61 / 168

第五章 お月見泥棒 十

 極秘の資料も多くあるので人外交流課の社員は、人外としての家柄や家族まわりに人間とトラブルを起こしていないか、など様々な角度から審査がある優秀な人外ばかりだ。  空気を読んでくれるのも上手で、白狼の自称婚約者にも驚愕しつつも関わらないように距離を保っている。が、流石に目の前で抱き合うのは驚きを隠せない様子だ。 「仕事中にふざけてはいけない」 「へへ。そーなの? でも白狼の婚約者ごっこ。いろんな人に婚約者ってアピールして回っちゃった。大丈夫かな」 ふわりとスカートを風になびかせながら蘇芳が入ってくる。ヒナの服を借りたのだろう。少し大きなサイズなのかワンピースから白い肩がチラリと見える。長い手足も美しく、女性だと言われたら信じてしまいそうな美しい様子に、呆然としている。 猫田部長を探せば、給湯室で他の社員とお菓子を用意している。 「僕ね、こんなに人間見たの初めてだよ。人酔いしそうだった」 「こんな人目が多い場所に来て、大丈夫だったんですか。慎重さに欠けていませんか」 「大丈夫だよ。護衛もつけてるし、車も会社のギリギリまで乗ってたから」  白狼が頭を押さえて首を振った理由を、蘇芳は分からないままだろう。  つまり蘇芳は、隠れなきゃいけないと豪語しておきながら目立つ登場、警護を連れて特別な存在感を醸し出し、白狼の婚約者だと挨拶して回ったわけだ。  蘇芳さんは分かっていない。人外は上手に人間として生きている者たちもいる。中には、知恵をつけた暁みたいな者もいるのに。  暁という言葉に、本渡が電話をしながら慌ててまたメモ書きを走らせだした。 『外交官のサポートに、烏丸暁がいたよ。環境省が用意したサポートではなく彼が勝手に動いてる』  本渡の話に、白狼は頭痛を感じて眉間を摘まんだ。  

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!