事
夏が終わって、季節が秋へと変わっていく。
――ごめんなさい。今日はシフトが延長になってしまったので、夕飯、二人で食べてください。出前とか好きにしてもらってかまいません。
「!」
そんなメッセージが母から昼頃に届いてた。講義が続いてたから、気が付くのが遅くなってしまった。
既読がもうすでに一つ付いている。カズだ。
今日は、二人……なんだ。
「……」
その事に胸が躍る自分がいる。
九月に入ると大学にバイト、忙しい毎日がまた始まった。カズにとっては受験に向けて本格的に動き始める時期。
夏が終わって、季節が秋へと変わっても、俺とカズの関係はまだ――。
「直紀―!」
「……司」
「なぁ、今日、明弘おじさんとこのバイトあったっけ?」
「? ないよ?」
「ねぇんじゃん! けど、用事あんの? 今日の夜さぁ、飲み会に誘ったら断られたって言ってたからさぁ」
「あー」
今年の夏は短かったって、テレビのニュースで言っていた。すごく猛暑になったけれど、九月に入ると一気に気温が下がってきたから、紅葉の時期は例年並か、少し早まるかもしれないって。
夏の、あの浮かれてはしゃぐような熱が消えて。
秋の、しっとりとした風が吹き始める。
「今夜は親がいないんだ」
「え? じゃあいいじゃん、別に」
「だから、もう帰るよ」
ここの所、夏の終わり頃から飲み会が頻繁になった気がする。どっちにしても、最初から飲み会に行く気なんてなかったけれど。
「それじゃ、また明日」
「お、おー」
「あ、そうだ司。お前んとこの誰だったっけ。わかんないけど、課題一つ出せてないってお前のこと探してたよ」
司は慌てて、そして、何か身に覚えがあるんだろう。「あっ!」と小さく声を上げると、急いで大学の構内へと戻っていった。
「……」
紅葉、本当に早いのかな。
けど、カズは受験だから、旅行にはいけない。さすがに、三回目ともなると怪しいかもしれないし。俺が旅行で、カズが泊まりの勉強会。それが季節ごとに毎回同じタイミングなんて、ちょっと奇遇すぎるかもしれない、とも思うんだ。
「ナオ!」
「……カズ」
だから、別の嘘を考えないとなぁって。
「迎えに来た」
「……っぷ、メッセージ読んだ?」
「読んだ。だからソッコーで迎えに来た。司がまたナオのこと飲み会に誘いそうじゃん。今日、バイトないし」
「……」
「ナオ?」
早く紅葉しないかな。
早く早く、山も木も、葉の一枚一枚が真っ赤に染まって、朱色に、黄色に、赤に染まってしまえばいいのに。
綺麗な紅葉が見える旅館を両親へ一泊旅行とかさ、プレゼントできるかなって。
そしたら、二人っきりをまた堪能できる。
「今日、何する? 飯」
「んー、外で食べる? ナオは? 何か食べたい?」
「なんでもいい」
「そう?」
あっという間に終わった夏はとても暑くて、すごく熱かったから、まだ身体の内側にその熱が残ってるような気がするんだ。
はしゃいで、胸を躍らせて、太陽をそのまま浴びて肌がジリジリ焦げそうな、そんな夏があっという間にすぎていった。
季節が変わって、この恋も変わった。
「早く、帰ろう。ナオのこと抱きたい」
「……俺も」
秋の赤い色に染まったみたいに色を変えた気がする。
じんわりと熱くて、静かに涼しい秋の色に。そして、秋は夜が長くなるから、こっそりと秘め事をするのに、隠し事をするのにとてもちょうどいい。
「早く、カズと、したいよ」
「あっ……あぁっも、大丈夫」
ねだると、中をまさぐる指がずるりと抜ける。
「早く、欲し、い」
家に辿り着いた瞬間から、齧り付くようにキスをして、食事もせずに、腹を空かせたまま、お互いを貪るように求め合った。
「待ってて、今、ゴムつけるから」
「っ、待てないっ」
「ナオ」
早く早くとねだって手を引っ張った俺にカズが微笑んで、額にキスをした。
「ゴムなんて」
「もうつけたよ」
覆い被さられて、額、頬、そして首筋に口付けられて、小さく啼くと、その声を上げた唇に噛み付くような激しいキスをくれる。舌を差し込んで、服を着たまま、繋がりたさに負けた俺たちは最低限の服をひん剥いて。
「ナオ」
「あっああああああっ!」
身体を繋げた。
「あ! っ……ン、ンっはぁっ」
「ナオっ」
「あ、ン、イってる、から」
カズのに貫かれた瞬間、パタタと白い熱がシーツの上に広げたバスタオルに沁みを作った。
「あンっ」
腰を掴まれ、グンっとペニスで奥を一突きされただけで、また、中がイきそうになる。夏よりもずっとセックスに溺れて、カズを夢中になって欲しがる身体になった。
挿入の快感を知ってる身体。
貫かれてイけるくらいに可愛がられた身体。
実の弟のペニスに悦がる、卑猥な。
「ナオ、奥、にいかせて?」
「ン、ぁ、うん、い、よ……来て、あぁぁぁぁあ!」
四つん這いで、高く掲げた尻に突き刺さる硬さに背中を反らせて喘いでる。背後で聞こえるカズの息遣いにさえ胸がときめくんだ。
「あっ……ン」
振り返ると齧り付くようにキスをくれた。
「ナオの中、気持ちイイ」
「ン、ぁっ、俺、も、気持ちイ、よ。ずっと、イってる」
腰を自分から揺らして射精感にうねる孔で、カズのペニスを扱いてあげる。小刻みに浅いところで亀頭をきゅんきゅん絞って、今度は奥まで腰をくねらせながらペニスの形に身を震わせる。
「あぁっン」
「ナオ、やらしい顔見せて?」
「あンっ」
繋がったまま体位を変えられてカウパー混じりの白で濡れた鈴口からまた熱の雫が零れた。脚を大きく開いて、片方の脚だけをカズの肩にかける体位。
「これ、ダメっ」
「すげ……中しゃぶりついてくる」
「ああ、ぁあっ」
奥まで来ちゃうから身悶えながら内側を我儘に占領するカズのペニスに喘えがされる。甘く啼いて、シーツを鷲掴みにして、可愛がられる快楽に大悦びしてる。
「ナオ」
「ぁ、あぁぁぁ!」
乳首を抓られて、ヒクンとペニスが揺れる。気持ち良くて、悦んでしまう。
「あンっ……カズ」
「もうイきそう?」
「ン、イくっ」
「俺も」
唇が触れるだけのキスをしながら、ペニスを奥まで捻じ込んで、カズが微笑んだ。
「? 奥、気持ちイイ?」
「っ」
「中が締まったよ?」
全部、気持ちイイよ、カズに触れられたら、全部。今、中が締まったのは、それじゃなくて。
「ね、もう俺イきそ、ナオ」
「あ、あ、あ、っ」
「ナオ、ン、中、すごい、気持ちイー」
「あ、あ、あン、あぁン」
激しくなる腰付き。服をほとんど着たままだったから、ベルトの金具がカチャカチャと音を立ててた。ベッドが軋む音、ベルトの音、それと、俺の甘い喘ぎ声と、ナオの男っぽい息遣い。それから。
「っ、イく」
「あ、あぁぁぁぁぁ」
イく瞬間、カズの低い声がたまらない。小さく、甘い声で耳元で囁くんだ。「イく」って。
「あっ……ン」
それにゾクゾクする。
「んんっ」
抜かれる瞬間にさえ身悶えるほど、気持ちイイ。
「あ……カズ」
「ナオ」
「……ン」
もっと、したい。
「カズ、もう一回、したい」
「……いいよ。俺も」
「あ、あぁっあっン」
「まだ少し、母さんが帰ってくるまで時間あるから」
「ン」
きっとあと十五分したら帰ってくる。バスの時間がそうだから。でも、平気。
「あ、あ、あぁっン」
この身体は奥のほうまで春も夏もカズとしたセックスに馴染んで、溺れて浸って染まって、ほら。すぐに蕩ける身体だから。
すぐにイケちゃうんだ。遠く、高いとこに。
「ン、カズ、もっと、奥」
夏が終わって、季節が秋へと変わっても、俺とカズの関係はまだ続いてる。
「ナオ」
「あ、イくっ」
夏のはしゃぐような恋は、秋にしっとりと濡れて、静かに、いやらしく、嘘をつくことに手馴れた恋になった。
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