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四章、珊瑚の秘密 九

「山からっ」 本当に放り投げそうで大笑いすると、白狼も苦笑した。そのまま白狼が煎れたお茶を、さも自分が煎れたようにお盆に持ち歩き出す。珊瑚は白狼の匂いが着いている客間で走り回っていた。 すると煙草の匂いに思わず二人、怪訝そうに眉を顰めた。 「おい。ここで煙草を吸うな」  「ぎゃはははは、すっげ。オヤジ、見ろよ、白狼の耳っ しっぽまであるぞ」 入ってきて、すぐごつごつした指輪を何個も嵌めた指先の煙草が目につく。 次に、一応スーツを着ているものの気崩しネクタイも歪んでいるのが見えた。顔を見ると真黒な髪を肩まで伸ばし、口にピアスをしている男が白狼を小馬鹿にするように笑っている。 顔立ちは整っているのかもしれないが笑い方が不快で、お茶を置くと着物で顔を覆い隠す。 「えー、いつから耳が出てるの? 戻らないの? 仕事は?」 「烏丸さん、どうして暁を連れてきたんですか」 「唯一のご友人である白狼さんに連絡しても無視され仕事場でも会えないのでと、泣きつかれたので」 「貴方が甘やかすから、こんな風にだらしないんです」 「あはは、超酷ぇ」 白狼に煙草を奪われ、持っていた手で髪を掻き上げる。煙草の匂いが手に染みついていたのに、よく髪に擦り付けられるな。思わず不快感を隠せなかった蘇芳の顔を見て、にかっと厭らしく笑う。 「へえ、あんたが白狼が囲ってる狐?」  蘇芳は顔を背けツンとすまし顔で、答えもしなかった。 「こんなに綺麗だと話しかけても相手にされないのかよ」 ねっとりとした視線にけが逆立つ。白狼の言う通り、隠れていた方が良かった。この暁という男は何もかも白狼と反対で不快感しかない。 「白狼は硬いだろ。一緒に住んでてどうせ、手も出してもらえてないか、本気で相手にされてねえのか」 「なんで見ず知らずの貴方が分かるんですか」 尻尾をピンと伸ばし警戒するが、暁は此方をからかうのを楽しんでいた。 「だって大和の一族は、心から結ばれて一緒に血を残そうって交わったら人間になるんだよ。尻尾とか耳なんか興奮しても飛び出しては来ない」 「……本当?」 蘇芳が白狼の方を見て尋ねると、白狼は頷く。 「人間に溶け込んででも、守りたい相手と誇りができた証拠だ。だからマリと俺はまだ半人前だ」 「ふうん。――ふうん」 明らかに不機嫌になる蘇芳に、白狼は慌てるが今の状況で優しい言葉をかけるのも不誠実だと思ったのか口を噤む。 「大和さまは今週は人間側での会合と、私たち人外たちの声を聞くために黒山へ戻られる予定です。こちらに白狼さんを参加させてみては、と伺いましたら白狼さんの返事次第だとおっしゃられ」 「参加します。勿論です」

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