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三章 白翁⑫

「君が眠りこけたあとに珊瑚くんを奪って、ヒナさんが今、面倒を見ています。早く食べて、会いに行きましょう」 「うん。……そうだね。ずっとここで白翁ばかり見ていたら、目覚めた時にいっぱい怒られちゃうからね」  見た瞬間、心が震えた。不安で、もしかして白翁はもう目覚めないのではないかと震えた。  が、心配性で蘇芳と兄を一番に考えてくれていた白翁だ。きっと簡単には命を消さないと信じている。此処まで、こんなボロ雑巾のような姿になっても戻ってきてくれたのだから。 「カレーはどうだ?」  優しい口調で白狼が尋ねるので「おいしいよ」と口に頬張りながら答える。 「そうか。下手糞だが、俺が作ったんだ。残さずに食べてくれ」  頭を撫でる白狼の指先は、絆創膏が何枚も貼られている。  白狼との口づけを好きだったが、このカレーライスも美味しいし、好きだ。  優しい白狼の心が溶け込んで口の中に広がって行く。だから好きだと思ったんだろう。  ほろりとこぼれた涙を白狼が指先で拭う。一つ一つのしぐさが愛おしくて、蘇芳の胸を騒がせていく。

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