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四章、珊瑚の秘密 三
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それから数日が立ったが、段々と白狼の眉間に皺が増えてくるのが見える。
蘇芳用に四着、赤紅色の着物が届いてからだ。
珊瑚も夜泣きは減り、人型には変身できないままだがマリと楽しそうに遊びまわり元気に飛び回っている。あの場所から連れ出した時と比べ、見違えるほどに元気になっているのに胸を撫でおろした。
が、日が経つにつれ、白狼の狼の部分が強く出てきているようも思える。
「白狼、どうしたの?」
「少し待っててくれ。こっちには来ないでほしい」
険しい顔で門のところまで歩いていく。
「マリ、部屋の中で遊びなさい」
外ではなく中で遊ばせようとする言葉も増えてきて、蘇芳は部屋に戻るふりをして門へと歩く白狼の後を追う。
「はくろうさまー、ことしはここもメイゲツきていい?」
「今年はここも名月の日、人がいるもんね」
「駄目だ。長い旅で疲れている客人が居る。来られたら困る」
子どもたちの浮足立った楽しそうな声と困惑した白狼の対応。名月とはなにかと首を傾げていたら、マリが白狼の場所まで走って行く。
「あのねえ、狼は満月の日は危険なんだよー。だからマリもお兄ちゃんも会えないよ」
「余計なことは言わなくていい。ここは『名月おくれ』は何も用意していない」
「えええー。あととりのくせにけちいい」
屋敷の門の前が賑やかなので、こっそりと近づいてみる。
するとタヌキと猫、雀の子どもが白狼の足にまとわりついて騒いでいるようだった。
どんな人外でも子どもはやはり可愛いなあと見るが、白狼の眉間のしわがまた深くなっている。
白狼の疲労は、蘇芳をほかの人外からガードしてくれていたからだったのだろう。でも『名月おくれ』とは一体何だろうと蘇芳は白狼のもとへ歩いていく。
「白狼、お茶でも出しましょうか」
見世物になっているとは分かったが、蘇芳は面白がって白狼の元へ駆け寄る。
「……いいから、中へ入っていてください」
「でも、お客さんでしょ」
ちらりと視線を送ると、白狼の向こう側で騒いでいた子どもたちがと、こちらを見て見惚れている。
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