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和紀視点 1 美しい人
俺には美しい兄がいる。
『お兄ちゃん! ナオ兄ちゃん! 鬼ごっこしようよ!』
『いいよ。じゃあ、僕が最初に鬼ね』
うちの家の前にある細長い公園。本当に細長いいんだ。車も走れないし、そこに立ち並ぶ、何戸あるんだろう、数えたことはないけれど、十、二十ある一軒家に寄り添うように細く長く伸びる公園。そこが俺たちの遊び場だった。
『はーい! じゃあ、お兄ちゃんが鬼―! 十数えてねっ!』
ナオと、俺の兄のナオと鬼ごっこをするのが大好きだった。いつまででも二人っきりで追いかけっこをしてたっけ。
『いーち、にーい、さーん、し――』
クラスで一番足の速かった俺。
『ごーお、ろーく、なーな』
でも、ゆっくり走ったっけ。
『はーち、きゅー、う……』
捕まらないように、けれど、貴方が手を伸ばして捕まえてしまいたくなるような距離で。
『じゅう!』
そしたら、ずっと貴方は俺だけを見ていてくれるから。真っ直ぐ、ほら、手を伸ばしてくれるから。貴方の手が届くギリギリまで近付いて、あ! 手が! そう思わせた瞬間、少しだけ本気で走って逃れて、また貴方が俺を追いかけて。そうして、どんどんどんどん、あの細長い公園をジグザグ走りながら知らない方へ、知らない方へ、ゆっくり貴方を誘い込むんだ。
『わー! 捕まっちゃうよー!』
そううそぶいて、貴方を、親も、同級生も、誰にも見つからない公園の端まで――。
夜中にふと目が覚めた。
「んー……」
貴方は、ナオは急に手を掴まれて、寝たまま、その自分の手首を掴む俺の手に額を擦り付ける。
ナオが実家を出たのが数ヶ月前、俺が両親が喜びそうな大学に入学したのも数ヶ月前。
「ん……カズ?」
そして、こうして夜を共にゆっくり過ごせるようになったのも数ヶ月前。
「ど、した? 眠れない?」
ナオが実家にいた時は寝入ってしまわないように気をつけるのが大変だった。だって、この人の体温はあまりに心地良くて、ずっとこうして寄り添っていたくてたまらなかったから。温かくてさ、ずっとずっとこうしていたくて。
けれど、両親がいるから。
貴方をつい抱き潰してしまう俺は、眠る貴方の額にキスをして、こっそりと、まるで悪いことをしている子どもみたいに部屋を抜け出し、自分の部屋に戻るんだ。そっと、そーっと。見つかってしまわないように。そして、温もりなんてこれっぽっちもないベッドに潜り込んで、目を閉じる。切なくてもどかしくてたまらなかった。
「お、いで……カズ」
「ナオ」
貴方がその綺麗な色白の腕を伸ばして、俺を引き寄せてくれる。
ここではそんな切ない気持ちになんてならなくていい。誰にも咎められず抱けるし、一緒に眠れる。ほら、裸でこうして抱き合って眠ったっていい。
真っ暗な中、色白の貴方の身体がさ、カーテンの隙間から差し込む月の光に当たるとこんなに綺麗だなんて、知らなかった。
「こっち」
その腕に素直に捕まって。
「カズ……ぁっ……ン」
抱き締めてくれる首筋にキスをした。
「やぁ……ン、さっき、あんなにっ」
首筋にキス一つしただけで甘い声をあげる貴方が悪い。
「んっ……ぁ」
さっきあんなにセックス したのにね。
「あ、ダメ、も、たくさんした、って」
ね、それなのに、まだ欲しくなる。貴方のことだけはもっともっとってずっと欲しがる俺を優しく抱き締めるのが悪いよ。
寝ぼけながらそんな嬉しそうな顔をして、俺の手にキスをするのが悪い。
「あン」
貴方の温もりが何より好きなこと知ってるくせに。
「あっ」
貴方しか欲しくないって知ってるくせに。
「たくさんしたから、まだ柔らかい」
「あ……ン」
ねぇ、知ってたでしょ? 俺がどれだけナオのことを好きなのか。
「それにナオのこれ、勃ってる」
「ん、だって」
耳にキスしながら、柔らかい孔を指で撫でるとヒクンって腰を揺らしてくれるやらしい人。普段は静かで、凛とした人がさ。
「あ、あ、あ、やだっ、扱いちゃ、や、ぁ」
甘い声をあげて。
「あ、ンっ……指、中っ」
「ナオ」
「あ、あ、あ、指、ぬぽぬぽしちゃ、やぁ」
あったかくて。まださっきまでしてたセックスの熱を残した中をヒクつかせて。
「あっ……ン、ん」
敏感でやらしい身体をくねらせる。誰も知らない。俺しか知らない卑猥で、やらしいこの人を。そう思うと。
「カズ」
「……」
「カズの……」
バカみたいでしょ? さっきあんなに貴方の中でイカせてもらったのに。
「熱くて、硬い」
ダメなんだ。本当にバカなのかもね。
「来て……カズ」
「ナオ」
「あっ……ぁ、あぁぁぁ」
白い腕を伸ばして、長くて綺麗な指先で俺のガチガチになったバカみたいなそれを握って扱きながら、脚を広げてくれる。月明かりに照らされた貴方はたまらなく綺麗な人なのに。セックス の快感を知ってる孔を見せつけるように大胆に身体を開く姿はとても卑猥で。
「あっ、ん、カズっ……あ、奥して、奥のとこ」
ペニスで貫かれながら身悶えて前から露を溢すやらしい人。
「あぁぁ、そこ、好きっ、突いて、あ、カズっ」
自分から腰を揺らして、気持ちいいところを擦り付ける貪欲な人。
「あ、んっ……乳首、ダメっ、気持ち、い、の」
甘い声を上げて、ダメって言葉と裏腹にその乳首を俺の下に押し付け悦がる、快楽に素直な人。
「ああ、あ、あ、あ、カズ、カズッ」
「ナオ」
俺の声に中をひくつかせる可愛い人。
「あ……ン、カズ、中、欲しい」
「っ」
「俺の中でイって、あ、あんっ」
クンと奥を突いてあげた。足の爪先までキュッと縮こませて、身悶えて、セックスに溺れた貴方がキスをくれた。ここでしか息ができないみたいに、舌を絡めて、唾液なんて溢れても構わずに大胆にしゃぶってくれる。
「カズ、ぅ……ン、イクっ、一緒に、カズもっ」
いやらしくて、素直で可愛い、誰よりも美しい俺の兄を力いっぱい抱き締めて、捕まえた。
「あ、あ、あ、あああああああっ」
この腕に捕まえた。
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