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三章 白翁⑨

「できないんだ」  強いと思っていた。誰よりも聡明で、蘇芳と違ってしっかり者で白翁も兄を信頼していて、仕事を任せていた。  そんな尊敬し憧れでもある兄が、イアフの前で震えている。嫌がり泣いているはずの兄だが、尻尾はイアフの腕にからみついている。 「僕は愛している相手の子を産むと死んでしまう呪われた種族だ」  頭をガツンと殴られるような衝撃。  兄は自分の運命を呪いだと認識していたのだ。蘇芳は、そんな種族も少なからずいるんだろうって深く考えていなかった。 「許してくれ。僕は誰も愛さなっ」  言い終わる前に、再び口づけされた兄は、形だけ拒むが何度も何度も求められていくうちに、すすり泣く。  恐怖や怒りからではない。兄も海でイアフを助けた時からずっと惹かれてしまっていたからだ。  シュルシュルと腰に巻いていた帯を抜かれ、大きく開いた兄の足の中心に、イアフが顔をうずめた。 「可愛い私のソヒ。大丈夫だよ、私は――だから」  初めて聞くイアフの言葉に、蘇芳は首を傾げる。が、兄は「本当……?」と声を震わせて驚いていた。 「ああ、そうだよ。だから君の運命を覆すためにきっと私はここに流れ着いたんだろうね」  兄は恐る恐る手を伸ばす。もう一度、おぼろ雲から月が顔を出したとき、淡い月あかりの下、兄とイアフはまるで一つに溶け合ったかのように抱きしめ合っていた。  肩にかかっていた着物を荒々しく落とし、兄の背中が暗闇で映し出される。  その背中を優しく撫でながら、腰から下へ指が下り、兄が小さく声を上げた。 「ぼ、僕のお兄ちゃんをいじめるな! 泣いてるじゃないかっ」  浜辺の砂を掴み駆け付けるが、イアフは妖艶に笑い、頬に貼りついた髪を掻き上げた。 「スオウ、おいで。君も見ていくか?」 「兄がいじめられるのを見るものか」 「いじめていない。愛でているんだよ、ほら」  足を大きく開き、恥ずかしそうに胸に顔をうずめて隠れる兄。  イアフは兄を自分の首に手を回させ、抱き起すと蘇芳を手招きした。 「こんなに蜜を滴らせ、私を求めているんだよ」 「あっだ、めっお、弟に見せないでっ」  イアフが兄の足と足の中心に手を入れ、握って擦っているのは兄のペニスだった。  何度も擦るたびに、背中を仰け反らせ甘い嬌声を上げる兄は、憧れ尊敬し自慢であった姿からはかけ離れている。 「覚えておくといいよ。男同士で愛し合うとき、ここに自分の硬くなった欲望を打ち込み」 「い、あっ」 「穿ち」 「イアフっ」  背中を撫でていた指が、兄の下着を下ろし、尻の窄みから指を侵入すると、何度も挿入した。  そのたびに震えて、首に抱き着く手がほどけ、胸に倒れこむ兄は、艶めかしかった。 「愛してると蕩けさせてあげる。それが、セックスだよ、スオウ」  指の動きに翻弄されている兄を、気遣うように耳を撫で、顎を強引にあげると口づけをした。  兄もイアフの口づけを求めるように顔を上げ、受け入れていた。  指が動く音が、だんだんと水音を立て出した。クチュクチュと濡れた音が響く。  動けないでいる蘇芳をあざ笑うかのように、イアフは目の前で兄を抱こうとしていた。  快楽に溺れ、甘い嬌声が響く海岸で、蘇芳は動けず、ただただ二人を見つめることしかできなかった。

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