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第五章 お月見泥棒 五

「ありがとう。僕、ここで降りるけど君たちは?」 蘇芳の護衛を兼ねて二人乗っていたが、蘇芳の言葉に無表情で答える。 「大和様より頼まれたので、ここで待っています。お帰りも送りますので」 「そう。忙しいところごめんね」 「いえ。お気をつけてください」 体格の良い男たちだった。大和の母親の命令に従順な様子だった。 そのおかげか、『白狼の婚約者』と白狼の母親に説明されたのもあって、丁寧な対応だった。 耳は鍔の長い帽子をかぶって隠れたうえ、中にワイヤーパニエを仕込んだAラインのワンピースのおかげで尻尾が全く目立たないで済んだ。 けれど目的を忘れた蘇芳は、優雅に歩きながら警備員の方へ向かっていく。 「すいません。ちょっといいですか?」 ふんわりと女性のように優しい口調で話しかける。すると振り返った瞬間、警備員の顔が破綻するのが分かった。 「どうしましたか?」 「夫を呼んでほしいんです。世界一格好良くて、優しくて、男らしくて笑顔が素敵な方なんです」 自慢のように惚気ると、警備員は眼を細め笑顔で頷く。 「こんな素敵な奥様を持った素敵な旦那さまですね。部署とお名前を教えてください。受付に案内しましょう」 「ありがとうございます。僕……じゃなかった私。私の旦那様は大和白狼です。これだけで分かるでしょ?」 蘇芳が白狼の名前を出した瞬間、警備員が目を丸くして驚いたのが分かった。 「見た目は怖いんじゃなくて硬派で格好いいの。怖がるなんて、貴方って雄として情けないね」 ふふんと鼻で笑うと、そそくさと受付へ逃げて行ってしまった。 随分偉そうな態度になってしまったが、彼が怖がるので白狼が悲しそうな顔をしていたのを見逃せなかった。 (っと。こっそり白狼に会いたいのに、ここまで目立っていいのかな) ただ優しい白狼が、普段どんな仕事をしていて、誰にどんなことを聞くのか知りたくなっただけの咄嗟の行動でここまで来た。 四季を美しいと感じる彼の、自分が来る前の生活を覗いてみたかったのだ。仕方なく護衛として車から降りてもらいその人と一緒に受付に向かう。 「こちら大和家の白狼様の婚約者です」 蘇芳の後ろで、サングラス姿の黒スーツ二人が護衛のようにガードし、蘇芳は余裕のある澄ました顔で受付の女性二人に微笑む。悪目立ちすぎかもしれないが、自分の武器を使い白狼を守りたいと居ても立っても居られなかった。 「白狼が家に忘れ物していったから、入ってもいい? 仕事に使いそうなの」 「えっと、良ければお預かりしましょうか?」 おずおずと受付嬢が手を出してくるので、蘇芳は露骨に眉を顰める。 「そう。でも白狼のこと、怖いんじゃないの? 怖がったりするぐらいなら自分で行きますよ」 さきほどの警備員の様子を思い出し、静かに淡々とそう言う。 「確認いたします。おまちください」

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