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第五章 お月見泥棒 十四

 けれど交わらなくていい運命も、畝っている運命の前に吸い寄せられるように近づいてきていた。  SPが車の扉を開けると、白いスーツのズボンが見える。  よくよくみれば、銀色。リムジンも銀色だ。  蘇芳の兄が好きになった人の国では太陽の色は銀色で描かれる。イアフの故郷では太陽は銀色。そしてイアフの髪は、流れ落ちる川のように真っすぐで美しい銀色。まるであの人を崇めるように、銀色で描いていく。  白狼に抱き着いた手に力を籠める。が、重なった手の間が緊張で湿っていく。 「驚いた。君を探してもらおうと環境庁の特別人外保護課に来たのだが」 目を細め、嬉しそうに微笑んでいる。 「君から会いに来てくれるとは嬉しいよ。――スオウ」  あの日、空を裂くように泣いていたイアフが、兄が居た頃のように穏やかで優しい顔つきで、両手を広げると微笑んでいたのだった。

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