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四章、珊瑚の秘密 十二

「烏丸さんは良い人そうだねえ」 「烏丸さんは信用のできる人だ。暁はちょっと特殊で非行に走ってしまったが、悪い奴ではない。怠けものだ」 白狼が深くため息を吐くのを見るに、昔から世話を焼いていたのが伺える。白狼のように真面目な人物には、暁はいい加減で気になるのだろう。 「僕、珊瑚の様子見てくるね。今日は天気がいいから庭で日向ぼっこしようかな」 「――蘇芳さん」 少し躊躇するかのように白狼が名前を呼ぶ。蘇芳も数秒、口を閉ざしていたがゆっくり取り繕うように微笑んだ。 「なに?」 「今日は日差しが強いから、帽子を忘れずに」 「はーい」 てっきり暁が話していた内容を尋ねられるかと思っていたので構えていた分、拍子抜けだ。 白狼は蘇芳を気にしていないのだろうか。伴侶にするつもりはないから深く尋ねないつもりだろうか。 悪くない反応だと思っていたので、尋ねられたら自分の性癖から感じる場所まで教えようと思っていたのに、だ。暁と言う得体のしれない男のことも知りたかったが、蘇芳から聞くと、墓穴を掘ってしまいそうで聞けない。なので白狼から聞いてくれたらよかったのに。 部屋に戻ると、珊瑚がきゅんきゅんと悲しそうな声を上げて胸にしがみついてくる。珊瑚にも暁は、嫌な男だったのだろう。 湿った、じとりとした目。こちらを観察して反応を伺っている目。どこまで知っているのか、どこまで知っているのか。イアフに接触して彼の魅力に、陶酔してしまった敵かもしれない。 「今日は僕がずぐ抱き上げられる範囲でいてくれよ」 もう暁は居ないとわかっていながらも、不安だった。安全な大和家の敷地だが、それでも珊瑚を手放したくない。 「珊瑚、ごめんね。お外に行こう」 けれど弱みはみせない。見せてはいけない。 抱き上げて庭に出ようと、玄関に向かう。すると紅赤色のリボンが巻かれた麦わら帽子と、珊瑚珠色のリボンの帽子が置いてある。即席で白狼が作ってくれたのだとすぐに気づき、胸が熱くなった。 「……白狼って優しいよね」 同意するかのように珊瑚も尻尾を振る。まだ人型に変化できない珊瑚は、身体全体を使って意思表示してくるので人間よりわかりやすい。 「お前は、兄さんより美しい人に成長するだろうね。きっと輝く太陽のような金髪でさ。……それできっと神様に会わせないようにって、閉じ込められちゃうんだ」 広い庭をうろうろし、木の下に座る。木漏れ日の下、色鮮やかな花々が咲き誇り風に揺れている。 四季が感じられそうな広い庭でその花を、プチンと音を立てて抜いてシロツメクサと一緒に編み込み花の冠を作った。 「できた。珊瑚、おいで」 珊瑚の頭に乗せると小さすぎたのか落ちてしまう。尻尾の付け根に差し込むと、ブンブン振っても落ちず、珊瑚も気に入ったのか蘇芳の周りを駆け回っている。 「綺麗な赤い花が笑っていると思ったら、――蘇芳さんか」 臭いセリフが飛び込んできたが、見れば白狼の顔は爽やかだ。柔らかく笑う白狼を、知っている人物はきっと少ないだろう。

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