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三章 白翁④

恋仲でもないのに距離感がおかしくなり、白狼の方から一歩退く。 「君は分からないだろうけど、恋よ。人を好きになって、人間になりたいって強くねだって人間になった絶滅種じゃない人外を私はいっぱい見てきてる」 「だから?」 「ご熱心な狐さんが記録にないということは、子孫を残したいとここを頼ってこなかったってこと。つまり、――気持ちが優先して生まれた人外ってこと。そんな相手にはがっちがちのエリート君の仕事や業務みたいに接すると誤解されるわよ」 「肝に銘じておくが……なぜその話を、今するんだ?」  蘇芳は今の話の中でも一番、種を残そうとしている種族だと思う。  そうでなければ、いきなり結婚だの勢力が欲しいだのと積極的にキスをしてくるはずがない。 「ふふ。何もわかってないんだから。人を好きになるって、大胆でとっても繊細な気持ちなのよ」 「ヒナさん。もう少し具体的に教えてほしい」 「さて、鍵閉めちゃうから出てちょうだい」  有無もいやさず部屋から追い出され、それ以上は何も教えてもらえなかった。  確かにヒナからしてみれば、白狼は恋愛のいろはも何も知らないお子様に見えるのかもしれない。  白狼さえ未だ何も気づいていないのだから。 「そうだ。白亀のこと、御前様に伝言頼みます」 「ああ。母には俺から話す。ちょうど今、本家ではなく銀山にいる」  『本家』とは聞こえがいいものだが、本当はただの200坪の一軒家だ。この山を管理する屋敷の方が本家と呼べるほど大きいだろう。実際、大和家の家として取材が入るのもこちらだ。 「わざわざ?」 「ここに俺が調べ物をする間、様子を見てもらっていた。それと今保護している狐の子に服等の用意をお願いしたいんだ。特殊な子で、紅赤の色以外身に着けられないらしくて」 「ふうん。もしも遭難者のリストに載せてよくなったら、それも記録させてね。では」  ヒナはそのまま背を向けると保育器の中の白翁に様子を見る。  ヒナの言っていることは、子孫を残したい蘇芳の立場からしてみるとずいぶん違っているとは思ってしまうが、白狼が何も知らないからかもしれない。そちらの疑問は解決できないまま、白狼は蘇芳の元へ戻る。

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