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第五章 お月見泥棒 十二

蘇芳はすぐに振り返り、猫田美朝の方を見る。 「ねえ、聞いた? 今の僕へのプロポーズだよね」 「まあ無自覚そうだけど、そう聞こえるよね。言質とっておきな」 「部長さん、僕と白狼の愛の生き証人だからね」 「まあ、生きてなかったら証明できないしねえ」 「やったーっ」 嬉しくてはしゃぐ蘇芳に、言い訳もしない。少し困った様子が、照れているようにも見えた。 「蘇芳さん、まだ何も解決していないので、急ぎましょう」 「うん。車は下にあるよ」  嬉しくて胸がじわりと熱くなる。心に湧き出てきた熱い思いが、じわじわと侵食していくのが分かる。  その侵食に、身体が熱くなる。嬉しくてついはしゃいで誤魔化したが、油断するとまた涙が出てきそうだったのでそうするしかなかった。 「部長さん、なんか、可愛い人だね。渋くて格好いいけどなんか縁側で日向ぼっこしてそう」 「あながち間違いではないが、猫田部長は尊敬できるよ。知識もある、経験もある、誰よりも長く生きているのに世界を悲観しないで達観されてる」 「……ふうん。長生きってどれぐらいだろー。僕は肌が荒れるのいやだなあ」  エレベーターの前に行くと、車を運転してくれていた二人が待っていた。  白狼が『佐奇森さんと黒曜さん』と紹介してくれた。  蘇芳が腕に絡みついたまま反対の手で頬をさする。すると、護衛が咳ばらいをし、居づらさせおうに二人の後ろを付いてくる。 「すまない。先に車を持ってきて頂けると助かります。蘇芳さんは俺が守りますので」 (『すまない』って口癖かな。なんかピンと張り詰めた緊張感があって格好いいな)  まじまじと見上げると、一ミリも迷いのない澄んだ目がある。この目で見られると、自分の汚い部分が見透かされそう。だから人は、彼を怖がり避けているのかもしれない。  兄が持っていたビー玉よりきれいだな、と見上げる。  すると思いが通じ合ったかのように白狼が微笑む。 「蘇芳さんはしわくちゃの老人になっても、可愛らしいと思いますよ」 「え」 「俺がしわくちゃになっても、隣で笑っていてほしいと願わずにはいられない」  エレベーターのボタンを押しつつ、躊躇なく言えるその精神力に敬意を示さずにはいられない。 「なんでしょうね。自分の種族とか運命とか受け入れてる貴方も健気で、けれど心も強くてきれいだなって思うのですが、反対にその部分が嫌だと思う自分もいる」 「あらま。認めてくれるけど嫌なんだ?」 にやにやと笑うと、エレベーターが開き自然な振る舞いで中までエスコートされた。 「嫌に決まってる。大切な人が自分の子を産んで、亡くなるなんて。きっと嫌じゃない人はいない」

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