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四章、珊瑚の秘密 十

再び白狼は秘書の烏丸と話し出す。するとテーブルに両肘を付き、ご機嫌に暁が蘇芳を見る。 「ねえ、俺さ、ふらふらと色んな仕事して海外とか行ったりして、たまに重役さんあっちから情報売ってくれって言われてるんだよね」 「スゴイデスネ」 棒読みで返事しつつ、お茶を両手で飲む。これを飲み干した後、珊瑚をつれてお菓子詰めに戻ろうと決めていた。 「最近、環境庁に視察に来た重役さんが、珍しい種族の人外さんでさ。すっげえ。金髪でキラキラって高貴な感じ。種族隠して外国で貴族の振りしてるって言ってたかな」 「つまらない話ですね」 「人魚の末裔なんだって」 音を立てて湯飲みを落とす。弧を描きながらテーブルに落ちた湯飲みから小さな海が広がる。 海の中に見えたのは、蘇芳の兄を抱きしめる金色の髪の美しい青年。労わり、慈しみ、心から愛してくれていた。兄が幸せそうで、蘇芳も胸を焦がし喜んだ。 「蘇芳さん、大丈夫ですか? 熱くない?」 白狼がおしぼりで蘇芳の両手を包む。けれど動揺して目を泳がせてあと、不自然に笑ってしまう。 「ごめんね。思ったより熱くて」 「舌は大丈夫ですか?」 顎に親指を添えられ、頬を撫でられる。猫でもないのに喉を鳴らしてしまいそうな蘇芳に、白狼は自分の大胆な行動を恥じすぐに手を離した。 「一応、手を冷やしてきてください」 「うん、ごめんね」 「――珊瑚って言うんだって」 白狼の湯飲みでもかぶせてやろうかと手を動かすより早く、白狼が暁の胸ぐらをつかんだ。 「烏丸さん、すいません。息子さん、捨ててきます」 「どうぞ、遠くへ捨ててきてください」 「その人魚の末裔が、珊瑚って言う息子を」 「暁」  低く唸るような声の白狼に、やりすぎたと気づいた暁は黙る。反省していないのか、舌を出して烏丸に耳を引っ張られていた。 呆然とする蘇芳を残して、暴れて抵抗する暁を拳骨一つで大人しくさせ、引きずりながら外へ出ていった。 「お嬢さん、じゃなかったんですね。蘇芳さん」 一人、お茶を飲みながら烏丸が落ち着いた声で言う。 「あのバカ息子が偶に品性下劣な輩と仕事をしていたのは知っています。だから、身の危険があるなら此処にいなさい」 「でもここは、あの暁にばれてしまってる……」 珊瑚をあの人が探している。それだけで不安で吐き気が込み上げてくる中、ここに居て不安しか浮かばない。

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