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二、明晰夢(めいせきむ)⑪
***
「ねえ、起こした方がいい?」
「やめときな。衰弱が激しかったんだ。この子は眠るのと食べるのが今は仕事なんだよ」
「ふうん」
頭の上でこそこそと聞こえてくる話声で目が覚めた。
そしておかゆのいい匂い。卵とおだしと、ネギが乗っているのは見なくても分かる。
が、白狼に一度に精力をもらったせいで、体中に浸透させるのにとても眠たい。吸収するのにも体力がいるのだと知った。
けれど唇を重ねるだけで、気持ちがいいし元気にもなるのなら身体を重ねたらどうなるのだろう。
自分よりも一回りも二回りもがっしりしていた。背も頭一つは高く、軽々と蘇芳を支えたり抱きしめたり。自分とは違う男らしい白狼を思い出し、高揚は止められない。
『好きで、好きで好きで、好きだった。後悔はしたくなかったんだ』
ただ。
ただ、お腹を押さえて泣く纁と、その纁を抱きしめる白翁を思い出す。
自分に待っている運命は、きっと兄と同じだろうと自覚している。
自分よりも優れていた兄が、紅妖狐の運命に抗えなかったのだ。自分もそうだろう。
だったら白狼でいい。彼ならきっと自分の子を大切に育ててくれるだろう。
それに真っすぐで偽りのない気持ちのいい男だった。
だから、白翁と纁も自分をここに送り出したのだろう。運命はすぐそばまで来ている。
白狼に腕を掴まれたその時に、蘇芳も感じた。
ただ兄のように胸を焦がし、泣いて苦しく、狂わせるような恋ではない。
そこまで心を奪う恋ではないことを願うしかない。
「珊瑚ちゃん、マリと遊んでようね。綺麗なママはねんねしてるからね」
珊瑚を小さなマリが大切に抱きかかえて隣の部屋へ向かう。それに安心して、蘇芳は再び目を閉じたのだった。
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