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四章、珊瑚の秘密 八
腕に抱き着くと、尻尾もバンバン白狼の背中に当たる。でも白狼の匂いやがっしりした腕に抱き着くのは好きなので、離れがたい。白狼は諦めながら、腕に蘇芳をつけたまま段ボールを開ける。段ボールの中は、一口ドーナツ、おせんべい、包装された三食のお団子がそれぞれ入っている。それを袋に入れ、黄色いリボンで結んで籠の中へ入れていく。
ざっと見て百個はできそうだ。つまり白山、銀山にはそれぐらいの獣人や獣の子どもたちが居あるのだ。
「僕、自分以外の獣人に会えるの、実はちょっと楽しみなんだ」
「そうなのか。ここには来ないように言っておいたが、君がもう少し体調が良くなったら子どもたちと遊んであげてくれ。だが、子どもは元気だから君が疲れてしまうだろうな」
それだけが心配だ、と会話の端々で心配してくれている。期待させてしまう自覚なしで優しい白狼は、無自覚の悪い男だ。
リボン結びがあまりうまくない蘇芳が、白狼のリボンを見る。すると白狼も苦手なのか全部横向きや思いっきり縦になっていて、二人で声を出して笑っていた。
数個作ったぐらいで、屋敷の壁の向こうで車が通り抜ける音がして、白狼が立ち上がる。
「もう来たみたいだ。滞在期間は十分とは言っていたし急ごう」
玄関へ向かう白狼に、蘇芳は庭で遊んでいた珊瑚を急いで抱き上げてその後ろをついていく。
***
「失礼いたします。白狼さん、烏丸です」
玄関で早口のまくしたてるような声が聞こえてきて白狼は蘇芳の目を見る。
「君も珊瑚とここに居てくれて構わないのだが」
「行くよ。お茶ぐらい飲む」
出す、ではなく飲むあたり蘇芳らしかった。珊瑚が外に飛び出たそうに動くので、捕まえながら歩く。すると、立ち止まっていた白狼の背中にぶつかった。
「すぐ行きますので、客間の方に」
「ここ、客間ってあったっけ」
「俺が一人で眠っていた部屋が客間です」
蘇芳はその場所へ行こうとしたら、不自然な音に立ち止まる。
遠慮なく入ってくる足音が二つ。これには白狼も眉を顰めた。
「すまない。父の秘書である烏丸さんと、もしかしたら息子の暁も来ていそうだ」
「全然いいよ。なんでそんな渋い顔してるの?」
「暁は同い年だが軽薄で、この年でも定職に就かずふらふらして、女性に不誠実で説教してものらりくらりで、アリとキリギリスのキリギリスみたいなやつだ」
「ぷぷっ」
親父臭い説教の中、昨日マリに読み聞かせした童話を用いて表現するのが白狼らしい。
白狼らしくて可愛いと素直に思えた。
「なので、暁の方は見てはいけない。変なことを言われたら俺に行ってくれ、見つけ次第山から放り出す」
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