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四章、珊瑚の秘密 七

「わー。じゃあ袋詰めしなきゃ」  段ボール三箱を軽々持って、腕に大きな籠をぶら下げた白狼がテーブルにお菓子を置くと、ため息を吐く。 「すみません。時間が出来たので、父の秘書が急遽来ることになりました」 「そうなの? 僕はお菓子の袋詰めじゃなくて、その人に会った方がいいよね」  白狼は頷いた後、庭で遊ぶ珊瑚を見る。 「それで、珊瑚はどうしようか」 縁側から家に入るとすぐ、珊瑚が蘇芳に飛びついた。 そのまま足を上って尻尾を振っている。今日はマリが来ておらず遊びたいパワーが爆発中だ。 だがいくら白狼が信頼している人でも、珊瑚は彼から浚ってきた存在であるのに変わりない。 「珊瑚は隠しておいた方がいいかもしれない」 「そうか」 短い言葉の後、珊瑚を抱き上げる。その父性いっぱいの眼差しに思わず蘇芳も背中に抱き着いた。 「君はここで大人しくしてくれるか。ドサクサにまぎれて抱き着いてる蘇芳さんの方が手がかかるんだ」 「ふふ。珊瑚のミルクもだいぶ慣れてきたもんね」 夜中に珊瑚が起きると、空腹ではなく理由が分からず泣いていると白狼が抱き部屋中、もしくは外を散歩してくれるようになっていた。 一人であたふた育てていた時よりも眠れるようになって蘇芳の顔色も良くなっている。子育てなんて右も左もわからず、白翁に任せっきりだったのは反省しないといけない。白狼よりは珊瑚の気持ちは分かるかもしれないが、無我夢中でただあの薄暗い家から助けたかっただけなのだから、無理もないとはいえ、蘇芳も最初は手探りだった。 「時々、君たちは無邪気で人間の欲望に染まった汚い部分をあまりにも知らなさすぎると不安になる」 「そう? 結構ドス黒いの見てるよ。白狼とは生まれ落ちた環境が違うし」 比べるわけではない。それに自分と何もかも違うから惹かれたのかもしれない。 「色んな経験したうえで、白狼の隣で笑っているんだけどね」 「意外と強かなのか?」 「意外じゃないよ、強かだよ」  そうでなければ、男のくせに男を誘惑したり、子種のために性交をねだったりしない。白狼はまだ蘇芳を分かっていない。 「来るまで時間があるなら、お菓子のラッピング教えてよ。この段ボールの中のお菓子をどうしたらいいの?」 「ああ、三種類あるので、この透明なラッピング袋に――って腕から離れてください。段ボールが開けられない」 「どうしよっかなあ」

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