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一、吉夢⑥

「紅妖狐は、階級や年齢によって身に着ける赤色の服が決まってるの。生まれたばかりの珊瑚は、珊瑚朱、長だけが許される紅赤は僕だけ。と言っても今はもう生きてるのは僕と珊瑚だけだろうけどね」  先ほどまで倒れて死にそうだった狐が、饒舌に喋りだしたのを白狼が驚いている。その慌てている様子が蘇芳は面白くて、白狼の顔を穴が開けばいいのにというほど積極的に見る。 「紅妖狐は、伝説の狐なんだよ。神様のおそばから逃げ出そうとして呪われた可哀そうな種。ねえ、神様に逆らっても僕を此処に置いてくれる?」  粥を冷ましている大きな手を握る。そしてもう片方の手ももう一方の白狼の手に伸ばした。 「珊瑚ちゃーん。お姉ちゃんと一緒に向こうにいってようね」  機転を利かしてマリが離れていくのに、二人は瞳を離せない。蘇芳は捉えるために、白狼は吸い込まれるように互いを見つめている。 「珊瑚ちゃん、だって。紅妖狐は雄しか生まれない種なのに。それでいて人間と全うに番うこともできない種なのに」 「す、蘇芳さん、話なら後から聞きますから、まずは体の回復を優先してください」  冷静に事務的に伝えたつもりだろうか、蘇芳には違う。高揚していく白狼の、海の波のように大きくなる心臓の音に満足そうに微笑んでいる。 「そういえば大和家って名前、爺と兄から聞いていました」 「そうですか。恥ずかしながら人間と人外、妖との仲介役を担っている家ですから、知っている人も多いのだろうかと」 「大和家の、お名前はなんて言いましたっけ?」  さきほども聞いたが、もう一度聞きかす。  すると射貫くような澄んだ瞳でもう一度教えてくれた。 「白い狼と書いて、白狼と申します」 目の前の若いこの男がそうだとは思わず、目を見開く。 だが、悪くないとほくそ笑む。若くエネルギッシュで、真面目で一途そう男。 そして人間の血も狼の血も、色濃く体内に存在しているこの男こそ、蘇芳の理想の相手だ。 「貴方が、白狼」  名を呼ばれ、依然目線を逸らすことのできない白狼は、ゆっくり頷く。 すると、弱弱しく白狼から離れると、蘇芳は三つ指を付いて、深々とお辞儀をした。 「僕を貴方の花嫁にしてください。そして僕の命をもらってください」

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