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一、吉夢⑦

 白狼の反応が気になり顔を上げると、驚いて固まっているようだった。  蘇芳は自分の容姿が武器だと分かっている。首を傾げて甘えたような声で、目を潤ませる。 「ダメですか?」 「え、いや、駄目の前に根本的に」  遭難し、衰弱していた相手からいきなり逆プロポーズされ、戸惑いを隠せない。その前に蘇芳は男だ。嫁に貰う云々の前に根本的に無理な話だった。 「紅妖狐は、神様を怒らせた種族なので雄しか生まれません。生涯ただ一回、自分を犠牲にして子も宿せます。兄も珊瑚を産んでいます」 「ま、待って。兄って、生涯一人なら、兄弟なんてできるはず――」  次々に驚愕の単語が飛び出る中、今その質問をする空気ではなかった。それほど、白狼も驚いている。 「運が良かったんです。僕たちは双子で産み落とされたので、相手の種族の力が少しは影響したんじゃないかなって。あの、話が長くなりますので、僕のことを先にいいですか?」  説明が面倒になったのか、笑顔で白狼に迫る。この精力溢れる、獣の王者である狼。その相手を見つけて逃がしたくないと、鬼気迫るものがある。 「絶対、あなたって普段落ち着いてるけど、……求めてきたら、すごそうだし。雄くさいし、ギラギラ生命力に漲ってるし」 「褒められているのか?」  容姿が怖いことは自覚していたが、それ以外を指摘されたのは初めてで先ほどから白狼は狼狽えている。普段絶対に出てこない耳と、落ち着かなく揺れている尻尾がそれを物語っている。 「僕、白狼のお嫁さんになりたいです。白狼じゃなきゃ嫌だ」 「その、怖がられることはあるがそんな風に求められるのは初めてで正直、嬉しいのだが」 「ママー! あの人がお兄ちゃんの結婚相手だよ」  バットタイミングでマリが白狼の母親の肩に乗って現れ、ばっちり蘇芳を指さしている。  白狼にとっては助かったようで安堵の息を吐いている。 「紅妖狐の長、末摘 蘇芳と申します。どうぞよろしくお願いいたします」 「紅妖狐って、絶滅したって聞いたけど」 「僕も日本狼は絶滅したって思ってました」  蘇芳が綺麗な顔で宝石のように輝く笑顔を向けると、白狼の母親は黙り込む。白山の畑からの帰りのようで、ジーンズに白のスキニーパンツと無地の紺色のシャツ。手にはまだ土のついた大根。そして顔は白狼のように迫力ある強面。  だがその異様な様子に、蘇芳は全く引く様子はない。 「よし。祝言は今夜にするか」 「わーい。初夜も今夜でいいでしょうか」 「まっ。うふふ」 「うふふ」  自分の母が、マリの耳を手で押さえつつ強面で笑っている。蘇芳は屈託なく純粋な様子で微笑んでいる。 「二人とも、俺を抜きに話を進めないでください」

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