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四章、珊瑚の秘密 一
「……寝すぎて頭が痛い」
むくりと起き上がると、あたりを見渡す。がらんとした部屋。自分が眠っている布団と枕元にペットボトルが置かれているだけ。
白狼が甘やかすので、トイレ以外はほぼお布団の上で過ごしている。珊瑚の夜泣きも白狼はだいぶ起きてくれるようになった。
白翁も人外たち専用の病院へ移送された。一時期はもうだめだと言われていたが、ヒナの献身的な看病のおかげで持ちこたえたようだ。入院先で甲羅の手術を成功させ、怪我の回復はうまく言っているらしく、意識が回復したら連絡が貰える手配になっている。
微かに日差しが入ってきている襖を開けると、縁側の通路に出る。縁側のガラス戸の向こうでは、珊瑚とマリが白狼の周りをくるくると回り遊んでいる。
「珊瑚って普通の子どもみたいに遊んだりするんだ」
驚いてそのまま飛びだそうとして、自分が下着一枚だと気づきあたりを見渡す。すると、自分が着ていたであろう紅赤の着物を、白狼が苦戦しつつ外の物干し竿に干そうとしていた。
一応、そこそこ値打ちある着物を日差しの下で干すのは痛むのでやめてほしい。そう正直に言おうと、下着姿で縁側にでる。
「はくろーう」
「蘇芳さん、服を着てください」
すぐに白狼は蘇芳に気づくと、その姿に目を閉じる。
ガラス戸を開けながら、外の白狼に見せようとすると駆け寄ってくる。
そして自分が着ているYシャツを蘇芳の肩に羽織らせた。
「枕元に服を用意していたはずですが」
「えー、なかったよ」
蘇芳が住んでいた社の中には、箪笥が並べられた部屋に色別で着物が仕舞われていた。
珊瑚を奪い返したく、着の身着のまま飛び出し、その社へ帰ればすぐに追ってから捕まるだろうから帰れない。よって蘇芳は今、階級によって着られる赤色の色の深さについてるルールを守れる環境ではない。難しい。
だからと言って、白狼の真っ白なYシャツを受け取るわけにはいかない。
肩に羽織らせられたシャツを脱ぐと、諦めたのか腰に巻かれた。
(そこまでして、僕の裸を隠したいなんて変な人だ)
蘇芳の兄の相手なぞ『いい。ソヒの好きなようにするがいい』と兄に心酔し、溺愛していたのを知っている。あの人なら金に糸目を付けず、纁色の服を用意していただろう。
「君の服は、紅赤しか駄目だと言ったから用意するのに大変なんだ」
困った様子で消えた洋服を探している白狼の姿を見れば、嘘ではないと信じられた。
「……僕、白狼の服でもいいよ」
「え?」
「どうせもう、紅妖狐は僕と珊瑚しかいないもん。ルールに縛られなくてもいいよね」
困らせている気がして申し訳なくなっただけなのだが、いざ白狼の服に袖を通そうとすると腕を掴まれた。
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