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四章、珊瑚の秘密 五
――特別。その言葉に胸をときめかせるが、白狼の表情は硬い。
「君は神に使役されるような誇り高き人種。見世物にしたくなかっただけだ」
はっきりと特別な感情ではなく使命感から隠されたのだと言われ、逆に清々しい。進展がないのは、白狼のこの鉄壁、馬鹿真面目なところだ。
「……本当に酷い人だ。僕、全然まだ白狼の特別にはなれていないじゃんか」
「そうか? 俺が仕事を休んで傍にいる理由は、やはり蘇芳さんと珊瑚くんが心配だからなんだが」
でもそこに『セックスしたい』や『繁殖相手として』という気持ちがないでしょ、と言いそうになって止める。現時点で一番大切にされているのには変わりないのだ。
「で、お菓子の準備はどうしたらいいの? 僕、少しだけならお金もあるよ」
「お菓子は手配する。蘇芳さんが手伝いたいのなら、袋詰めを一緒にしましょう」
と言いつつも眉間に皺を寄せた白狼は、何か言うのを躊躇った。その一瞬の変化に気づいた蘇芳は少し考えてからマリの言葉を思い出す。
「狼は、満月の夜が苦手なの?」
「……君が気にすることではない」
言葉を詰まらせた白狼の様子を見れば一目瞭然だった。嘘をつけない白狼の顔には『そうです』と書いている。眉間のしわも、満月が近いことと屋敷に蘇芳を見に来る山の住人の対応と、対応するのにっ耳や尻尾が生えている未熟な自分の姿を見せる不甲斐なさも、刻まれていた。
「マリちゃーん。満月の日はどうして白狼はいやがってるの?」
「蘇芳さん」
「えー?」
珊瑚を抱っこしたまま、こちらに駆け寄ってくると、マリは白狼の顔を覗きこむ。
「うそはだめなんだよね?」
白狼が頷くと、満足そうに笑って蘇芳を見る。
「あのね、マリとお兄ちゃんは、狼の血を引くので満月の日は、狼の血の方が強くなる日なの」
「へえ。強くなったらどうなるの」
「マリは狼の姿になっちゃうかな。満月を見なかったら変身まではしないみたいだけど、でも狼に引きずられちゃう」
「本能的になってしまうってことだ。母とマリは実家の地下で朝まで女子会をするらしい」
女子会とはなんだ、と思うが、それよりもその真実のどこが白狼に不都合な部分があるのだろうと首を傾げる。
「お兄ちゃんはね、いつもセーブできるのにその日は耳と尻尾が生えちゃうの」
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