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第69話 仲良し兄弟

「うわ、なんか、ナオんちでかくなってねぇ?」 「増築しましたから」 「マジかよ!」 「今、超ローンだよ」 「ナオ、借金まみれ?」 「せっせと果樹園の果物売って稼ぐよ」 「……林檎の木、一本ちょうだい」 「カズのシーラカンスくれんならいいよ」 「…………」 「ほれ、シーラカンス、くれ」 「…………」 「ほれほれほれ」  シーラカンスを手放すかどうか迷っているカズをせっつくように、脇の下を指でツンツン突付いてみた。 「いや、俺、そういうのくすぐったくないから」 「くそぉ」  そう、カズはこういうのなんでか全く効かないんだ。ちっともくすぐったくないらしい。 「ね、ナオ、そういうことさ、したらさ」 「! ギャハハハハハハ」 「自分もされるって、思わないわけ?」 「アハハハハハハ」  俺は逆にくすぐられるの全然ダメなんだ。もう脇腹辺りに手をすっと伸ばされるだけで条件反射的に身構えるし、それだけですでにくすぐったい気がしてくるし。本当に触られたら、もう暴れまくってのたうち回るし。 「アハっ、ギャハハハハハ」 「あんた達、最近ずいぶん仲良くなったじゃない?」  ふとくすぐる手が止まった。 「そう?」 「そうよ。わざわざ土曜日の朝からリビングでゲームだなんて、したことなかったじゃない」 「そうだっけ?」  俺が返事をして、くすぐられてくしゃくしゃになった服を直す。 「ゲームの時だけだよ、な? カズ」 「まぁね、っていうか、果樹園」 「……シーラカンス」 「……」  またくすぐろうと手を伸ばすから慌てて脇腹をソファにあったクッションで隠すと、カズが笑って、自分の手元にある携帯ゲーム機を手に膝を抱えなおした。そして、俺もつられるようにゲーム機を手にとって、カズの手が届かないソファの端っこを陣取って身構えた。 「カズ、果樹園、林檎でいいの?」 「マジでくれんの?」 「いいよ」  隠さなくなった。二人でいることを。  文化祭以降、かな。リビングでこうして二人一緒にいることも多くなって、食事の時も会話をよくするようになった。  仲が良い兄弟のフリをするようになった。 「ラッキー、そしたら、俺もうなぎあげる」 「え、なんでうなぎ? シーラカンスは?」  それを母さんたちは、一時離れていた思春期の兄弟が、また子どもの頃みたいに仲良く連れ立っていると安心して眺めてる。 「もうシーラカンスはない」 「えー、じゃあ、まぁいいや」  もう子どもの頃みたいな仲の良い兄弟なんかじゃないけれど。 「今度釣れたらあげるよ」 「やった」  もう子どもの頃の俺たちとは違うけれど。  ――ピンポーン  その時だった、チャイムが鳴らされ、料理の最中だった母さんがエプロンで手を拭きながら、画像つきのインターホンに返事をする。 「はい……あら……はい、少々お待ちください」  訪れたのは宅配業者ではなく。 「直紀、アルバイト先の大橋さんよ」 「……え?」  明弘さんだった。 「よ、悪かったな。電話したんだが出なくて。ちょうど近くを通ったもんだから」 「え? あっ! すみません」  ゲームに夢中になってスマホはちっとも気にしていなかった。 「いや、いいんだ。せっかくの週末にすまん。アポなしっつうのも悪いと思ったんだが、土産。お前のご両親にも挨拶したことないしな」 「え? そんなの別に」  明弘さんはニコリと笑って、小さな箱を差し出した。 「ご家族で食べてくれ。向こうの特産品だ」 「あ、す、すみませんっ」 「いや、こっちこそ悪かった」  びっくりした。明弘さんがうちに来るとは思ってなかったから。今日帰ってくるって言ってたけど、もっと遅くなるのかと思ってたから。朝のうちに到着するとは思いもしてなかった。明弘さんはお土産を受け取った俺を玄関先でじっと見つめてる。 「…………あ、あの」  本当に帰って来たばかりで、まだ時差ぼけがあるのかな。 「……ナオ」 「ぁ、カズ」 「ゲーム、止めとく?」 「あ、うん」 「……どーも」  カズが玄関のドアノブを握っていた俺の手からドアノブを奪うと、めいっぱい開けて、そこにいる明弘さんに首だけでカクンと会釈をした。ぶっきらぼうな、無愛想な挨拶。 「こんにちは」 「朝っすよ」 「あはは、そうだね。すまない」 「……」 「それじゃ、まだ帰って来たばかりでバタついてるけど、落ち着いたらまたバイト頼むよ」  はい、こちらこそ、と返事をした俺に手を振って、明弘さんは車に乗り込むと、静かに走り出した。  なんだったんだろう。少しぼーっとしていた? 頭の回転の速い人だから、仕事をしている間はぼーっとしたりするところなんて一つも見たことがなかったんだけど。 「ナオ、続き」  やっぱり時差ぼけかな。 「あ、うん」  それなのにわざわざお土産持って来てしまって申し訳ないなって、思った。 「あっ……ン、声、出ちゃうって」  脇腹のところに歯を立てられて、思わず零れた甘ったるい声に慌てて口元を手の甲で押さえる。 「カズっ、ン……んんっ、ン」  でも、その手はさらわれるようにカズに捕まえられて、声が零れてしまわないようにと、代わりに舌を差し込まれた。下でテレビを見ている母さんに声が聞こえないように、舌を絡ませて、唇を重ねて、唾液が声の代わりに口付けの隙間から零れた。 「ン、ぁっ……ン」 「ね、ナオ、知ってる?」 「?」 「くすぐったいとこってさ」  全部、性感帯なんだって――そう囁かれて、ぶるりと身体が震えた。 「あぁっン」  じゃあ、さ……くすぐったがりの俺は耳も首も、脇腹も、全部、性感帯ってこと? 「あ、あ、あっ……ぁ、ン、カズ」 「ナオの身体って、くすぐったくないとこないんじゃない?」  たぶんね。  うつ伏せで、身体を捻るように振り返りながら、覆い被さる弟に首を伸ばしてキスをした。 「ぁっ……カズ……早くっ」  気持ちイイことをしたいと、自分から尻を掴んで左右に割り開く。 「ぁ、ン、挿れて」 「うん、ナオ」 「ぁ、あ、あぁっ……」  ずぶりと貫かれて、そのまま。 「ぁあっ……ン、ぁ、カズっ……ン」  ずぶずぶと挿ってくる熱いカズのに身悶えながら。 「あン、気持ち、イ」 「ナオっ」  くすぐったがりの俺は、うなじにキスをされて、太くて硬いカズのペニスをきゅぅんと切なげに締め付けた。

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