26 / 168

三、白翁①

 三章 白翁 一  ふもとにある一軒家ではなく日本狼として、人外をまとめて保護するようの資料室だ。  そこで絶滅した種や、大和家を頼ってきた種を記録している。  管理室から鍵を持ち出し、記録が残っている資料室を開ける。ほこり臭く薄暗い部屋で、窓を開けていると廊下から絹すれの音が聞こえてきた。  「忙しそうね」 「ヒナさん」 「白狼のお坊ちゃん。あなたが来るなんて珍しいわね。家にも帰らず、お館様みたいに仕事人間になっていると聞いていたのに」  白山の管理をお願いしている朱鷺の血を持つヒナが、資料室の扉にもたれかかりながら白狼を見る。艶っぽく濡れた瞳に、口の端を妖しく上げ、色気が漂ってくる。が、白狼は平然としながら、資料が並べられた本棚から次々に本を取り出している。 「毛並みのいい、珍しい狐が銀山に逃げ込んできたって聞いたけど」 「ああ。彼の資料も探している。何かヒントでもあればいいんだが」 「珍しいでしょ? 奥様も知らなかったらしいから、ないんじゃないかしら。お館様に聞いてみたら? 逆に記録に残したいから教えてちょうだいよ」 「父さんか。仕事場でも忙しそうで顔が見れていないんだ。これ以上の負担は申し訳ないな」  白狼の父親はとっくに耳も尻尾も消え、人間とともに仕事をしている。環境省に入省後、国税局調査部長、国税調査査察部長、理財局総務、環境省総合対策局長、環境事務次官と着実にキャリアを積み、参議院議員に二回当選し、翌年環境大臣に就任したばかり。家に帰る暇もないぐらいで睡眠を取っているのかさえ分からない。  それほど人間の世界に、物の怪はもちろん人外が押し寄せてきている。はやく共存できる仕組みを作ろうと上層部から変えていかなければいけない状況だ。 「貴方も責任感強いし、お館様のように外に飛び出して仕事をしそうね」 「それは分からない。俺に父ほど人の心を動かせる力はなさそうだしね。それよりやはり記録にそれらしいものがないんだ」  白狼は冷静に言い放つと、記録が書かれていたノートを本棚に戻した。 「彼については記録に残さないほうがいいかもしれない。まだよく分かっていないからヒナさんも内密に頼みます。ほかに変わったことは?」 「亀。白山に衰弱した亀が迷い込んできてる」 「――なんだって」 「そこに記載はしてないの。高貴な匂いのする亀だから、まるで」 「今どこにいる? なぜもっと早く言わなかった」  ヒナの両肩を掴んで揺さぶると、「痛いわよ」と苦笑される。女性に乱暴してしまったとすぐに手を離すと、ヒナは乱れた着物を整える。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!