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一、吉夢⑪
珊瑚が驚き目を開けたので、蘇芳は再び抱きかかえる。
その様子さえも白狼に許せない。珊瑚には優しくできるのに、何故自分を蔑ろにするのか。
「こんな幼い子に、自分の夢を託すのは違う。それはその子にもプレッシャーになるやもしれない。君は、人に願いを押し付け諦めているだけだ。そんな後ろ向きな考えは認めない」
「貴方って真面目だねえ。でもさ、僕たちの運命をよく知りもしないで」
「運命は知らない。が、命は平等だ。君も幸せに生きる権利がある」
その言葉はまるで、蘇芳が今、幸せではないと暗に言っているように聞こえた。が、それは間違いではないのだろう。白狼の瞳が怒りで揺れている。
「俺の花嫁になりたいならば、世界一幸せになり運命という柵から逃げ出してくれ。俺が全力でサポートする」
熱血的で、真っすぐで、曲がったことが大嫌い。理不尽な出来事も許せない。そんな性格だからこそ怒っているのかもしれないが、違う。白狼は自分の性格から、まだ気づいていない。
この蘇芳をなんとしてでも守りたい。本能が、直感が、血を奮い立たせているのを、まだ自覚していなかった。
「それって、僕を幸せにしてくれるってこと?」
「君が幸せを実感できるように努めるということだ」
根本的に考え方も目指す方向も違う。けれど吸い寄せられる互いの瞳に。互いの匂いに。触れてみたい、触れられたい、その指先に。
「運命ってさ、生まれた時から決まってて逃げられるものじゃないと思う、けど」
珊瑚を見ながら、寂しそうに悲痛な様子で蘇芳は笑う。
「けど、白狼の傍に居られるならそれでいいよ。白狼が頑張るなら、僕も隣で応援するね」
ふふふ、と笑う蘇芳に小さく嘆息すると、珊瑚を奪う。大きな手で、小さな珊瑚を恐る恐る抱く姿は危なっかしいが、珊瑚はもう泣かなかった。
「逆だ。俺が隣で応援する。君に頑張ってもらうために。白湯を持ってくるから布団で寝てなさい。珊瑚は俺がミルクをやっておくから」
「うん。ありがとう」
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