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序章二
「抱こう。きっとみっともなく、リードもできないだろうが、きっと貴方を抱こう」
「今だよ。今すぐ抱いて。こんなにお互い身体は疼いているんだからさ」
白狼の手が尻尾を撫でる。毛繕いするように耳を舐めたのち、「俺は愛し合いたいから、今は抱けない」とはっきり言いきった。
「貴方と四季を感じて、お互いをもっと知ってから。この考えは変わらない」
「意気地なしだなあ」
どこか安堵して、そして落胆した。選ばないといけない運命はもう、そこまで来ているのだから。
***
「大丈夫ですか?」
駆け寄ってくるその姿に、途切れていく意識の中で手を伸ばした。
伸ばした先の掴んだ男の手は、温かい。その温もりを探していた。
その温もりに包まれたかった。何度運命を呪ったか分からない。
けれど、これだけは本当だ。
こんなに自分に注がれる愛が、温かいものだと知らなかった。
白狼の腕、言葉、そして体温は、蘇芳を心の内側から温めていった。
縋っていいのか、愛せば愛すほど、戸惑う。けれど、もう知ってしまった。離れられない。 運命に翻弄されるだけの自分を不幸だと嘆くだけはもう嫌だった。
変わるために、ひたすらにただ、目指す。
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