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二、明晰夢(めいせきむ)⑦

「え……。白狼ったらこんな昼間から大胆」 「と言いつつ下着を脱ごうとするな。穿きなさい」  一瞬、金色の毛が見えてしまいすぐに逸らす。本当に下の毛も金色なのだと考えてしまう自分を恥じた。 「僕は別にいいよ? 好きな人と交わうと回復が早いんだって」  笑顔で言われたが、白狼は会話を続けてもペースを乱されるだけだと気づき、そこで辞めた。 「何かご飯を用意しよう。綺麗な顔が青白いのは勿体ない」  自分が療養させてあげられなかったせいもあるので、余計に罪悪感が生まれている。季節的にまだ早いが体を温め、栄養も取れ、〆にお粥も食べられる鍋なんでどうだろうかと献立を思い浮かべた。 「うーん。僕の顔色が悪いの、そんなに心配?」  ちらっと悪戯っ子のように笑いながら尋ねるので、素直にうなずく。すると蘇芳は自分の唇を艶めかしく舐めながら、白狼の首に抱き着いた。 「白狼って精力ありそうだから、僕にちょっとだけちょうだい?」 「精力?」 「本当は男根を口で吸って、精液飲むのが一番いいみたいなんだけどお」  首に抱き着いていた手が、白狼の下半身に伸びたので白狼が手を掴んで阻んだ。  だが指先は下半身の中心部分をなぞり、輪郭をなぞると「……ほら。大きい」と無邪気に笑っている。 艶めかしさと無邪気さのアンバランスさに、頭痛がする。 「病人に、口淫なんて絶対にさせない」 「うん。糞真面目な白狼はそういうでしょう。だから、唇から吸わせて」  抱き着いた蘇芳が、顎に舌を這わせるとそのまま唇まで舐めた。  唇を固く閉じてガードしたが、赤く小さな唇でチロチロと口をこじ開けようとしてくる。  引きはがすと、蘇芳がつまらなさそうに唇を尖らせた。 「あーん。意地悪」 「自分から接吻なんて、しかも恋人でもないのに」  慌てふためく白狼を、首を傾げながら覗き見る。 「僕は、白狼のお嫁さんになりたい。白狼は僕に元気になってもらいたい。キスで元気になる僕と、キスの気持ちよさで僕にメロメロになっちゃう白狼。何も悪いことはないよ」  綺麗な顔で道徳がメチャクチャな、いやこの場合は何だろう。貞操観念のない蘇芳に頭を抱える。  本来ならば、結婚の議を迎える初夜まで触れ合うべきではないと思っている。 「何を言っている。生涯を共にする大事な伴侶はもっと大事にするべきだ」 「じゃあ、ご飯になって。白狼は僕のごちそうになってよ」  喉を鳴らす猫のように甘える蘇芳から甘ったるい香りが放たれた。 「僕が死んだら悲しいでしょ。ご飯食べさせて」 「だから、結婚前の大事な体で」 「けちー。じゃあ、誰でもいいから、呼んできてよ。白狼の代わりなら、五人ぐらい? 白狼が嫌なら、代役は誰でもいいよ」  ――僕は誰でもできるんだよ。  暗に挑発されているのは分かった。拒むこともできた。誘う香りが一層強くなっても理性までは手放してはいなかった。 「僕のこの青ざめた顔色を、白狼が元気にしてくれたら嬉しいってだけの話なんだよ」  振りほどけない。さきに啄むように下唇を噛んだのは蘇芳だった。小さな唇で下唇をひっぱると、つるんと滑って唇が離れた。

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